野党に「ビッグボス」はいないのか似て非なる日英「二大」政党制 最終回
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・立憲民主党代表選が近づくも、注目度は低い。
・一方、同時期に日ハム監督に就任した新庄氏には、絶大な注目と期待。
・議会制民主主義の健全化のため、野党にも期待できる政治家を。
この原稿が掲載されるのと前後して、立憲民主党の新たな党首が決まる。30日に代表選が予定されていて、本来ならば今後の政局に大きく影響するはずなのだが……
多くの人が同じ思いであると思うが、どうにもこうにも盛り上がらない。
写真)討論会に参加する代表戦の立候補者ら(2021年11月25日)
出典)立憲民主党
端的に言えば、総選挙に先駆けて行われた自民党総裁選挙に立候補した、候補者それぞれの「キャラの濃さ」と比べた時、今の野党には本当に、注目に値する人材が不足しているのだな、と思わざるを得ないのである。
もともとこの選挙は、これまで立憲民主党を率いてきた枝野幸男氏が、先の総選挙で敗北した責任を取って辞意を表明したことによるもの。
本来ならば、枝野氏とともに党を立ち上げ、女性として初めて国会対策委員長になった辻元清美氏が後任に選ばれるのが順当だったのであろうが、なにぶん自身が落選してしまったので、いかんともしがたい。
それ以前に、たとえば蓮舫議員などもいるのだが、あの世代は2010年代前半の民主党政権時代のナガティブなイメージがつきまとっているため、党内でも待望論が聞かれないのだとか。
それにしても、顔ぶれを見ただけで「次の総理」の座を本気で狙うイメージが全くわかないのは、どういうことだろうか。
本シリーズでは英国の議会政治をたびたび引き合いに出しているが、かの国の野党第一党(現在は労働党)は、シャドー・キャビネットを設置している。直訳すれば「影の内閣」だが、かの国の国会中継では、その「閣僚」すなわち野党の大物議員が質問に立つ時など、決まって「陰のXX大臣」という肩書きがテロップにつけられるほどだ。
日本でもかつての民主党、民進党は、政権の座にあった期間を除いて「次の内閣」と称する政策決定機関を設けていたし、かつては社会党が英国のシステムを真似て「社会党シャドーキャビネット」を設けたことがある。
いずれにせよ、英国で伝統的に「政権交代への備え」として機能してきたシステムとは、比べものにならない。
たとえば、2009年の時点で民主党は「次の内閣」を組織していたが、同年9月の総選挙で大勝し、翌月鳩山由紀夫内閣が誕生したわけだが、この時「ネクスト大臣」から本物の内閣の閣僚になったのは、20人中9人にとどまった。もっとも、野党時代の自民党も似たようなもので、安倍総裁を「次の首相」とする自民党シャド-・キャビネットがあったが、後に政権を奪回して第二次安倍内閣が誕生した際、閣僚に選ばれたのは17人中3人にすぎなかった。
余談だが、内閣を英語でキャビネットと言うのは、議会をホール(広間)と呼ぶのに対し、有力議員が集まって政策を協議する場を台所(=キャビネット)と呼んだことに由来する。
それはさておき、2021年11月にマスメディアを賑わせたのは、立憲民主党の代表選よりも、プロ野球の北海道日本ハムファイターズが、新庄剛志氏を新監督に指名したことであった。以下、日ハムと略称で呼ばせていただくが、現役時代(阪神、大リーグのニューヨーク・メッツ、日ハム)から、記録より記憶に残る選手だと言われていた。
写真)ニューヨーク・メッツ時代の新庄氏(2001年3月15日)
出典)Photo by Harry How/ Getty Images
こういう人が野党に現れてくれたらな、と思わされた。
なによりもまず、あの圧倒的な存在感。就任会見にド派手なスーツで登場し、
「監督でなくビッグボスと呼ばれたい」
と言い放って、たちまちその呼称を浸透させてしまった。
過去20年来、つまりは21世紀になってからと言うことになるが、日本の政治家でこれに匹敵する存在感を示したのは、2000年に、
「私が自民党をぶっ壊します!」
と言い放って自民党総裁選に名乗りを上げた時の小泉純一郎氏くらいなものではないか。
そんなものが政治家の資質と関係あるのか、と思われた向きもあるやも知れぬが、それまで、総裁選のたびに「変わったこと(=郵政民営化)を言う泡沫候補」とされながらも、一打逆転で総理総裁の座にまで上り詰め、当時すっかり落ち目と見られていた自民党を、世に言う郵政選挙で大勝させたのは、未だ記憶に新しいところだ。
再び新庄ビッグボスについてだが、監督としての手腕は無論まったくの未知数である。
しかし、野球解説者の間でも、とりわけ阪神OBたちからは、大いに期待できる、という声が聞かれる。
と言うのは、阪神時代の監督が故・野村克也氏で、当時から「頭を使う野球」について薫陶を受けている。ビッグボスの「公約」のひとつに、ノーヒットで点を取る野球をする、とあるのは、おそらく野村氏の影響だろう。
彼はまた、今風に言えば「チャラい」ように見えるけれども、現役時代をよく知る阪神OBらに言わせれば「人知れず努力するタイプ」で、カメラを向けられた時の言動とは異なり、練習量は大変なものだったそうだ。
今シーズンの日ハムは、最下位に沈んだばかりか、主力選手の暴力事件やら、チーム内で人種差別発言があったとかなかったとか、ろくでもない有様だったが、そうしたネガティブなイメージを、ビッグボスの登場で一挙に吹き飛ばしてしまった。
あえて1年契約を申し出た、という姿勢も、私には好感が持てる。
チームを再建するには長期戦略でなくては、という考え方もあり得ようが、コーチも全員1年契約で、結果が出なければ「即やめてもらう」と言い切った。
こういう、潔さと言おうか、
「この人は、なにかやってくれそうだ」
という期待を持たせてくれるような政治家が、今の日本、とりわけ野党に現れてほしいものだと、私は本当に考えている。
まるで野党が息を吹き返すことを期待しているみたいではないか、という声が聞かれそうだ。半分以上は、その通りである。
今の立憲民主党が国民から見放された感があるのは、まともな政権展望を示せていないことに、その最大の原因が求められる。
なにより、議会制民主主義が健全に機能して行くためには、政権担当能力のある強い野党の存在が不可欠なのである。日英の議会政治を「似て非なるもの」と私が評さざるを得ない最大の理由も、ここに求められるのだ。
(その1,その2,その3,その4)
トップ写真)監督就任会見に臨む新庄剛志氏(2021年11月4日)
出典)北海道日本ハムファイターズ 公式Facebook
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。