仏、給食費未納問題、正しいアプローチは
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・フランスで、給食費未納の子供が警察によって帰される事件が発生。
・支払い能力の判定、コミュニケーション、子供への配慮が足りない。
・給食費は清算できたが、この家族の問題は根本的に解決していない。
フランスで、衝撃的な出来事がおこり論争となっている。それは、失業中の母親が給食費を払わなかったため、7歳の男の子が友達の目の前で、学校の食堂から警察官につれていかれ家に送りかえされたというのだ。
日本でも問題になる給食費未納問題だが、それはフランスでも同じのようだ。
事件の詳細
母親や村長の証言などから事実と思われることをまとめてみた。
ボルドーから50Km北東にある、人口2500人にもみたない小さい村サン・メダール・ド・ギジエールでその出来事はおこった。母親は2019年に失業。二人の子供の給食費が2020年1月から未納であり、その未納金額は873ユーロに達していたのだ。
さまざまな事情により、その村の約50~60家族が給食費を払うことに問題をかかえており、その金額の総計は17万ユーロ(日本円で約220万円)に上っている。これだけ小さい村にはかなりの痛手であった。そこで、給食費を払っていない家族全員に催促状をおくったが、他の家族は支払う意思をみせているのに対し、この母親一人だけが払う意思をみせなかった。
その後、結局、母親は催促状がとどいても支払わなかったため、給食を食べに学校の食堂にいた7歳の子供を自治体の警官に自宅までつれていかせたというのだ。(上のお子さんはすでに9月から中学校に入っていたのでその場にはいなかった)
このニュースが流れた時には、親の給食費の滞納が原因で子供が警官につれていかれたということにショックを受けた人が多く、「もっと他に対応方法はなかったのか?」と問題視する声が高まった。
母親の言い分
母親の話によれば、家にいたら突然子供が警官につれてこられたびっくりしたという。また、その出来事は子供が友達といっしょにいる時だったため、友達に「刑務所に連れてかれるんだ。」といわれ子供がショックを受けたと訴える。事前に子供をむかえに来るべきだと言われたなら、むかえに行っていたが、そういった連絡もなく思いもよらない出来事だったそうだ。
給食費を滞納している自覚はあり、払えるなら払いたいと思っているがそれが難しい状況だったから払えなかったのだ。催促状がきて3月に村役場にいったが、払えない理由を聞かれることも、その状況を助けてくれる支援団体の説明もなかった。その日、引き落としするために銀行の番号を渡し27.5ユーロが引き落とされた。
払うつもりがあるのは間違いない。今後は、母親に大部分を借りて払い、あとは分割にしてもらってなんとか払っていくつもりだと語った。
ちなみに、警官と一言いっても、フランスでは犯罪などをあつかう「国家警察」と、交通法規など自治体の条例の執行する「自治体警察」があるが、ここで警官と言われている人物はもちろん自治体警察である。子供の目などには区別つかないだろうが、また違う組織なのである。
村長の反論
村長はこう言い切る。
「子供はショックなど受けていません。子供は警察の車に乗れて喜んでいました。」
村長はこの件で、他の生徒の親から支援をえて、母親がこのように世界中にニュースを流したことに怒りを感じているようだ。
「子供は警官につれていかれてショックを受けているのではありません。それまで誰も給食費を滞納しているなんて知らなかったのに、母親が周りに知らせて大騒ぎになったからショックを受けているんです。」
村長が言うには、福祉からの援助を受けていたわけでもなく、お金が困っていることでは知られていない家庭だったという。もし、支払いに困っているならなぜ村役場に相談にこないのか。4月(母親は3月と言っている)に村役場にきた時も、そんな話もしなかった。渡された銀行の番号にお金を請求しても、拒否されて集金できていない。収入に問題があるから払えないのではなく、払いたくないから払っていないとの認識だったという。
「母親には、支払わなければ子供が給食を食べられなくなりますよと言ってありました。それでも入金しなかったため、条例にしたがって警官に頼んだだけです。親も呼んで迎えに来させることはできない規則なんです。警官が連れていく前に連絡?私が連絡しなくちゃいけないんですか?」
実際の話、この母親に借金を清算するよう強制できる他の規制上の解決策はなく、村長も条例にしたがっただけだという。
親と自治体間の問題で、子供には罪がない
権利擁護機関のクレア・エドン氏によれば、これは親と自治体との間で解決する問題で、子供を巻き込むべきではない述べている。「子供の権利の問題」なのだ。
実は、すでに2013年に同様の出来事がおきている。給食費が払われていないため、学校の食堂から5歳の子供が警官に引き渡されたことが問題になったのだ。その時の決定では、子供を迎えにくる人の到着を待つ間、社会福祉や医療・保健の人が子供を面倒を見る方法を推奨されたという。(Décision MSP-MDE-MDS-2013-125 du 11 juin 2013 rel… Catalogue en ligne)
すでに2019年の報告書にもまとめられ、その旨は国に報告もされている。
「福祉による支援が必要なシグナル」なのか「払えるのに払わない」のか?
この出来事での問題点は3つあると思われる。
1.「払えるのに払わない」ケースがあるかもしれないが、生活保護などの援助をうけていないからといって、それだけで「支払い能力がある」と断定していいのか?
2.コミュニケーション不足
3.子供への配慮
1つ目の「支払い能力」の判定を、福祉の援助をうけているかいないかで判断するのは難しいということだ。現実には、援助を申請できない事情を抱える保護者もいる。また、うけられる援助の存在を知らないのかもしれない。そのため、むしろ滞納を福祉による支援が必要なシグナルとしてとらえる必要があるのではないだろうか。多くの人は、「払わない=悪」という図式で給食費未払い問題をまとめようとしがちだが、本当に目をむける必要があるのはその部分だ。
2つ目は、日常にはない対応を取るときには、やはり突然するのではなく事前に連絡することが必要ではないだろうか。心構えがあるのとないのではショックの受け方も変わってくる。今回の場合、母親に朝にでも説明することが自然だっただろう。
3つ目は、全ての大人が子供への配慮にかけていたのではないだろうか?その結果、興味の視線が子供に集まることになってしまった。子供には責任はない。権利擁護機関の言うように、子供は親と行政の間の対立に関係しないように配慮するべきだったのである。
その後
その後、村役場には、この親子の代わりに給食費を肩代わりすると名乗り出る人が何人か現れたそうだ。最終的には、母親が出演した番組「TPMP」がその代金を肩代わりし、おなじ番組で村長の意見もきくという形で終結した。
しかし、給食費滞納については解決したものの、実は本当の問題はここからである。滞納した給食費の清算は、今後この家族が生きるためにスタート地点に立たせただけでしかない。一番重要なのは、母親が十分に収入をえられる体制をつくるなどの根本支援なのである。この母親の戦いはこれからが本番なのだ。
<参考リンク>
食堂の借金で子供が家に連れて行かれ、ジロンド市長が責任を取る
ジロンド:未納金を理由に食堂から排除された児童、人権オンブズマンが調査を開始
未払いのために学校の食堂から排除された子どもが、市警に付き添われて出て行った:権利擁護者が職権でこの件を扱う
トップ画像:給食を食べる子供(イメージ) 出典:Photo by Christopher Pillitz/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。