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.国際  投稿日:2023/11/21

仏、移民法案の審議が再開


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・11月6日からフランスで移民法案の審議が始まった。

・国外退去命令を出せない外国人が犯罪に走っている現状を打開し、国民の安全を確保するという背景がある。

・法案は上院を通過したが、今後のフランスの動きに注目したい。

 

フランスでは、何度か延期されてきた新しい移民法案の審議がようやく11月6日から始まった。この法案を推進しているジェラルド・ダルマナン内務大臣は、審議が始まるにあたり、「追放すべき人を迅速に追放し、歓迎すると決めた人たちをもっとうまく統合していきましょう」と、呼びかけた。まさにこの言葉が今回の法案の内容を要約している。

フランスでは今まで多くの移民を受け入れているが、近年、「不法滞在者、および、フランス国内で問題を起こす外国人」が、特に問題になっている。基本的にはもちろん不法滞在者や、問題がある外国人は、「領土を離れる義務OQTF)」を命令されて、命令を受けてから30日以内にフランス領土を離れる義務があるのだが、OQTFを出されてもフランスに居続ける外国人も多い上、OQTFをだせない立場の外国人がいるのだ。そういった状況を改善することでテロ発生を防ぎ、国民の安全を確保していきたいとしている。

例えば、その壮絶さでフランス中を震撼させた2022年10月に起きた12歳少女の殺害事件は、OQTFを出されたのにもかかわらずフランスに居続けた外国人が起こした事件であった。名前を「ローラ」とのみ公表されている殺害された少女は、パリ北東部で行方不明になった後、スーツケースに遺体が詰め込まれた状態で発見された。この事件の容疑者はアルジェリア人女性で、親族のアパートにローラさんを誘い込み、シャワーを浴びさせた後、性的暴行を加えて殺害したというのだ。女性は、同年の8月にはOQTFを命令されており、もし厳格に命令が遂行されていれば、事件が起きた10月にはフランスに居なかったはずの女性なのだ。そこで、「もしこのアルジェリア人女性がフランス領土にいなかったとしたら、ローラはまだ生きているでしょう。」と、保守派や極右政党から大きな批判を受けた。

さらに2023年10月には、強制送還されるべき人物がフランス北部の高校を襲撃し、教師1人を殺害した。(参照:仏、中東情勢受け、不穏な空気に包まれる) しかも、この男性は強制送還されるべき外国人だっただけではなく、問題がある人物として、監視対象者とされていた人物であったのだ。このことを受け、不法滞在者、および、フランス国内で問題を起こす外国人を、迅速に国外退去処分させることを求める声はさらに高まったのである。

さらにこの近年、フランスでのOQTFの執行数は増加したものの、その割合は減少しているという問題もある。減少の理由はいくつかあるが、その中でも、特にマグレブ諸国を中心とした特定の国が強制送還に不可欠な領事館パスの発行を拒否していることが大きい。

しかしながらOQTFを執行できない理由はそれだけではない。高校を襲撃した容疑者の男性の場合は、ウクライナ戦争が関係している。戦争の影響で2022年2月末にはロシアへの強制送還は停止されたためフランスに滞在せざる負えなかったのだ。

また、問題を起こす外国人に対しても滞在許可書の有無は関係なくOQTFを執行できるが、全員に対してできるわけではない。未成年者、フランスに20年以上滞在者、フランス人と少なくとも3年結婚している場合、フランス在住の未成年のフランス人の子供の親、健康状態に注意が必要な人には適用されない。

こういった事情から、行動などに問題が認識されているにもかかわらず、現在、フランスでは約6000人の外国人に対して国外退去命令を出せない状況だ。

審議されている法案では、前述したような問題点を解決しつつ、フランスが必要とする外国人を迅速に確実にフランスに根付いてもらうことを目的としている。

■上院を通過した法案の概要

上院で認められた主な内容は下記となる。

国家医療補助AME)の廃止

これはおそらく、上院での議論の中で最も議論を呼んだ投票だ。

国家医療補助(AME)というのは、滞在許可証または現在の滞在許可申請を証明する文書を持たない状況の外国人が治療を受けられる恩恵を受けることを可能にする制度だ。移住条件と財産に応じて受けられ、認定されれば一年間医療補助を受けられる。更新は毎年必要。

これはマヨット島を除くフランス領土全体に適用され、年間9億3500万ユーロの費用がかかり、医療支出の約0.5%に相当する。ちなみに、亡命規模者はまた違う制度に適応されるので、AMEの対象者ではない。

