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.国際  投稿日:2021/7/9

人口減の中国「寝そべり族」出現


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

「澁谷司の東アジアリサーチ」

【まとめ】

・月収1,000元が6億人(人口の約43%)いる中国が「小康社会」実現は本当か。

・子供「3人まで」政策でも人口減少の一途。教育費高騰などが影響。

・あえて頑張らない生き方の「寝そべり族」出現。中共には頭痛のタネ。

 

今年(2021年)、中国共産党は結党100周年を迎えた(1921年7月23日、同党は上海で結党)。7月1日、習近平主席「小康社会(ややゆとりのある)の実現」を宣言している。

2016年3月、王岐山中央紀律委員会書記(当時)が、第13次5ヶ年計画(2016年~2020年)で「小康社会」を実現するという目標を掲げた。

ところが、昨2020年5月28日、李克強首相は、全国人民代表大会の記者会見で「中国には月収1,000元(約1万7,000円)の人が6億人もいる」と暴露したのである。

月収1,000元という事は、年収1万2,000元(約20万4,000円)にしかならない。この月収では、1キロ30元(約510円)以上もする肉は食べられない。また、中小都市の1ヵ月分の家賃にもならないだろう。

はたして、月収1,000元の人々が6億人(全人口の約43%)も存在する中国が「小康社会」を実現したと言えるだろうか。

▲写真 ゴミ捨て場で、リサイクルできるゴミを集めて生計を立てる母親と、その子供。(2004年11月23日 中国・北京) 出典:Cancan Chu/GettyImages

昨2020年、習近平政権は、GDP目標数値さえ打ち出す事ができなかった。それにもかかわらず、中国共産党は昨年のGDPをプラス2.3%と公表している。この数字は、にわかには信じがたい。

周知の如く、中国は「新型コロナ」発症国である。中国共産党は、昨年1月のコロナ発症地である武漢市を皮切りに、全国各地でロックダウンや半ロックダウンを実施した。現在に至っても、地域によっては、未だそれが継続している可能性を排除できない。

昨年1月から現在に至るまで、中国では移動が厳しく制限された。例えば、農民工(2020年には約2億8,560万人。前年比、517万人減少)だが、働いていた元の地域へ戻れない人も多く存在したのである。農民工の不在で、生産に支障が起きた工場も少なくなかったのではないか。

以上のように、中国では、消費も投資も冷え込んだ。世界各国では軒並みGDPがマイナスになっている。中国のGDPだけがプラスになるという事は常識的には考えられないだろう。

さて、今年(2021年)5月31日、中国共産党は、今後1カップル「3人までの子供」を承認した。新生児数が年々減少傾向にあるための措置である。

1979年、中国では1カップルにつき1人の子供しか産み育てる事ができない「一人っ子」政策が開始された。そして、2014年までの35年間、ずっと「一人っ子」政策が継続された。その間、様々な問題が噴出している。例えば、女性への強制的人工中絶が行われたり、あるいは、戸籍を持たない「闇っ子」が生まれたりした。

2016年、中国共産党は、1カップルが2人まで産み育てる事のできる「二人っ子」政策を導入している。けれども、その甲斐もなく、子供は増えずに、逆に減少した。

『地産鋭観察V』の記事「人口出生率断崖式下跌,対楼市意味着什么?」(2021年3月4日付)によれば、2000年以降、2016年には新生児が1,786万人で、1番多く誕生した年となった。だが、2017年には1,723万人、2018年には1,523万人、2019年には、1,465万人と減少し、2020年は1,004万人(?)まで激減した。昨年は、前年比461万人減で、31.5%も減少している。

ジャーナリストの中島恵氏は、中国の新生児減少には次の要因が考えられると喝破した。 (1) 物価・生活費(不動産・教育費など)の高騰、(2)ライフスタイル、人生観の変化、(3)結婚率の低下、晩婚化、である。

2017年、北京大学中国教育財政科学研究所が実施した調査(『CRI』「中国家庭教育支出調査『収入は教育需要に影響』」2018年1月15日付)によれば、「全国の就学前教育と小中学生教育の一人当たりの年間平均支出は8,143元(約14万円)で、中でも農村部は3,936元(約6万8000円)、都市部は1万100元(約17万4,000円)」にもなったという。

また「小中学校段階の学生による塾など校外教育の参加率は47.2%に達し、塾の学生の一人当たり年間平均支出は5,616元(約9万7,000円)」だったという。

ごく最近、中国共産党の政策に真っ向から、抗う若者達が登場した。「寝そべり族」(「躺平族」。あえて頑張らない生き方をする若者)という“新人類”である。

▲写真 テレビゲームをする中国の若者(イメージ) 出典:Robertus Pudyanto/Getty Images

彼らはマンションを買わない、車も買わない。結婚をしない、子供も産まない。そして、ほとんど消費しない。最低限の生活を維持し、他人の金儲けの道具になったり、搾取の奴隷になったりしないようにする。

彼らは、アルバイトをして、ぎりぎりの生活維持をしながら、ゲーム等、自分のやりたい事をして過ごす。決して大きな夢や野望は抱かず、慎ましやかに生きて行く。ある意味、自由、気ままなライフスタイルと言えよう。他方、見方によって、このライフスタイルは、「非暴力による政府への抗議」と言えなくもない。

中国共産党は「寝そべり族」の生き方を非難する。だからと言って「もっと一生懸命に働け」とは命令できない。彼らの生き方は法に抵触する訳ではないので、同党としても、簡単には彼らを収容所送りにできないだろう。今後、こういう若者が増加すれば、中国の経済成長が見込めないし、国力が衰退するのは間違いない。政府としても頭が痛いのではないか。

トップ写真:中国共産党100周年式典。スクリーンの中の習近平国家主席のスピーチに耳を傾ける人々(2021年7月1日 北京) 出典:Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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