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.国際  投稿日:2022/10/6

南シナ海などで米比合同軍事演習開始


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・フィリピン海兵隊と米海兵隊による共同軍事演習が10月3日から始まる。

・マルコス政権は領土問題が重要問題であると国民、そして国際社会に印象付けている。

・マルコス大統領の施政方針は、米中一方に偏らず均等に付き合うというもので、東南アジア流のしたたかさが滲み出ている。

 

フィリピン海兵隊と米海兵隊による共同軍事演習が10月3日から始まり、フィリピン西部に広がる南シナ海や台湾との間にあるルソン海峡の沿岸であるバタネス州などで各種作戦の演習を行う。この演習には日本の自衛隊員と韓国の兵士も初めてオブザーバーとして参加している。

カマンダグ6」と名付けられた共同演習にはフィリピン海兵隊員630人、米海兵隊員2550人が参加しており、10月14日まで続けられる。

この演習は南シナ海に面した島や台湾との間のルソン海峡沿岸で実施されることからもわかる通り、一方的な海洋権益を主張して島嶼や環礁を埋め立てて軍事拠点を建設し続けている中国を意識したものであり、同時に台湾と中国の緊張状態を見据えた演習となっている。

米比両軍の海兵隊部隊が主に参加する演習であることから中国が一方的に不法占拠を続け、フィリピンやマレーシア、ベトナム、ブルネイなどと領有権争いが生じている南シナ海の島嶼や環礁への上陸作戦も念頭にしているとみられている。

 南シナ海の現状とマルコス政権

今回の軍事演習「カマンダグ6」は6月30日に就任したフェルディナンド・マルコス新大統領のもとでは最大規模の軍事演習となり、マルコス政権が南シナ海問題を極めて重視していることの表れといえる。

マルコス大統領は選挙キャンペーン中から「領土問題では1ミリも妥協しない」との強い姿勢を示しており、中国に対して強硬姿勢と融和政策の間で揺れ動いたドゥテルテ前政権と異なりマルコス政権下では領土問題が重要課題であることを国民そして国際社会に印象付けている。

ドゥテルテ前政権の末期、2021年11月16日にはフィリピンが船を座礁させてそこに比海兵隊員が駐屯する形で実行支配を続けている南シナ海のアユンギン礁に向かう兵士の食糧や生活物資を積んだ民間の船舶2隻がアユンギン礁に近づこうとするのを中国の海警局船舶3隻が妨害する事件が起きた。

アユンギン礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある環礁だが、中国海警局船舶はEEZ内も自由に航行して国際ルールを無視している。

昨年11月の事件では海警局船舶が放水銃による放水を比船舶に浴びせ、進路妨害をするなどした。このため危険を感じた比船舶は物資を積載したままマニラに戻っている。

こうした「主権侵害」に対して当時のドゥテルテ政権のテオドロ・ロクシン外相は「中国はこの海域で自国の法を執行する権利はなく、今回の行為は違法である。中国によるこうした自制心の欠如はフィリピンとの二国間関係を脅かすものだ」と厳しい態度で中国に抗議した。

しかし中国側は「フィリピンの船舶2隻が中国の同意を得ず南沙諸島に侵入した。これに対し中国は主権と海洋秩序を守るため法に基づいて公務を執行した」と反論、一方的な主張を繰り返した。

ドゥテルテ前大統領は比外務省による抗議以上の強硬策は控え、経済に依存する中国への配慮を示した。

その後南シナ海では中国海警局船舶や海軍艦艇、空軍航空機の活動は台湾海峡の緊張にともない、台湾海峡や台湾周辺での「示威行動」が増え、比較的平穏な状況が続いている。

こうした状況も10月16日から北京で始まる中国共産党大会で習近平国家主席の3期目となる続投が決まるか、新執行部の顔ぶれがどうなるかが最大の焦点とされ、共産党大会を前に対外的な摩擦や挑発を控えているのではないかとみられている。

■ マルコス政権の対中政策

▲写真 大統領選のキャンペーン中に演説するフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)大統領。2022年2月19日 出典:Photo by Ezra Acayan/Getty Images

マルコス新大統領はこのように南シナ海問題、領土問題に関しては中国に一歩も譲る姿勢をみせておらず、国民からの支持も大きい。しかし中国からの多額の経済援助や投資などを完全に無視することは自国経済の運営を困難にする可能性もあり、経済問題での中国依存政策は続くものとみられている。

マルコス大統領は就任前の大統領戦での当選が確実になった時点で習近平国家主席と電話会談しており、「両国関係のギアをさらに上げて実りある結果を模索する」と述べ、習近平国家主席も「中国は周辺国との外交において常にフィリピンを優先的に位置付けており、経済や社会の発展に積極的な支持と援助を行う」とフィリピンへの変わらない援助を約束したという。

さらに7月6日にはフィリピンを訪問した中国の王毅外相と会談し、「両国関係の黄金時代を築きたい」と王毅外相は述べ、今後も経済面を中心に関係強化の方針を明らかにした。

そして対立が続く南シナ海問題で王毅外相は「対話を強化して適切に処理したい」と対話路線を強調するに留まった。

こうした中国の関係を維持しつつ、安全保障分野では米国やその同盟国との関係を強化するというマルコス大統領の施政方針は、一方に偏らず均等に付き合い、その中で経済支援や軍事支援など「もらえるものは何でも、どこからでももらう」という東南アジア流のしたたかさが滲み出ている。

それだけに今後も米中によるフィリピンへの「ラブコール」が続くものとみられている。

トップ写真 「カマンタグ6」オープニングセレモニーに出席する米、フィリピン、韓国、日本の各代表(2022年10月5日Fort Bonifacio, Philippines) 出典:III MEF Marines




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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