仏、移民法改革で議論続く
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・仏で移民法改革のプロジェクトが2月にスタート。
・共和党と連立与党では異なる移民法案を提出している。
・国民の過半数は移民が「多すぎる」と感じている。
多くの移民を受け入れてきた歴史のあるフランスでは現在、移民法改革のための話し合いが始まっている。移民法改革のプロジェクトは2月にスタートし、5月、6月には上院と国民議会で決議が行われる予定だったが、年金改革の混乱が続き、国を二分しかねない繊細な配慮が必要な移民法案を検討する時期ではない、と延期されていたのだ。
ようやく年金改革の混乱も落ち着いたため、エリザベット・ボルヌ首相は、10月から上院での審議を始めるために7月までに法案が提出されることを希望している。
■ 複雑な問題を多く含む、移民法の改革
2月1日にプロジェクトが始まった移民法改革。その時点で、フランス国内の労働関連を取り仕切るオリヴィエ・デュソプ労働大臣と、治安を取り仕切るジェラルド・ダルマナン内務大臣が対になる移民法案を提出した。労働大臣の法案には「よりよい統合」が盛り込まれており、内務大臣の法案には「よりよい追放」を求める文章が含まれている。
主な内容は、人手が足らず危機状態の分野の仕事に就く場合の滞在許可証の発行基準の緩和、 「共和国の価値観を尊重しない」外国人の追放促進などだ。また、そのほかにも、国境の管理強化についても触れられている。
ダルマナン内務大臣は、これらの文書をもとに話し合いを行い、各議会のグループによる提案と合意を「6月末」までに提示することを目指している。重要なのは10月に上院で文書について議論し、その後11月か12月に国民議会で議論することだ。
しかし、ここにきて右派の共和党(LR)から、かなり厳しい内容の提案が提出された。共和党の合意はとても重要なため政府側も協力してやっていこうと呼びかけながら、対応にも慎重だ。というのも、上院では共和党と中道勢力が合計で過半数を握っており、連立与党は共和党の助けを借りて法案の可決成立を図る必要があるからである。連立与党だけで過半数を取れなかったマクロン政権では、共和党の協力が不可欠なのだ。
共和党は、「フランス人はあらゆる世論調査で『移民が多すぎる』と言っている。われわれは主導権を取り戻さなければならない」「大量移民を阻止する」「『我々が誰を歓迎したいか』を決めるのはフランス人次第だ」といったような内容を主張している。そして、「欧州との約束のため、我々はこの移民圧力に耐えることはできない」とし、フランスが「国民投票によって我が国の主権を取り戻す憲法改正」を求めた。また、「議員が望むのであれば、いかなる状況においても国内移民法が優先されなければならないと言うべきである」とも述べている。
これらの提案は、1951年のジュネーブ条約や欧州協定などのフランスが国際公約から離脱することを意味しており、移民規定のフレグジットに近い。
ダルマナン内務大臣は、欧州協定からの離脱に関する決断は国民全てによる話し合いによる決定が必要な内容であり法案には盛り込めないとした。また、政府報道官のオリヴィエ・ベラン氏も、欧州協定からの離脱はありえないとし、バランスを重視した政府案を擁護する。そして、左派に議論に参加するように呼びかけた。
しかし、共和党のエリック・シオッティ氏によれば、これらは、フランス国民が望んでいることだと主張する。あらゆるアンケートでそう出ているというのだ。国民の意見と、EUおよび政府で決定される内容が一致しないという点を問題視しているという。
では、実際にフランス国民はどう思っているのだろうか?エラブ世論調査がアンケートを実施し、2023年5月24日に次のような結果が出された。
■ フランスでへの移民に関するアンケートの結果
エラブ世論調査の質問を受けた人々の85%が、共和党が提案している「違反または犯罪を犯した外国人を有罪判決して追放する」ことに賛成だと答えた(非常に賛成が56%、どちらかと言えば賛成が29%)。
現在フランスでは、すでに刑事裁判官は、フランスに住んでいる犯罪または軽犯罪を犯した外国人に対してフランス領土からの入国禁止を宣告できることになっているが、特定の外国人に対しては講じられていない。教会に火をつけたり、人を殺害しても自国に送還されることがなかったことに不満を抱いている国民も多いのだ。
また、フランス国民の81%がOQTF(フランス領土を離れる義務)に関わる外国人に対して、不法滞在罪を復活させることに賛成している。OQTFの規則はフランスにすでにあるが、出身国の協力を必要とするため現時点ではほとんど実行されていない。アンケートに答えた人々の79%は、不法移民の奪還を拒否している国々に対し、開発援助やビザ発行の削減を示して受け入れを促すことに賛成している。
また、フランス人の74%は、子供の出生時に外国人の両親が異常な状況にあった場合、例えフランス領土で生まれたとしても、フランス国籍を取得できないようにすることに賛成。
しかしながら、労働大臣の「『人手不足で緊急状態にある仕事』の滞在許可を創設する」提案に対して、回答者の57%が、外国人労働者が人手不足の職業で滞在許可を取得しやすくすることに賛成だとも答えてる。
共和党のシオッティ氏が、「フランスに移民が多すぎて、フランス語教育や社会統合教育が十分にできない」と主張していたが実際にフランス人は移民が多すぎると感じているのだろうか?このアンケート結果では、フランスには移民が「多すぎる」と感じているのは56%で過半数をこえている。しかし、反対に40%は「ちょうどいい」と感じているという結果がでた。
だが、このアンケートに答えた人の半数が、移民の割合が実際の数字よりも多いと見積もっていると指摘されている。アンケートに答えた人の50%は、フランスでは人口の11%以上が外国人、つまりフランス国外で生まれた人々と考えているが、しかしながら2021年に出されたINSEEの調査結果によれば、総人口に占める移民の割合は10.3%だった。実際の話、地域により外国人が住む割合は違ってくることもあるものの、実際よりも多くいるように感じていることは間違いないようだ。
このように、このアンケートの結果を見る限りでは、共和党がいうことには一理あり、EUの移民規定にそった法案と大多数のフランス国民が希望してることとは、すれ違っている部分があることがわかるだろう。
こういったアンケート結果も考慮にいれながら、今後、話し合いを進めて妥協点を探っていくことになる。6月末までにまとめることができるかどうか、それともまた延期になるのか、今後の動きが気になるところである。
<参考資料>
「エリック・シオッティ フランスの新移民対策法について語る」
「移民法:ジェラルド・ダルマナン氏、共和党の法案に『協力』することを提案」
「移民:オリヴィエ・ヴィラン氏が左派に呼びかけ『傍観者でいるな』」
「エリック・シオッティ:移民と国内法について『何よりも優先すべき』」
「移民:共和党(LR)は2つの方法を発表。1つは『コントロールの回復』」
「移民:フランス国民の85%が有罪判決を受けた外国人に対する『二重刑』の復活に賛成」
トップ写真:移民法案に抗議するデモ行進をする秘跡労働者と人権活動家たち。(2023年4月29日 フランス・パリ)出典:Pierre Crom/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。