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.国際  投稿日:2021/6/22

プーチン氏、バイデン氏に一目


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#25」

2021年6月21-27日

【まとめ】

・6月16日に米露首脳会談が行われた。

・会談は気力、体力ともに好調のバイデン氏が優勢。

・プーチン氏「バイデン氏はプロフェッショナル」と賞賛。

 

先週はビッグイベントが二つあった。
第一は6月16日の米露首脳会談、第二はイランの大統領選挙だ。前者については、久し振りに見た「世界ヘビー級タイトルマッチ」の感がある。プーチンが冷徹非情の世界チャンピオンとすれば、バイデンは遅咲きながら、世界チャンピオンも一目置く高齢でながら経験豊富なボクサーだ。

この勝負、筆者の採点では10対9でバイデンが第一ラウンドを取った。つい2年前までは足腰の衰えが目立つ引退寸前の老政治家に見えたバイデンだが、今回ジュネーブでは気力、体力ともに絶好調だった。やはり、権力とスポットライトほど政治家を元気付ける栄養剤はないのか。このことはプーチン自身も認めている。

首脳会談後、プーチンはこう語ったそうだ。「バイデン氏がとても経験豊かだと確信した。プロフェッショナルで、建設的で、バランスの取れた人だ。バイデン氏は元気に見えた。彼は物事を完全に熟知している。バイデン氏はプロであり、何一つ見逃さないと断言できる。」プーチンがバイデンにここまで賛辞を送るとは正直思わなかった。

これに対し、バイデンがプーチンを高く評価したかどうかは不明だが、ある程度の手応えは感じただろう。バイデンの発言で今回筆者が最も感心したのは、プーチンを信頼できるかと記者に聞かれ、「これは信頼ではなく、自己利益の問題だ」と答えたことだ。両首脳の丁々発止のやりとりはどうだったのか、気になるところである。

先週のもう一つのハイライトがイランの大統領選だった。
6月18日に実施されたイラン大統領選は、大方の予想通り、反米で保守強硬派のライースィー司法府代表が得票率62%、約1790万票を獲得して圧勝した。保守強硬派の政権奪還は2期8年ぶり。穏健派ロウハーニ大統領に代わり、8月には新大統領が就任する。

▲写真 イラン新大統領となるライースィー氏(テヘラン 2021年6月6日) 出典:Majid Saeedi/Getty Images

ライースィーは60歳の反米保守強硬派、北東部マシャド出身のイスラム法学者である。司法府検事総長などの要職を歴任後、2019年には司法府代表に就任。知名度の高いイスラム法学者として保守強硬派から支持を集め、82歳の最高指導者ハーメネイの後継候補でもあるらしい。

どうやらこの次期大統領、18歳でイラン革命に参加して以来、一貫して保守強硬路線を貫いてきた、コテコテの反米政治家のようだ。こんな人物が自然発生的に大統領に上り詰めたとは到底思えない。ハーメネイ最高指導者はイスラム革命の守護者であり、イランイスラム共和制を維持するためなら、文字通り何でもするのだろう。

米露首脳会談については毎日新聞政治プレミアに、イラン大統領選挙については日経ビジネスオンラインに、今週それぞれ小論を寄稿した。ご関心のある向きは是非ともご一読願いたい。もしかしたら、10年後に現代史を振り返れば、2021年6月が国際情勢の重要転換期だったという評価になるかもしれないので・・・。

〇アジア

香港の民主系「蘋果日報(アップル・デイリー)」が、国家安全維持法違反容疑をめぐる捜査で同社の資産が凍結されたため、数日以内にも事業閉鎖を余儀なくされる見通しだと報じられた。遂に来るものが来たということか。今後香港は急速に「本土化」していくのだろう。実に空しい。実に悲しい。

〇欧州・ロシア

ミャンマー国軍トップがモスクワで開かれる国際安全保障会議に出席するためロシアに向けて出発したそうだ。総司令官の外遊は4月のASEANA臨時首脳会議に続き2度目だが、訪問先が中国ではなくロシアというのも、実に興味深い。それなりに考え抜かれた外遊なのだろう。

〇中東

イスラエルで12年振りで誕生した新政権が2日続けてガザ地区ハマース拠点を空爆したという。停戦から1か月を迎えたのに、攻撃の理由は一体何だろう。極右系ベネット新首相の意向なのか、それともイランの保守強硬派大統領誕生を見据えた措置なのか、それともハマースに新たな動きが見られるのか。要注意である。

〇南北アメリカ

米国では、バイデン大統領の6兆ドルの巨額インフラ投資計画をめぐり、超党派の合意が形成されつつあるらしい。ところが、悪魔は詳細に宿るのか、今度は民主党内リベラル系議員と大統領の関係がギクシャクしているという。それにしても、米国の予算審議は本当に複雑だ。米国式が良いのか、日本式が良いのか、分からなくなる。

〇インド亜大陸

インドのオリンピック委員会が、東京の組織委員会によるインド選手などへの3日間隔離方針を「極めて不公平」として改善を求めているらしい。誤解に基づくエピソードであることを祈ろう。本番が近付けば、この種のトラブルは急増する。皆さま、本当にお疲れ様です。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:米露首脳会談でのバイデン米大統領、プーチン露大統領(ジュネーブ 2021年6月16日) 出典:Denis Balibouse – Pool/Keystone via Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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