拍手禁止は「議会の掟」? 富山県高岡市カラス問題 その4
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・カラスの生息数の実態調査の質問に対し、高岡市の部長は「当面は捕獲に専念」と回答、落胆した。
・しかし、傍聴人から、議会では禁止されている異例の拍手が。
・議員は、市民の共感を得る努力をしなければならない。市民ファーストを貫くことが大事。
いよいよ12月14日、一般質問の最終日。会派「高岡愛」の3人は午前8時半に市役所に集まりました。本会議スタートまでの1時間半、3人がお互いに批評し、練習したのです。若葉マークの新米議員としては、何より練習です。
いざ本番です。「高岡愛」は午後1時から、熊木議員、嶋川議員、そして私が順番に質問に立ちますが、嶋川議員の質問に対して、高岡市の当局側は、ほとんど答えを返していないように、私には思えました。
そんなことを考え込んでいた時、ふいに私の名前が呼ばれました。嶋川議員に対する答弁が予想より短く、不意打ちを食らいました。
「議長、7番」。私は声を上げ、席を立ちました。そして、緊張しながら議場を歩きました。事前に書いた原稿をプリントアウトして、議場に立ちました。なるべく、原稿を読まずに、正面を見据えて、声を張り上げました。
私の質問は6つありました。そのうち、特に強調したかったのは、カラスの生息数の実態調査です。ねぐらがあると言われているのは、古城公園。市民の憩いの場だけでなく、高岡市の観光名所です。その近辺で生息数の調査を求めたのです。
こんな質問を行いました。
―カラスは増えている、という市民の声をよく聞きます。カラスの糞の掃除を毎日している人は、「コロナのせいで、カラスが増えた。古城公園を歩く人が減り、人目を気にしなくなったカラスが産卵しやすくなった」と分析しています。
素人感覚ですが、本当に、増えているのか。現状把握が急務です。
カラスは早朝にエサ場に向かい、日中はエサ場周辺で回遊し、夕方にねぐらに戻る習性があります。したがって、この習性に従って、早朝にねぐらから出るカラス、夕方、ねぐらに戻るカラスの数を数えれば、カラスの生息数がわかります。
そこで、カラス対策について、1つ目の質問です。
古城公園にカラスのねぐらがあると言われていますが、生息数の調査を実施する考えはあるのでしょうか。お尋ねします。―
画像)質問をする筆者
出典)筆者提供
その回答は、どうだったのでしょうか。答弁したのは、高岡市の部長です。
その部長は、2010年度から公園内にカラス檻(おり)を設置し、捕獲を行っているとした上で、「当面は、捕獲対策に注力したい」と指摘。さらに、「今後、より効果的なカラス対策を講じていく上で、生息数の把握が必要になる場合には、調査の実施を検討してまいりたい」と答えたのです。
私からすれば生息数調査を「やるか」、「やらないか」を答えてほしかったのですが、官僚言葉で煙に巻くような答弁でした。
私は大いに落胆しました。調査もしないなら、カラス問題の解決は程遠いのではないでしょうか。
この答弁を聞きながら、私は最近、よく行政で使われている言葉を思い出しました。
それは、EBPM(Evidence Based Policy Making=エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)です。直訳すれば、証拠に基づく政策立案です。
つまるところ、経験や勘で行ってきたその場限りの政策をやめ、目的や根拠を明確化した上で、政策を実施するやり方です。まさに、東京都や富山市などは、生息数の実態調査を行った上で、カラス対策を実施したのです。エビデンス、証拠集めを実践したのです。高岡市でも調査してほしいと切に思いました。
私が質問した際に、「異変」が起きました。拍手が起きたのです。
この拍手した傍聴人は周囲の雰囲気に気づき、すぐに拍手をやめましたが、これ以上やると、注意を受けます。
議会で、傍聴人が拍手するのは禁止されているからです。
高岡市議会傍聴規則では、
「議場における言論に対して拍手その他の方法により公然と可否を表明しないこと」と明記されているのです。
拍手もできない。それが「議会の掟」なのです。これは高岡市だけではなく、全国の地方議会でもそうなのです。
その「掟」自体、本当に正しいのか。
改革派の知事として知られた鳥取県の片山善博氏が著書「自治体の自立塾」という本の中で拍手を容認するよう訴えています。
開かれた議会を実現するうえで、大事だというのだ。
「地方自治は民主主義の学校と言われ、その民主主義社会では住民が主役のはずだ。ところが、その民主主義を最前線で具現化すべき地方議会において、住民に発言の機会がないどころか、言葉を発することも、拍手で賛意を表すことも禁じられている」
「地方議会がこんなありさまだとすれば、多くの住民がこれに違和感を覚え、不信の念を抱くにいたっても不思議ではない」
「議場の審議を妨害するような場合を除いて、傍聴人が議員の発言に賛意を示して拍手することぐらい許されていい」。
私は片山さんの考えに大いに納得しました。結局、議員は、市民の方々から共感を得るような努力をしなければなりません。市当局からそっけない回答しかもらえなくても、挫けてはいけないのです。市民ファーストを貫くことが、大事なのです。
トップ画像)古城公園のカラス
出典)筆者提供
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この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。