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.国際  投稿日:2021/10/2

豪仏「潜水艦計画破棄」の影響


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

オーストラリアがフランスとの潜水艦の共同開発計画を破棄。

いまだにオーストラリアとの話し合いは行われてはいない。

・ヨーロッパの安全保障において自立性を高める契機に発展していく可能性。

 

オーストラリアがフランスとの潜水艦の共同開発計画を破棄したことをめぐり、元オーストラリア首相マルコム・ターンブル氏が、9月29日(水)、後継者であるスコット・モリソン首相を鋭く批判した。

元オーストラリア首相によれば、フランスは「故意にだまされた」

英国とアメリカ、オーストラリアは15日、防衛安全保障協力に関する協定(AUKUS)を締結した。3カ国は今後1年半にわたり、オーストラリアへの技術移転に取り組む。これによりオーストラリア政府は、フランスと交わしていた12隻の潜水艦の開発計画である「世紀の契約」を破棄することを決定した。

この件について元オーストラリア首相ターンブル氏は、オーストラリアのナショナル・プレス・クラブにて意見を述べた。それによれば、モリソン氏は誠意を持って行動しておらず、故意にフランスをだましたと言う。モリソン氏には、オーストラリアの利益になるということ以外に、自分の行動を正当化する論拠はないとのことである。

フランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相によれば、この決定を知らされたのは、発表の1時間前だった。しかも、その数時間前には、フランスの造船企業ナバルグループが、次の段階に勧める旨の通知をオーストラリアから受け取っていたというのだ。フランスが除外された形でAUKUSの話が進められた上、なんの予告も無しの契約破棄に、フランス側は大きな憤りを感じている。

▲写真 国連総会で発言するドリアン仏外相(2021年9月23日) 出典:Photo by John Minchillo-Pool/Getty Images

ターンブル氏はこう付け加える。「フランスは、だまされて屈辱を与えられたと考えているがその通りだ。この信頼の裏切りは、今後何年にもわたってヨーロッパとの関係を示すものになるだろう」と。また「オーストラリア政府はフランスを侮辱的に扱ってきた」とも述べたのである。

モリソン氏とターンブル氏はオーストラリア自由党内でライバル同士であり、政治的な立場をとっての発言とも思われるが、「だまされた」、「屈辱を与えられた」、「侮辱的に扱われた」と、並べられる言葉は、まさに現在のフランスの心情を表現しているのは間違いない。

フランスの造船企業ナバルグループ

オーストラリア元外相ギャレス・エバンズ氏によれば、フランスの製造の進行状況はかなり前から問題があったとしている。コストも激増し、納期は守られず、国内雇用創出もされず、そのためエバンズ氏にとっては、先に約束を破ったのはフランスであると認識しているが、フランスの造船企業ナバルグループによれば見解が違うようだ。

予算は確かに大幅に膨らんだ。2016年に開始されたときにオーストラリアによって500億オーストラリアドル(310億ユーロ)と評価されたが、その後、890億オーストラリアドル(560億ユーロ)に再評価されたのだ。

しかしこれは、契約期間全体にわたるインフレを考慮に入れたため増加したものであり、ナバルグループに入る金額は変わっていないという。また、9か月の遅れが生じていたが、それはすでに解消しているものもあり、今後、遅れを取り戻していく予定だったというのである。

ナバルグループのピエール・エリック・ポムレ最高経営責任者(CEO)は、「オーストラリアは自己都合で契約を解除したが、これはわが社に責任がないことを意味する」と説明し、オーストラリアには、インフラやIT設備の解体、従業員の再配置などに関連して発生する費用などの請求書を、数週間以内に送ると述べた。その上、「われわれは権利を主張していく」と続けた。

未だにフランス、オーストラリアは対話を持っていない

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、この件に関して、22日にはアメリカに、24日には英国と電話による会談を行った。しかし、実はいまだにオーストラリアとの話し合いが行われてはいない。アメリカと会談した同週にオーストラリアのモリソン首相からマクロン大統領に接触しようと試みているが、失敗に終わったのだ。

政府関係者によればオーストラリアとの対話は計画されているが、非常に厳しいやり方を準備することになるだろうとしており、マクロン大統領も「オーストラリアは正しく行動をしなかった」とコメントしている。

別件で注目を浴びているサルコジ元大統領がインタビューを受けた際に、マクロン大統領の行動について聞かれていたが、行動は間違っていないとし、「友達の間でこういうことはあり得ない。許されないことだ」と述べた。29日に行われた元老院(上院に相当)国際問題委員会の会議においても、戦略などや契約の変更などは当然のことだが、そのやり方に問題があることは、ほぼここにいる人全員の一致した意見といえるだろうとしている。フランス的には、事前になんの連絡もなく破棄したことについて、大多数が大きな問題としているといえる。

また、当初から「問題は軍備契約の破棄ではなく、同盟国間の信頼を壊したことだ」と言っていたル・ドリアン外相であるが、元老院の会議においてヨーロッパの防衛の重要性を主張しており、この外交危機は、ヨーロッパの安全保障において自立性を高める契機に発展していく可能性もありそうである。

 

<参考リンク>

潜水艦の危機 フランスは「意図的に騙された」と豪元首相が発言

AUKUSを批判する中国もフランスも間違っている──エバンズ豪元外相

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Jean-Yves Le Drian: “潜水艦危機からの脱却には、言葉よりも強い行動が必要”

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トップ写真:オーストラリア海軍コリンズ級潜水艦ウォーラーに立つオーストラリアマルコム・ターンブル首相(左から4番目)とフランスエマニュエル・マクロン大統領(左から2番目)2018年5月2日、シドニーにて 出典:Photo by Brendan Esposito – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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