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.国際  投稿日:2021/12/30

バイデン外交の回顧と展望 私の取材 その1 インターネットではわからないこと


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・2021年8月初めにアメリカに戻り、9月中頃までワシントンで取材した。

・バイデン政権の外交政策を振り返り、2022年の展望を試みる。

・2021年後半、バイデン大統領就任以来、非常に不安定な要素が増えてきた。

 

私は、近年ワシントンと東京を往来しながら取材を続けてきたが、コロナの影響で頻繫な往来が難しくなった。そのため、2020年から1年以上東京に留まっていた。だがようやくアメリカの状況が少し緩和されたので、2021年8月はじめにアメリカに戻り、9月中頃までワシントンに滞在し取材をした。

この部分の取材がこの報告全体、つまりアメリカのバイデン政権の外交政策をこの1年ほど振り返り、さらに2022年という新たな年のその展望を試みることの出発点となる。

インターネットの発展により、あらゆる分野において情報収集の方法が変化してきたことは言をまたない。ビジネスの世界だけではなく、我々ジャーナリズムの世界もインターネットに頼る傾向が強くなってきた。

もちろん、それにはそれなりの合理性がある。しかしジャーナリズムにおいては、実際に現地を訪れ、皮膚感覚で現地の状況を把握することが重要だということを今回、ワシントンで改めて実感した。

現在、アメリカと日本との往来が難しい主な理由は、日本入国時の2週間の隔離だといえる。私も日本帰国後2週間隔離された。隔離期間中は、毎日のようにスマホで所在確認をされて、「体温は何度ですか。頭は痛くないですか」などと質問された。

返信が面倒になって2,3日ほど応対をしなかったところ、厚生労働省の担当者が自宅まで訪ねてきた。日本では、それほど厳格に2週間の隔離を実施している。

アメリカではそうした規制はまったくない。入国後すぐに自由に活動することができる。現在もワシントンなどでは一定数のコロナ感染者はいるが、入国者の隔離措置はないようだ。

ワシントンに着いて最初に驚いたのは、外を歩いているほとんどの人がマスクをしていないことだった。ただし、みなマスクを携帯していて屋内に入るとマスクをする。議会の公聴会、研究機関のセミナーやシンポジウムなども次第に対面が増えていた。

私はワシントンで政府機関にいた人や中国問題の専門家などの多くの取材対象の人たちに対面で会うことができた。この対面の取材は改めて現地にいることの重要性を認識させた。

私がその体を実際に使っての取材の重要さを別の意味で実感した1つの機会は8月26日のことだった。その日の午前11時頃、私はホワイトハウスの周辺を歩いていた。近くにある研究機関の中国問題専門家を訪れるためだった。ところが、ホワイトハウス周囲の警戒態勢が突然厳重になり、立ち入り禁止区間が一気に増えていた。その時は、一体何が起こったのかわからなかった。

その後、その時刻の少し前に、アフガニスタンのカブール空港で自爆テロが発生したことを知った。これは、タリバンではなくIS(イスラム国)の分派と言われている集団による自爆テロだった。

このテロで13人のアメリカ軍将兵と170人近くのアフガン人が死亡した。事件から1時間ほどしか経っていないにもかかわらず、ホワイトハウス周辺でのテロに備えた厳重な警戒態勢がとられたのである。また、議会周辺でも厳重な警戒態勢がとられていた。

2001年9月11日の同時多発テロ事件当時も、私はワシントンにいたが、この日の警戒態勢にはこれに近い緊迫感を覚えさせられた。

▲写真 カブールでの自爆テロで死亡した13人の米軍兵士の1人の葬儀の様子 (オハイオ州ミランにて、2021年9月13日) 出典:Photo by Matthew Hatcher/Getty Images

アフガニスタンでの出来事が、ほぼリアルタイムでアメリカの首都ワシントンにも重大なインパクトを与えるということだ。テロというのは非常に国際性が強く、同時多発的に何が起きるのかわからないということを実感する体験だった。同時に首都ワシントンがいかにアフガニスタンでの出来事に敏速に反応するかを改めて理解した。やはり、現地を訪れることによって、様々なことがわかるのだ。

さてバイデン政権のアジア・中東政策が今後どうなるかを予測するためには、現状を正しく認識する必要がある。当然のことである。

現在、外交面でのバイデン政権の立場は非常に微妙な状況にある。2021年後半のこの1,2ヵ月間に、バイデン大統領の就任以来最大の変化が起きたからだ。結論を先に述べると、非常に不安定な要素が増えてきたということだ。

(その2につづく。全7回)

**この記事は公益財団法人の国策研究会の月刊機関誌「新国策」2021年12月号に掲載された古森義久氏の同研究会での講演の記録の転載です。

トップ写真:バイデン米大統領(2021年12月23日、ワシントンDCにて) 出典:Photo by Drew Angerer/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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