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.政治  投稿日:2022/1/13

「異論も含め、まとめ上げていくのが仕事」自民党高市早苗政調会長


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth 編集部(黒沼瑠子)

編集長が聞く!」

【まとめ】

・自民党の政策決定プロセスは、全員参加型で反対者ゼロになるまで詰めるかなり厳密なものなので、今のままでよい。

 ・スタートアップ企業支援や賃上げによる消費マインド改善を目指し、またCO2削減のために原子力の研究やEV車普及にも力を入れる。

 ・昨年タイミングが合わず提出を断念した人権に関する国会決議案は今年の通常国会で再度提出をねらう。

 

年も明け、通常国会も始まろうとしている。今年夏に参院選が控えている。自民党の政調会長に就いた高市早苗衆議院議員に話を聞いた。

 

■ 党の意志決定プロセス

安倍:去年、児童手当の件では混乱があった。「政髙党低」ではなく、「政高党高」にしていくためにはどうしたら良いと考えるか?

高市:政策決定プロセスは今のままでいいと思う。自民党の政策決定プロセスはかなり厳密で、内閣が重要な閣議決定を行う場合は、必ず自民党の政調会の部会で反対者がゼロになるまで揉んで、内容によっては修正し、その後、政調審議会で政調会長、会長代行、会長代理、副会長が議論して、そこでも反対者ゼロにする。その上で総務会でまた反対者ゼロにしてという感じで常に詰めていき、ようやくその後、自民党、公明党の両政調会長が合意して内閣が閣議決定できる、という仕組みだ。

法律案一つにしても予算案にしても税制にしても、ものすごくプロセスを踏んで全員参加型でやっている。これは自民党の良き伝統だと思う。

なぜここまでやるかといったら、やはり内閣は与党が議席を得てその上で構成されるものなので、 国民の皆さんに対して与党・内閣として責任を負うから、主権者の代表である私たち国会議員がしっかり納得していかなければならない(からだ)。

その代わり党議決定したものについては、本会議中や委員会の場では決して反対しない。異論は色々出るけれども、それをまとめ上げていくのが政調会長の仕事だと私は思う。そのプロセスはすごく大事にしたいと思っている。

安倍:10万円給付では支給対象の線引きで混乱も見られた。

高市:10万円給付の時は総選挙の前に、自公の総裁で政権合意をまとめた。その中には具体的な記載はなく、公明党の公約では18歳以下の子ども全員に10万円を、自民党の方はお困りの方々に対して経済的支援を、と言う書きぶりにしていたので、元々選挙の公約が違っていたことになる。選挙直後なので、政策事項というよりは連立事項というような扱いにした。それは(岸田)総裁と私が電話で相談した上での決定だ。

政調会長同士が出て行くと、お互い公約をつくった者同士だから政策では譲れない。連立事項ということで党の代表同士で扱ってもらうことで幹事長にお任せしたので納得している。

ただその後、政調全体会議を行った時には異論もかなり出た。しかしもうすでに岸田総理ができるだけ早い給付を、と言明されていて、ここで児童手当の所得制限の枠組みを活用することをひっくり返してしまうと、年内の給付は無理になるので、そこはむしろ私が政調全体会議で事情を話して、皆さんにここは理解をして欲しいとまとめる側だった。個人的には相当不満はあった。働き方によって給付を受けられる家庭と受けられない家庭があると不公平感は残るので、本来は世代合算でやるべきだったと思う。

児童手当の仕組みそのものがもともと不公平だ。主たる所得者の年収を基準に児童手当を支給することになっているが、主たる所得者と従たる所得者の年収を比較しないと本来大変不公平である。世帯合算収入の高い家が受け取れて、世帯合算収入の低い家が受け取れないという状態が生まれている。

数ヶ月時間があれば世帯合算の作業はできたのにと思う。例えば不妊治療に対する支援とか、保育料とか世帯合算でやっている政策は他に色々あるので、あと数ヶ月時間をもらえたら世帯合算でもっと公平にできたのに、本当にお困りの方に対して出来たのに、という悔しさはある。

しかし、ここはやはり連立事項ということでの合意だし、総理が一日も早い給付とおっしゃっていたので政調としては折れたというか、皆さんに納得していただいた。

安倍:今後も同じようなケースが出てきた時は、不公平感ないようにするか?

高市:既に予算委員会で私も世帯合算の重要性ということを表明したし、もともと児童手当の仕組みそのものが常に不公平で世帯合算になっていないということで、政調の中の「少子化対策調査会」で世帯合算に児童手当の所得制限を変えていく議論をするように、という要請を調査会長に対して出しているので、政調の方で議論を進めていくつもりだ。

 

■ 「新しい資本主義」について

安倍:岸田政権は「新しい資本主義」を標榜しているが、党としてはどのような政策を考えているか。

高市:私が政調会長になったのが去年の10月1日で、10月31日投票の衆議院選挙に間に合わせて公約を作らなくてはならなかったので、私も「新しい資本主義」という言葉が当初は咀嚼できなくて、岸田総裁に電話をかけてレクチャーしていただかないと公約に落とし込めないという相談をしたぐらい、最初はあんまりわかっていなかったのが正直なところだ。

