仏、アフガニスタン難民の対応
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・欧州では、シリア内戦を前例とし難民の受け入れと不法移民への対応が問われている。
・フランスでは、難民申請者は必ずしも永久的に滞在が許可されるわけではない。
・首都カブールでは、避難希望者が救助を待つ状況が続く。
アフガニスタンでは、反政府武装勢力タリバンが首都カブールを制圧し、15日(日本時間16日早朝)、政府に対する勝利を宣言した。また、ガニ大統領が出国したことにより、事実上、政権は崩壊したのだ。
この事態を受け、16日、フランスのマクロン大統領がテレビ演説を行った。アフガニスタンの不安化において、「最優先の緊急課題は、在留フランス人とフランスのために働いたアフガニスタン人の安全確保」であることを明言した。そして、「助けが必要な人々の受け入れをする」とした上、「欧州に向けて大量に移民が流出する危険がある」と、対応の必要性を訴えたのだ。
■ 難民受け入れと、不法移民への対応
ヨーロッパは、2015年にシリア内戦がおこった際、シリア難民が押し寄せてきたことで大混乱に陥った。100万人を超える群衆が押し寄せてきたことで、移民の対応をめぐりEUの団結にも大きく影響を及ぼしたのである。そのため、アフガニスタンの不安化によって同様な事態になることが懸念されているのだ。
特に、難民の受け入れを強調したドイツやフランスには、難民対象者だけではなく、続々と不法な移民希望者が集まってきたことも問題になった。このため、今回はマクロン大統領も、不法移民に対する対応を厳粛に行っていくことを強調したのであろう。ドイツのホルスト・ゼーホーファー内相によれば、今回、30万~500万人のアフガン難民がヨーロッパに向かう可能性があるとしている。マクロン大統領は、こういった移民の波に「確固たる対応」するべく、アフガン難民が途中で通過すると考えられるトルコを含む各国と協調していく意向を示したのだ。
フランスでは、すでに難民の受け入れを承諾している自治体も多く、助けが必要とされた難民は受け入れ先に行く体制が整っている。しかしながら、この難民受け入れに対して、右翼の一部では真っ向から反対している人たちもいる。「国民戦線」(FN)党首のマリーヌ・ルペン氏もその一人だ。
▲写真 「国民戦線」(FN)党首のマリーヌ・ルペン氏(2021年6月27日) 出典:Photo by Sylvain Lefevre/Getty Images
同じくフランス南東部ニースのクリスチャン・エストロジ市長に至っても、ラジオRTLの番組で、アフガニスタンからの難民受け入れについて、ニース市民の安全が懸念されるため断固として拒否する姿勢を示した。ニースでは、2016年7月14日にニースの海岸沿いにある遊歩道プロムナード・デ・ザングレにて、群衆にトラックが突入し、86人が死亡するテロ事件が起こっている。その経験を踏まえ、「難民を受け入れたくない」としているのである。しかしながら、実際のところは受け入れを拒否できるかは不確かである。
■ アフガニスタンからの難民申請者の状況は?
現在の、フランスにおけるアフガン難民による申請状況や、その後の判断はどのようなものとなっているのだろうか?
フランスで政治亡命を求めるアフガニスタン人による申請は、2020年には10364件あり、そのうち64.6%が無国籍者保護局(Ofpra)によって受理された。2021年は現在までに5700人が申請しているが、今年はアフガニスタンの状況が悪化していたため、89%の申請が受理されている。
しかしながら、申請が受理されても、自動的に難民認定が付与されるわけではない。2020年の場合、86%は、「補助的保護」の資格のみだ。補助的保護というのは、状況がジュネーブ条約に記されている難民としての定義を満たしていないが、死刑や拷問を受ける危険や、紛争により生命の脅威にさらされている民間人という根拠が証明された人に提供される資格である。
「難民」の場合は、10年有効な滞在許可書が発行され、問題がなければそのままフランスに滞在できる。しかし、「補助的保護」の場合は、最長4年有効の滞在許可書が発行されるのみとなっており、永久的な滞在が保証されるわけではないようだ。
■ アフガニスタンからのフランス人及び関係者の退避状況
アフガニスタンの首都カブールでは、フランス人及び関係者の退避作戦が行われている。
カブールのフランス大使館の建物内に避難していたフランス人とアフガニスタン人は、火曜日にタリバンとの同意の上、11人のフランス国家警察特別介入部隊(RAID)の護衛を伴い350人近くが空港に移動した。
その後、17日火曜日には、第一陣としてチャーター機(軍用機)がパリ=シャルル・ド・ゴール空港(ロワシー)に41人のフランス人を運び、18日水曜日には、通訳、料理人、運転手など、フランスのために働いていた現地民を含む、216人(フランス人25人、アフガニスタン人184人、その他7人)、19日には、138人(フランス人13人、アフガニスタン人124人)がフランス向かった。到着した避難者は、ワクチン接種が終わっていない者は隔離後、ワクチン接種者はそのまま、各受け入れ先に向かう。
しかし、カブール市内には、まだ避難希望者がおりフランス政府に救助を求めている者もいる。タリバンが外国に協力者した人物を家を一軒づつ回って探しているという情報もあり、見つかった場合、何をされるかとおびえる毎日を送っているが空港にも行けないという。
実際、フランス大使館は空港内で業務を行っているが、タリバンのメンバーは、渡航に必要な書類を持っている人も含めて人々が空港の敷地に入るのを阻止しているため、どれだけの人が空港にたどり着けるかはわからない。米国は、安全なアフガニスタン人の国外脱出を要求している。
今後は、空港以外からの国外脱出者が出てくることも予想されるが、それは、これからタリバンが反抗的な意見を持つ人々や、女性をどのように扱うかにもよるだろう。タリバンの挙動は、アフガニスタンに人々だけではなく、国際社会が注視していくことになる。この何週間は特に目が離せない状況であることは間違いない。
<参照>
フランスではアフガニスタン人の亡命申請が毎年1万件もあるのですか?
トップ写真:食料の配給を受ける難民(2021年7月30日 フランスダンケルク) 出典:Photo by Kiran Ridley/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。