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.国際  投稿日:2021/9/4

仏マルセイユ麻薬抗争 14才少年射殺


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・マルセイユ北部で麻薬に絡む殺人事件多発、14歳の少年が射殺。

・裕福者の住む地域と北部は、分断された生活を送っている。

・街全体の大規模改修に対する投資が予定されている。

 

 現在、フランスでは、マルセイユ市に対する大規模な再投資が計画されている。その計画の説明や視察のため、9月1日から3日間、エマニュエル・マクロン大統領がマルセイユ市の各地を回った。

マルセイユでは、学校、住宅の老朽化、交通機関が整備されていないところがあるなど、長年大きな問題を抱えてきたが、特に今年に入り麻薬に絡む殺人事件が多発している。

麻薬関連の殺人事件の多発

今年に入って記録された殺人事件はすでに15件だ。この件数はすでに昨年1年間の件数をうわまわっている。しかもそのうち12件は、この2か月の間に発生したものである。また、それらの事件はマルセイユの北部で起こることが多く、その中でも14歳の少年が射殺された事件は多くの人に衝撃を与えた。過去にもこのような麻薬がからむ殺人事件起こってはいるが、14歳の子供が射殺されたのはこれが初めてである。同時に、その銃撃により一緒に居た8歳の子供も怪我をしており、周辺に住む住人たちは不安を隠し切れない。

ここ最近、この辺りの地域では、麻薬の売り上げが多い取引場所を奪い合う領土戦争が頻発している。この他にも、複数の車両から一斉に銃撃を受けて二人が死亡した事件。通りの真ん中で誘拐され、車のトランクで生きたまま燃やされた事件も続いておきた。武器密売も横行している背景もあり、戦争にも使われるカラシニコフ自動小銃が複数の事件現場で見つかっている。

特にマルセイユ北部の低所得者が多く住む地域では失業率も高く、十分な教育も行き届いていない。そんな中、学校から離れた若者たちが、安易に稼げる道を選んでいくという悪循環に陥っている。

移民や低所得層が多く集まる北部と街

マルセイユは人口規模でパリに次ぐフランス第二都市である。しかし移民や低所得者層が多く、かねてから治安の悪化が指摘されてきた。特に北部地域には、低所得者が多く集まっている。

▲写真 マルセイユのテロを警戒するフランス兵(2020年11月03日) 出典:Photo by Arnold Jerocki/Getty Images

マルセイユには、1950年代から工場などで働くために多くの移民たちが集まってきた。大多数はジプシーやアルジェリア人で、仕事を探すためにフランスにやってきて、そのまま工場周辺にスラム街を構成したのだ。

1960年代頃から、スラム街の環境を改善するために、市によってスラム街があった工場周辺などに低所得者用の住宅が多く建設された。その結果、貧困者が多く住む町が作られることになったのである。そんな町がある場所の一つが、14歳の少年が殺害されたマルセイユ北部にある14区である。

今回、マクロン大統領は、14区のバッサンス地区を訪れた。そのため、大統領が来るというので前日に大規模な清掃が行われたという。町の人はこの様子を見て、「こんなにきれいになった道を見たことがない」と驚く。いつもは、ゴミにまみれた道を歩き、子供たちは天井が崩れ落ちていたり、トイレが詰まっているような劣悪な環境の学校に通う、そんな日々なのだ。学校に通う子供の親は、学校の状態を嘆き、「単に他の学校と同じ待遇を受けたいだけです。普通の扱いをしてほしい」と訴えている。

このように貧困者が多くすむ北部は、裕福者の住む地域とは長らく分断して生活してきたが、現在になっても市内には地下鉄路線がほとんど配備されておらず、北部が孤立し続ける原因にもなっている。

こういった北部と南部の分断は、コロナのワクチン接種率にも表れている。一回目ワクチン接種率の全国の平均が73.9%のところ、遅れているとはいえそれでも南部では、多く接種しているところでは64.9%が終了しているものの、なんと北部は37.2%しか接種していない地域もあるのだ。

このため、北部地域では、インターネットで予約の仕方などを知らない人ために、予約無しで受けられ、毎日休み無しで開いている接種センターを設けたりなどの対策が取られているところだ。

大規模なマルセイユへの投資計画

また、もちろん問題は北部だけでない。マルセイユ中心地にも老朽化した建物が建ちならんでおり、いつ崩れるかわからず不安の中で暮らしている人々もいる。2018年には、2棟の建物が倒壊したこともあった。その倒壊では8人の命が奪われた。現在、マルセイユには4万件の価値のない建物が存在するのだ。

こういった事情をうけ、今回大規模なマルセイユの投資計画が実行される予定となったのである。市内の444校のうち200校12億ユーロで大規模な改修計画、マルセイユに新しい警察署を建設し、200人の警官を迎えるために1億5000万ユーロ、その他にも住宅の改修、交通ネットワークの整備を行っていく。

同時に、若者への教育の充実、失業者を無くすための研修の充実など平行して行っていくことになっており、2020年の新年度には、30人の教育者と30人の仲介者を増員し、少人数の中学校と少人数の高校各10校を、困難を抱えている地域に開校することを予定している。

しかしながら、2008年から何度かこういった大規模な計画がアナウンスされてきたが、実現しなかったものもあり、あまり状況が変わっていないのも事実である。今回も、どこまで計画通りに、かつ効果的な対策が行えるかが大きな課題となっていくだろう。これから、長い年月はかかるだろうが、マルセイユも少しづつ変わっていくことになる。計画が無事進むことを願うばかりだ。

 

<参考記事>

マルセイユで麻薬戦争 14歳の若者が死亡、他の2人の未成年者が負傷

マルセイユの麻薬戦争で14歳のティーンエイジャーが死亡、1人が負傷 

マルセイユ:エマニュエル・マクロン大統領の到着を前に清掃されたバサン宅地

マルセイユで14歳の子供が射殺、8歳の子供を含む2人の未成年者が負傷

トップ写真:マルセイユで会見を行うマクロン大統領(2021年9月4日) 出典:Ensemble, nous pouvons faire Marseille en Grand ! – YouTube




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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