成長と分配の好循環」という言葉は、安倍内閣時代から使われてきたので、どこがどう違うのかというところが非常に難しかったが、基本的にはそれほど大きく変わるものではない。ただ市場や競争に全て任せるのではなくて、市場の失敗を是正する仕組みをしっかり続けていこう、ということだ。

これから政府の中で、新しい資本主義の姿が徐々に明示されていく段階だと思う。令和3年度補正予算、それから令和4年度の予算案など、これから国会で審議してもらうものの中では、一つはやはりデジタル化、あと気候変動対策、それから経済安全保障科学技術などの分野で、まず政府による投資を行い、それから必要な規制改革を行って民間投資を呼び込んでいく。そういう姿というのが見えてきたのかなと思う。

それからもう一つは岸田総理がとても力を入れている「スタートアップ支援」だ。これは今まで日本が弱かった部分で、スタートアップをいかに育てていくかということが国力の増強に繋がると思う。

私は自分の著書にも書いたが、日本の「創薬力」=薬を作る力が弱いというところに目をつけた。アメリカと比較するとアメリカの場合はものすごいスタートアップを支援するシステムがあり、そういう所がまた創薬にも相当貢献している。国の研究機関などの成果もスタートアップに対し提供して、できるだけ早く実用化させるチャンスも与えながら、資金をきちっと確保できるシステムがアメリカは強いなと思っていたので、岸田総理が最近とてもスタートアップを支援するという方向を打ち出してくださっているのは嬉しい。やはりなんといっても人への投資で3年間に4000億円規模ということで、人材育成を強力に支援する。この方向も間違ってない、とっても重要なことだと思う。

分配の方はやはり賃上げ税制を抜本的に強化したが、これは法人税を払ってないところには対応できない。特に中小企業の中で経営が苦しい、法人税払えないところに対しては、例えば持続化給付金や、色々な給付を受ける時にメリットを与えたり、賃上げをした場合にメリットを与えたり、政府調達の時の点数を加点したりするというメリットを付与して、賃上げのモチベーションにするという方向は固まった。

賃上げがなければ消費マインドは改善しないから、これは凄く大事なポイントだと思う。それからこれは私が総裁選挙の時に特に主張していた点だが、フリーランスの方が全く契約書なしに働かされていたり、契約書の中身が酷いものだったりするということで、法整備が必要だということを打ち出した。これも政府の方で、しっかりと契約を義務付ける形の法整備をしてくれるということなので、ここは期待している。これも分配政策になっていくと思われる。

 

■ カーボンニュートラル政策について

安倍:2023年度46%CO2減(対2913年度)という目標は非常に厳しい。現実対応として原発を活用しなければなかなか達成が難しいのではないか。党として、政府にどう伝えるのか。

高市:まず去年のCOP26アメリカ、フランス、イギリスなどが新たな原子力支援策とか新しい炉の研究開発支援を表明したのは非常に大きい。

デジタル化で電力消費は爆発的に増えていく再生可能エネルギーだけでは、低圧の家庭用であればともかく、高圧の産業用は賄えない。だからこそ原子力の活用は必要ということを私もずっと訴えてきた。

政府は原子力の活用を否定していなくて、「エネルギー基本計画」でも多くの原子力について必要な規模を継続的に活用するという表現が入っている。ただリプレイスや新増設の計画は今の段階ではないということのようだ。

だからまず第1歩は、安全がきちんと確認されたところの原子力発電所を再稼働させて、それで繋ぐ。

それからやはり「SMR(小型モジュール炉)」というのは非常に現実的な選択だ。日本企業も参加してアメリカでも研究開発が進められているので、2029年商用化、実用化目標と聞いていたが、もう少し早くなるだろう。2030年代は「核融合」の時代だと考えられるので、私は国家プロジェクトとして、SMRや核融合に力を入れていくべきだと思う。

しかし、SMRはどうしても原子力発電所の小型版という感じだから、避難計画などいろいろな課題がある。私はSMRは地下立地が現実的だと思う。発電設備そのものは高いものではないし、小型だからデータセンターや工業団地があるような地域の地下に立地したら避難計画とかそういった課題がクリアできると思う。

核融合は、特にウランとプラトニウムを使わないという意味で安心感を皆さんに持っていただける技術なので、国が相当力を入れていかねばならないと思う。政府もSMRについてかなり前向きな発信が最近なされたので、私は大変期待をしている。世界的な流れはやはり原子力の活用だろう。これは気候温暖化対策として非常に有効だ。

 

■ 自動車産業政策について

安倍:トヨタは、EV一本やりではなく、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池車、全方位でやるんだということだが、他国の企業ではEV一本に絞っており、動きもとても早い。こういうような流れの中で日本の自動車産業は競争力を保っていけるのか。この点はどう考えているか。

高市:基本的に政府与党としては、まずEVをしっかり後押しするという方向だ。EVのコアになるのは蓄電池なので、令和3年度の補正予算で大規模製造拠点を立地するということで1000億円を盛り込み、それから蓄電池の性能向上のために約1500億円、研究開発支援を行っている。基本的に政府としてはまずはEVに投資するということだ。