上院では採択されたものに、現在、AMEの廃止に反対する意見も多く、国会でさらに慎重に議論されることになると予測されている。

• 不足している職業の不法労働者に対する滞在許可について

この居住許可は、フランス本土に少なくとも3年間滞在し、過去24か月間に少なくとも8か月の専門的経験があるなどの特定の条件の下で自動的に発行されることになっている。今回、この制度を削除し、居住許可なしで働く移民を「例外的な」方法で正規化する新たな条項を設けた。

正規化の資格を得るには、外国人は過去2年間に少なくとも12か月間、仕事に従事し、また申請時に職業上の活動を行い、少なくとも連続3年間フランスに居住していなければならない。

ジェラルド・ダルマナン氏は、この決定が「政府の望むもの」に近い「妥協」であると見なし、この決定を歓迎した。

• 「生地主義」による国籍取得の廃止

フランスは、フランスで生まれた子供に国籍取得を認める「生地主義」を取っていて、現在は、18歳になれば自動的にフランス国籍を取得できるが、今回の法案で、「フランスで外国人の両親から生まれた子供は、16歳から18歳までに本人が希望を表明した場合のみ、フランス国籍を取得できる」と、変更。採択された修正案ではさらに、「6か月以上の懲役刑を言い渡された場合」若者はフランス国籍を取得できないとした。

• OQTF に対する制限の終了

フランスと特別な関係を築いてきた外国人に対する保護を削除。現在、フランス人と結婚した外国人や、13歳未満でフランスに到着した外国人などは、OQTFを遂行できないが、これを可能にする。

• 家族呼び寄せを制限する

家族呼び寄せの申請を提出する期限が18か月から24か月延長。収入状態も、現在のように「十分安定している」ではなく、「規則的であること」が必要となる。

• 難民申請が却下された時点でOQTFを発行

難民申請が第一審で却下され次第、控訴の可能性を待たずにただちにOQTFを発行する。そして、この拒否により、国民皆保険(PUMA)に基づくケアの適用が即座に中断され、難民申請者受入れセンター(CADA)からの退去を要請することとする。

■今後の展開

法案はすでに1月14日に上院は通過しており、今後は11月27日の週に法務委員会で審議され、12月11日から22日まで国民議会の公開会議で審議される予定だ。

だが、上院は通過したものの、実際には、これからが本当の戦いの始まりとも言える。

フランスの法案の審議のプロセスでは、この後、国民議会で話し合われ、そこで却下された場合、上院に戻して再度審議が行われ、また国民議会に送って審議という流れとなっているため、上記の内容が全てこのまま採択されるわけではない。全ては、今後の話し合い次第で決まるのだ。

フランス国民の安全を守るためにフランスが下す不法滞在者、および問題がある外国人に対する決断は、同様の問題が増加し始めている日本にも参考になるポイントもあるだろう。今後のフランスの動きに注目していきたい。

 

<参考リンク>

https://x.com/GDarmanin/status/1721649368414007346?s=20:『移民法案では、手続きを大幅に簡素化したいと考えています。すぐに「はい」か「いいえ」を言いましょう。追放すべき人をもっと早く追放せよ。歓迎すると決めた人たちをもっとうまく統合しましょう。(ジェラルド・ダルマナン内務大臣)』

https://www.radiofrance.fr/franceinter/loi-immigration-ce-qui-a-ete-ajoute-et-ce-qui-a-ete-retire-par-les-senateurs-du-projet-de-loi-initial-6576012:『医療補助、居住権、家族再統合…。上院で採決された移民法案の中身』

https://www.francetvinfo.fr/societe/immigration/projet-de-loi-immigration-suppression-de-l-ame-expulsions-droit-du-sol-ce-que-contient-le-texte-qui-doit-etre-vote-par-le-senat-aujourd-hui_6181206.html:『移民法案:AMEの廃止、国外追放、ジャス・ソル……上院で採択された第一読法案の内容』

▽https://www.radiofrance.fr/franceinter/loi-immigration-ce-qui-a-ete-ajoute-et-ce-qui-a-ete-retire-par-les-senateurs-du-projet-de-loi-initial-6576012:『移民法:上院議員によって最初の法案から何が追加され、何が削除されたか』

トップ写真:アラスで殺害された教師ドミニク・ベルナール氏の追悼集会(フランス・パリ2023年10月16日)出典:Photo by Remon Haazen/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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