米台中三極関係を読む(上)~中国はバイデン政権の台湾政策に不満~
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・バイデン政権の対中政策についてサター教授に話を聞いた。
・バイデン政権はトランプ政権の台湾政策を継承し、オバマ政権などの台湾政策とは大きく異なる。
・中国政府はいまのバイデン政権の台湾への姿勢には不満。
アメリカと中国の関係が緊迫するなかで、とくに危険そうな火種は台湾問題である。アメリカが台湾に対してどんな政策をとるのか。その動きを中国は固唾を飲んで監視の目を注ぐ。中国は台湾の独立というような事態が起きれば、武力を使って阻止することを宣言しているのだ。
台湾問題は日本にも重大な影響を及ぼす。今年4月の日米首脳会談で菅義偉首相は台湾の平和や安全が日本にもかかわることを認めた。台湾をめぐってアメリカと中国がいざ軍事衝突というような事態となれば、日本もその渦中にほぼ自動的に巻きこまれるという意味でもあろう。
米台中三極関係ではそれほど台風の目となる台湾に対してアメリカのバイデン政権はどう対処していこうというのか。トランプ前政権が台湾には歴代のアメリカ政権よりも一段と接近する姿勢をとったが、バイデン政権はその政策を継承するのか。その場合、中国はどう対応するのか。
米中関係の基本には年来、「一つの中国」という原則がある。アメリカと中国とそれぞれその解釈は異なるのだが、おおざっぱにいえば、中国全体を代表する唯一の合法政府は中華人民共和国であり、台湾はその一部に過ぎない、という趣旨の原則である。バイデン政権の政策ではその「一つの中国」原則はどうなるのか。
こうした米台関係にかかわる多数の課題についてアメリカ側の中国問題や米中関係の権威ロバート・サタ―氏にインタビューして、見解を尋ねてみた。
▲写真 ロバート・サター教授(左)2010年8月10日 出典:flickr:US Embassy New Zealand
サタ―氏は1970年代からアメリカ政府の国務省や中央情報局(CIA)、国家情報会議で中国の対外政策分析やアメリカの対中政策形成を担当してきた。とくに中国の対外戦略の分析では全米でも有数の実績を有する大御所である。現在はジョージワシントン大学の教授だが、なおアメリカ政府の対中分析に関与する。
サタ―氏の一問一答は以下のようだった。
――まずバイデン政権の台湾に対する姿勢をどうみますか。トランプ前政権の台湾政策とくらべてどんな特徴がありますか。
サタ―氏:「バイデン政権の中国に対する政策全体はトランプ前政権のそれとは異なる側面も多いが、台湾への態度はあまり違わないといえます。バイデン政権はトランプ政権の台湾政策を継承したともいえるでしょう。
具体的にいえば、まず安全保障面です。バイデン政権は中国の台湾への軍事威嚇、つまり戦闘機などの台湾の防空識別圏への侵入や、中国軍の南シナ海での軍事挑発行動に対して、アメリカ政府の高いレベルでの抗議を一貫して述べ、南シナ海ではアメリカ海軍の艦艇を頻繁に投入し、中国への抑止の意思を表明しています。
外交面ではバイデン政権のトップレベルの高官たちが台湾の民主主義を国際的に賞賛しています。同時にアメリカ政府の現旧高官らを台湾に派遣しています。いずれも中国政府が嫌がる言動であり、台湾の外交的な地位の高揚にもつながります。
さらに経済面ではバイデン政権は中国とのハイテク競争における台湾の価値の高い評価を頻繁に表明し、半導体などの分野での実際の台湾との協力を進めています」
――そういうことであれば、中国政府はいまのバイデン政権の台湾へのアプローチには反対、おもしろくない、というわけですね。
サタ―氏:「バイデン政権のこの台湾への接し方はトランプ政権の態度には似ていても、それ以前のオバマ政権などの台湾政策とは大きく異なります。だから中国政府はいまのバイデン政権の台湾への姿勢には不満です。オバマ政権までは中国側が求める『一つの中国』政策を忠実に保ってきたといえます。とにかく中国側の態度を重視して、中国が嫌がることはしない、という基本でした。ところがいまのバイデン政権は違うのです」
(中につづく。全3回)
トップ写真:日米首脳会談(ホワイトハウスにて 2021年4月16日) 出典:Doug Mills-Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。