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.国際  投稿日:2021/6/13

香港民主化の女神、周庭さん釈放


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・香港民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんが刑期前に出所。

・周氏は今後も国安法による訴追の可能性もあり、沈黙せざるを得ない。

・日本では超党派の議連により、人権問題について議論始まるも成果はまだ。

 

6月12日午前、収監されていた香港民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんが出所した。去年12月、反政府デモなどに関連した罪で禁錮10カ月の実刑判決を受けていたが、刑期前に釈放された。

雨が降る中、朝早い時間から100人以上のメディアや支援者が集まり、午前10時過ぎに刑務所から出てきたバスから降りて来た周氏。支援者によると、「頑張って!」との声が飛ぶ中、周氏はめがねを取ってあたりを見回したという。その後、無言で迎えの車に乗り刑務所を後にした。

▲写真 車に乗り、刑務所を後にする周庭氏(2021年6月12日) 出典:Anthony Kwan/Getty Images

2019年11月の香港区議会選挙で民主派が大躍進した時、現地入りしていたJapan In-depth取材班に投票日翌日、周氏から日本メディアに対して記者会見を行うと連絡が来た。我々は市内から周氏の住む郊外の街へと移動し、インタビューを行った。

民主派の勝利について感想を求められた周氏は、「私たちの活動はまだスタートに立ったに過ぎない。明日にでも、政府はまた権力を乱用して、弾圧などよくないことをするのか、全く予測できない状態だ」とした上で、「確かに今回の結果は、中国政府や香港政府、親中派にも大きなプレッシャーになると思う」と述べた。(参考記事:民主派大勝利、香港区議会選挙

周氏が懸念した通り、当局は民主派への支持が急拡大したことに危機感を強め、国家安全維持法の成立を促進する形になってしまった。結局、同法は2020年6月に成立し、民主派に対する締め付けは強化されることになった。

2020年2月、周庭さんはJapan In-depthのライブ配信番組にもオンラインで出演した。(Japan In-depthチャンネル:民主化の女神アグネス・チョウさんに聞く 香港の今!

周さんは番組内で、「この8年間(民主化運動に)参加してきたが、香港には民主主義、自由の保証、人権の保証、法の支配がない。それが全く変わっていないことが香港人としてとても悲しい」「我々の要求は基本的なものだ。それは民主主義。私たちは自ら政府を選ぶことができない。戦わないと苦しむ人がもっと増える」と決意を語っていた。「(日本で)私のSNSをフォローしてくれている人もたくさんいるとは思うが、やはり私自身が海外の国に行って発信できたら一番良いと思う」とも。

▲写真 明治大学で講演する周庭氏(2019年6月12日) 出典:Keith Tsuji/Getty Images

この時点で周氏はパスポートを取り上げられており、海外渡航は既に出来ない状態だった。それでもYoutubeの「周庭チャンネル」を開設するなど、日本語でフォロワーに語りかけ続けていたが、今後周氏はさらに国安法により訴追される可能性もあり、そうした発信はほぼ不可能に近い。

こうした中、日本では超党派による「対中政策に関する国会議員連盟 (Japan Parliamentary Alliance on China:JPAC)」(共同代表:中谷元衆議院議員と山尾志桜里衆議院議員)が、2020年から人権制裁法などの成立に向け議論を重ねている。また、今年4月には「人権外交を超党派で考える議員連盟」も設立されたが、成果はまだ出ていない。日本のすぐそばで起きている人権侵害に対し、日本外交は何をすべきなのか、議論を加速させ、具体的な行動に結びつけていくべきだ。今、国会のあり方が問われている。

出所後、周庭氏はInstagramに写真は投稿せず、真っ黒な画面にこうコメントを書き込んだ。

「半年と20日間の苦しみがようやく終わりました。雨の中、ここまで来てくれた皆さんに感謝しています。この間に体が細くなってしまったので、ゆっくり休んで元気になりたいです(苦笑)」

トップ写真:釈放されたアグネス・チョウ(周庭)さん 2021年6月12日 出典:Anthony Kwan/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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