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.国際  投稿日:2023/1/16

フランスの年金改革


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランスのボルヌ首相が定年年齢を62歳から64歳とする年金改革の概要を発表した。

・野党や労働組合はすでに猛反発しており、19日に年金改革反対の大規模デモを開催する。

・仏メディアは働くことに生きがいや社会との繋がりを感じる日本が紹介されている。仏は自滅しないためにも年金改革を実行すべき。

 

フランスのボルヌ首相が10日、年金改革の概要を発表した。定年年齢を62歳から64歳に引き上げることとなる。

定年年齢は現在、満62歳だがこれを2023年9月から2030年まで毎年3ヵ月ずつ引き上げ、最終的に64歳を定年とする。年金拠出期間が不十分な場合などは67歳まで納めることもできる。年金拠出期間が満たされている場合、年金支給最低保証額は法定最低賃金(SMIC)の85%とし、月額約1200ユーロ(約17万円)が支給される予定だ。これは現在の支給額よりも100ユーロ増加することを意味する。

ボルヌ首相は記者会見で「国庫の赤字拡大を防ぐために年金改革が必要」と理解を求め、発表した内容をもとに今後話しあいをしていく述べたが、野党や労働組合はすでに猛反発しており19日に年金改革反対の大規模デモ開催するとした。

■ なぜ退職年齢の引き上げが必要か

フランスも1970年代の終わりには、1人あたりの退職者に対して若者3人の労働者でささえられていた。しかし、現在、退職者1人をささえる労働者は1.7人。さらに2040年にはおそらく1.5人になる。さらに、このまま何もしなければ、年金制度の赤字は2027年には12.4億ユーロになり、そして2030年には13.5億、2035年には 20億以上、2040年には25億ユーロ近くになると予測されているのだ。

この予測を受け、今回の改革の目標は2030年までに年金システムのバランスを保証することとしている。ルメール経済大臣によれば、定年年齢を引き上げることで2030年までに年金基金に177億ユーロをもたらせるのだ。

ちなみにフランス以外のEU諸国ではすでに65歳を定年としている国も多く、現在ではさらに67歳から68歳まで引き上げようとしているところだ。しかしながらEUの中でもフランスはおくれを取っており、その結果、フランスの55歳から64歳の就業率は、EU平均(60.6%)よりも下回った54.9%となっている。これは、職業によって早期退職ができるシステムや、「働かないことが最高の幸福」とする大多数のフランス人の労働に関する意識も関係しているのは間違いない。

■ 年金改革に反対する大きな勢力

年金改革は常に大きな抵抗を得てきた。定年退職年齢の65歳への引き上げも念頭においたマクロン政権は、一期目に年金制度改革を提案した。その結果、大規模な反政府デモ「黄色いベスト運動」が起こり、さらにデモは何カ月も続くこととなったのだ。しかも、その後すぐに新型コロナウイルスの感染が拡大したため、改革推進は一旦断念された。

今回も、大きな反発を受けることは明らかであり、すでに1月19日に各労働組合による大規模なデモが計画されている。また、フランス世論調査機関IFOPが1月4日に発表した調査では68%が年金改革に反対している。しかも、年金改革に反対する社会運動が起きた場合、フランス国民の58%がこの運動に賛成するとしており、この数字は2010年時の最大71%よりは低いが、2020年1月の44%よりも高くなっており、今回もかなり苦戦が予想されている。

少なくとも、年金改革後は金額的には現在の年金額よりも受け取る額は多くなるものの、働く期間が長くなることに大きな反発を感じる人は多いようだ。一方、すでに月600ユーロしか年金をもらっていないため生活が苦しいという理由で79歳まで働いているフランス人も存在しており、定年年齢の引き上げに問題を感じていない層も存在することも間違いない。

年金改革後にもらえる年金のシミュレーションはこちら(info-retraite.fr)のサイトで可能だ。多くの人がアクセスしたため、一時は繋がらない時もあったが、現在は正常に動いているので関係する人はぜひチェックしてみて欲しい。とてもわかりやすいサイトで今後もらえる年金額を把握するためにおすすめだ。

■ フランスで紹介される日本

そんな中、フランスのメディアで現在よく紹介されるのが日本だ。65歳以上の高齢者の割合が「人口の21%」を超えた社会を「超高齢社会」と呼ぶが、2010年には高齢化率23%を超え、2021年には30%となっている日本。2021年に21%を超えたフランスから見れば、日本は超高齢社会として最先端の国であり見習える点も多い。またフランスとは違った文化思想を持ち、働くことに社会とのつながりや生きがいを感じる人も多い日本はフランス人の大多数とは違う生き方をしている国でもある。最新のOECDの統計によれば日本の法定退職年齢は65歳ではあるが、65~70歳で48.4%が働いているという。

とはいえ、日本人の中には退職後の生活を整える余裕がないため働いている人も多いが、それはフランスでも同じ状況の人が存在する。だからこそ黄色いベスト運動では孤独と貧困を訴えた退職者がこぞってデモに加わったのだ。

しかし、食べることには困らない程度に年金をもらっている人の中にも、仕事から退いたことによる喪失感を感じる人もいる。働かないという理想の生活を満喫する一方、社会に参加できないことに疎外感を感じるようになるのだ。フランスでは高齢者になるほど自殺する人は増加するが、このようなだれからも必要とされない立場に追いやられることもその理由の一つとなっている。

日本の様子を見て、「年取ってまであんなに働くなんて気の毒に」というフランス人ももちろんいるものの、いきいきと元気に活動している姿に感銘を受ける人もいる。日本には、高齢者が社会に受け入れられるというフランスとはまた別の世界が存在している。今後もなんらかのお手本として紹介されていくことは間違いないだろう。

■ フランスにとって年金改革は必要なこと

年金改革」を押しすすめることで、前回のような強固な反対のデモが起こることは必須だ。そのため、マクロン政権が窮地に陥るだろうということがかなり強調されて日本のメディアで報じられる。

しかし、ここで年金改革をしなかったら、実際に窮地に陥るのはフランス国民自身だ。超高齢化社会がどんな世界となっていくかはすでに日本が十分見本を示しているだろう。起こりうることが分かっているのにもかかわらず、備えない選択をすることは破滅を選択することと同じことである。今回フランス政府はどんな激しい反発があったとしても推し進めていく意気込みだ。

年金改革の骨組みは示された。今後は、デモ、ストと並列して話し合いが行われ、どの地点で妥協していくかを決定していくこととなるだろう。

<参考リンク>

年金制度改革 Quest-Franceの読者が労働大臣に立ち向かう

年金改革:一方、日本では65歳以上の半数がまだ働いている

年金改革:info-retirement.frのシミュレーターは需要がある

年金制度の未来に向けたプロジェクト

年金改革:欧州の近隣諸国はどのような状況にあるのか?

新年金改革に対するフランスの見解

フランス経済の表

65歳以上の人口(全人口に占める割合)-フランス

トップ写真:年金改革に反対し道路を練り歩く「黄色いベスト運動」(2023年1月7日、フランス、トゥールーズ)出典:Photo by Alain Pitton/NurPhoto via Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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