アメリカの日本研究者はいま その3 日本を知らない日本叩き
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・日本社会の実態をつかんでいない米女性活動家が、私や日本への攻撃を続ける。ときにむき出しの偏見も。
・私や日本の多数派を攻撃する反日アメリカ人の実態は、日本側に日本のメディアを通して伝えることにした。
・彼らは注意深くなり、彼らの反日傾向は日本の多数派の警戒につながる。
こうした流れのなかでジャパン・フォーラムでの古森叩き、そしてその背後にあるとされる産経新聞へのデマや誹謗としか呼びようのない攻撃の言葉が激増したのだった。
そのなかでも目立ったのがクレモンス氏と歩調を合わせて私への個人攻撃を浴びせ続けるミンディ・カトラー氏という女性活動家だった。
この人の書きこみはあまりにデタラメで粗野なので、あえての再現はためらわれるのだが、ジャパン・フォーラムの腐敗を示す例証として、そのごく一部を紹介しておこう。
「古森は日本の恥」
「他者の言動を日本政府高官にいつも報告する危険な記者」
「南京虐殺をすべて否定」
そのうえにカトラー氏は私の身体的特徴や言語の特徴、家族の背景まで非難の材料に使い、偏見をむき出しにする。日本人のくせに、という人種偏見を明らかに感じさせる記述も多かった。
この中傷のひどさには他の投稿者もあきれ、「こんなひどい個人非難はみたことがないので、ぜひ根拠を提示してほしい」という要求が出たほどだった。
カトラー氏は1990年代にワシントンに「日本情報アクセス・プロジェクト」という小規模の調査機関を開いた。だがまもなく閉鎖に追いこまれ、現在の「アジア政策ポイント」へと発展解消させた。前者では会員や出資者が少なく、経営が難しくなったのだという。
だがカトラー氏がなぜここまで日本の悪口を述べ続けるかはナゾに近い。なぜなら同氏には日本とのかかわりあいがあるとは思えないからだ。日本研究の実績はない。日本語もできない。日本に長期、在住したこともない。だがジャパン・フォーラムなどでは以下のような「日本報告」を堂々と述べるのだ。
「いまの日本は右翼が非常に強く、多数の政治家、歴史学者、新聞記者らがその恐怖におののき、政府に反論できない。彼らは自宅に深夜の脅しの電話や、不審な物品を受ける。アメリカ人学者多数も同様に脅迫を受けた」
アメリカ人学者が日本の右翼に脅かされるというのだ。日本社会の実態をまったくつかんでいないことがよくわかる。
カトラー氏はとにかく自分の異様な日本観に合わない日本側の人物には右翼、軍国主義者、歴史修正主義者といったレッテルを貼るのだ。
このカトラー氏といつも手を組んできたのが前述のダデン氏だった。
ダデン氏は朝鮮半島や日本の歴史を専門に研究してきた女性歴史学者である。日韓の歴史認識問題では一貫して日本糾弾を鮮明にしてきた。
なにしろ博士論文が「日本の謝罪テクニック」という題で、日本の戦争関連の謝罪はすべてテクニックに過ぎないという主張なのだ。ダデン氏は2000年の「女性国際戦犯裁判」でも主宰者の1人となり、昭和天皇を有罪とする「判決」を出した。
その一方、ダデン氏は韓国政府には頻繁に助言を与え、2015年には韓国民間機関から「安倍首相の歴史歪曲にノーを告げた」との理由で「平和大賞」を受けたほどだった。
ダデン、カトラー両氏は2007年のアメリカ議会下院の慰安婦問題に関する日本政府非難の決議でも、有力な推進役だった。慰安婦問題では「性的奴隷」「日本軍による強制連行」「20万人が犠牲」など朝日新聞の誤報と歩調を合わせる形の日本叩きを続けてきたのだ。
この両氏はとくに安倍晋三氏に対して首相在任中も在野時代も「軍国主義者」とか「裸の王様」「ゴロツキ」など、口汚い言葉を浴びせ、日米関係にも「危険な人物」として攻撃してきた。
そしてクレモンス氏も含めてのこの3人はジャパン・フォーラムなどで私を「安倍氏の陰の顧問で、同氏にすぐ密告する」などとも主張していた。これまたまったくのデマである。
私はこうしたジャパン・フォーラムの理不尽なあり方に対してワシントン・ポストにとったような直接の反論や否定の主張はあえてしなかった。アメリカ側でしか読まれない、しかも日本のあり方に占領軍のような傲慢な姿勢でああせよ、こうせよと叫ぶ米側のデマゴーグのような連中と彼らの土俵で英語でやり取りをしても不毛だと判断したからだ。
そのかわりにカトラー、ダデン、クレモンス氏らの私への攻撃、さらには日本の多数派への攻撃はその実態を日本側に日本のメディアを通して伝えることとした。だから産経新聞だけでなく、多数の雑誌やネット論壇でも、これら反日アメリカ人たちの語録を報じ、その虚構性を指摘した。何度も報道してきた。
その効果はかなりあったと思う。カトラー氏らは日本語は読めなくても、日本での動きにはある程度の注意を払っており、日本のメディアの報道内容は翻訳、あるいは伝聞で伝わっていることが多いからだ。この人たちの反日傾向は日本側にかなり伝わったと思う。だから日本側の多数派は彼女たちには警戒するだろう。
その証拠にワシントンの研究機関の集会などでカトラー氏と偶然、顔を合わせると、自分のことを日本のメディアにネガティブに書いたのはけしからんと抗議されたことが一度ならずあった。
**この記事は月刊雑誌『正論』2022年1月号に掲載された古森義久氏の論文「日本叩きサイトが存続した理由と末路」の転載です。
トップ写真:改元にあたり記者会見する安倍晋三首相(当時)(2019年4月1日 首相官邸) 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。