あとはEV車はガソリン車に比べてすごく高いので、購入支援ということで、今までの2倍、最大80万円の援助も盛り込まれた。それから高速道路とか集合住宅に充電器を設置しなければならず、これも政府として頑張っていくことになったので、まずは本気でEVを普及させるという方針が固まっている。

 ただ、EVがこのままずっと増えていくと、問題になるのはリチウムの需要がだいたい42倍、コバルトの需要が21倍必要だということなので、そうすると資源獲得競争というのが激化していく。当面の戦略としては、EVに加えて合成燃料や水素の活用という選択肢をしっかり残していかなければならない

これも予算の中で、合成燃料を2040年までの商用化を目指して技術開発をする、水素は2030年までに供給コストを今の6分の1にするということで2兆円の基金が設けられて、これを活用していくこと、複数の選択肢を持ってやっていくということだ。

合成燃料や水素技術は、うまくいけばアジアに展開出来るので、私が言っていた成長戦略にもなっていくかなと思う。

写真)ⒸJapan In-depth編集部

 

 中国の人権問題について

安倍:人権問題を巡る中国との距離感について、政府がはっきり表明していないという印象を受けるが、党としてどういうふうに政府に言っていくか。

高市:自民党の衆議選の政権公約」に、『ウイグル、チベット、モンゴル民族、香港などこの人権等を巡る諸問題について、主張すべきは主張し責任ある行動を強く求める』と明記してある。だからこの公約は守らなくてはならない。(人権侵害行為を非難する国会決議案の)臨時国会への提出を断念しなければいけなかったのは、悔しいやら残念やらで本当に辛かった。が、気持ちを切り替えて、今年の通常国会に提出することに向けて頑張っていく。

それとやはり国権の最高機関である国会が最終決議するということは非常に意義が大きいし、インパクトがある。これは国会決議で臨まなければいけない。ただ国会決議というのは残念ながら政調マターではなく、国会対策委員会マターなので、国会対策委員長の上司は幹事長であり、幹事長の判断、了解がなかったら決してできない

今回の臨時国会では、「内容はいいんだよ、タイミングの問題なんだよ」と茂木幹事長がおっしゃっていた。恐らくあの頃はまだ政府は、北京五輪の外交的ボイコットを表明していなかったので、そうおっしゃっていたのかなと思うが、今は「政府高官を送らない」ということになったので、タイミングの問題はなくなったと考えている。通常国会では出せるように幹事長に改めてお願いしてみるつもりだ。

 

■ 安全保障について

安倍:敵基地攻撃能力やミサイル防衛について、党としてはどのような姿勢なのか。

高市:令和4年度の予算案には「レールガン」の研究開発予算が盛り込まれており、これは歓迎している。他にも電磁波を使った無力化に向けた対策も盛り込まれておりこれも非常に良いことだと思う。

自民党の政権公約には、『相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力を保持する』という書き方をした。敵基地攻撃と書くと、こちらから先制攻撃でミサイルを打ち込むようなイメージを持たれるが、これはあくまでも相手領域内でミサイルなどを阻止する能力だ。イコール無力化で、要は相手の指揮統制機能を早く無力化した方が勝ちだと私は思っている。

残念ながら今の日本の情報収集能力では一発目は確実に着弾する。対空防衛で防ぐことはできない。特に極超音速兵器になると、今のところ100%防衛はできない。

なので、既に一発目を撃たれた後の話、日米共同で情報収集ができた場合に、その兆候があった時にいかに早く相手を無力化するかだが、基本的に「衛星妨害」はやるべきだと思う。あとはやはり「ジャミング」、電磁波技術を使って相手の通信や電波の利用を無力化する。この辺りに力を入れていきたいと思っている。

そのためには日本の宇宙開発の民生技術をいかに活用できるか、スピンオン(注:Spin-on 民生技術の軍事転用)できるかというところにかかってくる。ロボットアームでの細かい試料の採取など、日本の民間宇宙技術というのは非常に優れたものがあるので、敵性衛星を無力化することを考えると、そういった民生技術を何とか活用できるようにしていかなければならない。

ただ、今、なかなか民間技術のスピンオンについては慎重な考え方が多いので、ここをどう説得していくかは考えていかなくてはならない。

 

【取材を終えて】

インタビューは昨年総裁選前の8月以来だったが、高市氏の主張は全くブレていなかった。政調会長就任後、新聞記事には、岸田氏vs高市氏などと党と官邸の対立を煽るようなものも散見されるが、高市氏は意気軒昂で、仕事への意欲は満々といった感じを受けた。

基本的に党と内閣の緊張関係はあってしかるべきだし、党として組織決定したなら内閣に物申していくのは当然のこと。安全保障、成長戦略、人権政策、党としての意見をどんどんまとめ上げ、情報発信していくことが高市氏に求められる。それがその先に繋がっていくだろう。参院選はその一里塚に過ぎない。

 

(インタビューは2022年1月7日に実施)

 

(了)

写真)ⒸJapan In-depth編集部

 




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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