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.国際  投稿日:2021/11/10

中国、習長期政権で適切な政策変更に暗雲


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#45」

2021年11月8-14日

【まとめ】

・中国共産党が開く6中総会で、「歴史決議」の採択が焦点となる見通しである。

・党総書記の任期続投には、適切な政策変更が妨げられる恐れがある。

・冷静で合理的な判断ではなく、個人的な、もしくは誤算に基づく政策判断の可能性が増えることを意味する。

 

今週早くも第二次岸田内閣が発足する。先週は総選挙直後にCOP26が英国で開催され、岸田首相の海外初出張(「外遊」は使わない)も超特急だったに違いない。先週も書いたことだが、総選挙前後のメディアの熱狂にもかかわらず、終わってみれば、衆議院での安定多数は従来通り。必要条件の一つはクリアされたようだ。

今週の最大の関心事はやはり中国である。8日から中国共産党は北京で第19期中央委員会第6回総会(6中総会)を開く。毛沢東、鄧小平時代以来3度目となる「歴史決議」の採択が焦点となる見通しだと報じられた。習近平氏にとっては来年の党大会で3期目続投に道筋を付ける重要会議となるのだそうだ。

習近平氏の続投については様々な見立てがあり、ここでは全てを取り上げないが、筆者はやはり、何か嫌な感じを持っている。それは習近平氏への権力集中がけしからんと思っているからでは必ずしもない。そもそも、今の中国で我々が理解する「民主主義」を期待する方が間違っていると思うからだ。

筆者の懸念は党総書記の三期目、もしくは無期限任期がもたらす中国への悪影響である。今の中国に必要なことは適切な政策変更であると思うのだが、今後習氏の長期政権が続くということは、中国が必要とする政策変更の芽が摘み取られていく恐れがあることを意味する。

中国の政策決定過程が硬直化すれば、柔軟な政策判断の機会が少なくなる。場合によっては、冷静で合理的な判断ではなく、個人的な、もしくは誤算に基づく政策判断の可能性が増えることを意味するかもしれない。その危険性は戦前の日本やサダム・フセイン時代のイラクを見れば明らかだと思うのだが・・・。

ところで、昨日は米国StimsonセンターとCIGSの共催で日本の内政に関するウェビナーを再び開催した。総選挙の結果が「日本メディアの事前予想」に反し、少なくとも今回は日本国民が「変化」を選択しなかったためか、前回のウェビナーのような「意外感」はなかったようだ。今後は新内閣の政策の詳細が問われることになる。

それにしても便利な時代になったものだ。出張費も、会場費もかからず、手軽にこの種の会合が開催できるのだから。今後はこの種のウェビナーで取り上げるトピック、出席者、タイミング、そして何よりも内容のレベルの高さが求められる。今後も精進していきたいが、取り上げるべきトピックがあれば、ご要望をお寄せ頂きたい。

昨日夜、「次期外相就任が内定したと報じられている」林芳正議員をゲストに招いたプライムニュースがあった。各関係者や派閥の内政上の思惑などが様々報じられているが、日本の外交という観点から見れば、良かったのではないかと思っている。林氏に限らず、最近の外務大臣は一昔前とは異なり、隔世の感がある

▲写真 林芳正議員(2008年8月1日) 出典:​​Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images

1980年代、外務省の駆け出し事務官だった頃、宮澤喜一元首相を除けば、首相や外務大臣で英語を喋る人は少なかった。今でも忘れられないのは当時の森山眞弓外務政務次官だった。確か彼女は労働省の元局長だったはずなのに、外務省内で外交団を前に英語で素晴らしいスピーチをされて、舌を巻いたことを覚えている。

しかし、当然といえば当然、彼女は津田塾専門学校外国語学科(現、津田塾大学)に入学後、極東国際軍事裁判で翻訳のアルバイトをしていたのだから。その森山さんが先日亡くなった。心からご冥福をお祈りしたい。昔話はこのくらいにして本題に戻ろう。最近の外相は国際情勢に詳しく、英語にも堪能な人が増えてきた。有難いことだ。

〇アジア

サリバン米大統領補佐官がCNNで、台湾への圧力を強める中国につき、「一方的な現状変更に反対する。安全と安定を揺るがす中国の活動に懸念を抱いている」と述べたそうだ。要するに、「曖昧戦略」には触れなかったが、「戦略的曖昧さ」を維持しつつ、「戦術的明確さ」を前面に出そうとしている、のだろう。要注目である。

〇欧州・ロシア

英国で地球温暖化問題を議論するCOP26が開かれたが、中国は不参加。当然だろう、中国から見れば「温暖化」問題とは中国を狙い撃ちする西側の「陰謀」でしかないからだ。残念ながら、中国が動かない「温暖化議論」では「会議は踊る」だけ。日本も強かに国益を最大化すべく立ち回る必要がある。

 〇中東

イラクで恐れていた暗殺未遂事件が起きた。7日、イラクのカディミ首相の自宅が爆発物を積んだ無人機で攻撃されたのだ。ドローン攻撃といえば一昔前は米軍の専売特許だったが、今や中露イランなどの国家だけでなく、恐らくは武装ミリシアでも十分使える兵器になったということ。恐ろしいことである。

〇南北アメリカ

ヴァージニア州知事特別選挙で共和党候補が圧勝した。バイデン政権にとっては大打撃と報じられているが、この現象こそ筆者が過去数年恐れていたことだ。それは「トランプより賢い」隠れトランプ候補の登場である。民主党が内紛を止めなければ、この傾向は必ず拡大し、将来は「トランプの方がマシだった」ということにもなりかねない。

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:街中にたてられた習近平国家主席の看板(2021年10月14日、中国・酒泉) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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