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.国際  投稿日:2022/2/8

米中関係と日本 その2 中国は対米関係が険悪だと日本に微笑をみせる


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデンは、「宥和」でナチス・ドイツを増長させたチェンバレンか。今や「中ロVS米」の構図に。

・「社会主義的」「中国的」世界統治を目指す中国に、バイデンは協力や協調を強調し始めた。

・中国は、対米関係「改善」なら日本には強気に、対米関係「険悪」になると日本に手を差し伸べる。

 

 バイデンは現代のチェンバレンか?

―― ところで、さっき触れたウクライナの問題ですが、中国だけでなくロシアもまた対米強硬に出てきたということですか。

古森: そうです。ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合したのは7年前の2014年です。ところが、昨年12月になって、ロシアはウクライナとの国境周辺に大規模な部隊を集結させており、欧米からは軍事攻勢をかけるのではないかとの見方も出ています。ウクライナに対してロシアのプーチン大統領は明らかに今まで以上に強気に出ています。

背景には、対決より対話を好むバイデン政権の姿勢があるのは明らかです。それで、私は産経新聞12月21日付にバイデン氏 現代のチェンバレン?という評論を書きました。チェンバレンは第二次大戦直前の英国の首相で、1938年のヒトラーとのミュンヘン会談でドイツへのチェコスロバキアの一部割譲を認め、ドイツを増長させ、大戦を招いた政治家として知られています。当時のチェンバレンの対応は「宥和」と呼ばれている。今のウクライナをめぐるバイデンのプーチンに対する態度は、まさにチェンバレンの宥和政策を思い起こさせるということです。

そうした批判をしている人は欧米では結構多くて、例えばワシントン・ポストのコラムニスト、マーク・ティッセン氏は同紙(12月10日付)に、ウクライナに関してバイデンは自分の内部のチェンバレンを投射しているという見出しの記事を書きました。要は、プーチンがウクライナへの軍事侵攻の構えをとるのに対し、バイデンが経済制裁以上の対抗措置を取らない方針を当初から示したことや、ウクライナへの兵器供与もロシアが侵攻しない限りはしないと言明したことを、ロシアの軍事侵攻を誘う「宥和」だと批判しているのです。

▲写真 チェンバレン英首相とナチス・ドイツのヒトラー総統(1938年10月2日 ドイツ・ゴーデデスベルク) 出典:Bettmann/Getty Images

こうした歴史の類似は米議会でも語られています。米下院軍事委員会の筆頭メンバー、マイク・ウォルツ議員(共和党)は12月中旬、超党派議員団の団長としてウクライナに視察に行き、アメリカはウクライナに緊急に軍事支援を実行すべきであり、それをしないバイデン政権の対応は「チェンバレンの宥和政策と同じになる」と懸念を表明しています。

▲写真 米下院軍事委員会で質問する共和党のマイク・ウォルツ議員(2021年9月29日) 出典:Photo by Rod Lamkey-Pool/Getty Images

いずれにしても、バイデン政権が弱さを露呈した結果、今や「中ロ対アメリカ」という対立構図さえ出来つつあるのです。

―― それにしても、習近平の中国はいったい何を目指しているのでしょうか。

古森: 中国が何を目指しているかについては、これまでいろいろな議論があったけれども、最近は一つに収斂されて来たように思います。それは、トランプ前政権が言っていたように、新たな世界秩序を中国の価値観で作っていくということです。この点での中国のターニングポイントとなったのは、2018年6月に北京で開かれた中央外事工作会議で、外交関係に携わる中国共産党政治局の常務委員が全員集まって2日間にわたり協議し、自分たちはグローバルな統治を目指していくと習近平が宣言したことです。

それ以前は、東アジアの覇権だとか台湾併合といった範囲に止まっていたけれども、ここで「グローバルな統治」ということを初めて公式に宣言したのです。しかもその統治は「社会主義的」で「中国的」なものでもあると。これによってアメリカは、やはり中国は今のアメリカ主導の国際秩序とは違う中国独自の価値観と政策に基づく国際秩序を作ろうとしているということを認識したのです。

それを一番敏感に察知して、素早く対応したのがトランプ政権です。当時のペンス副大統領が、2度にわたる対中政策演説を行ったのもそうした認識が背景になっている。つまり、中国は基本的にアメリカの国益と安全を脅かしていく存在だから、正面から対決しなければならない、中国共産党とは共存できない、と。それゆえに、決して競争や協調といった言い方はしなかった。ところが、最近のバイデン政権は、中国との協力や協調を強調し始めた。だから、放っておくと中国にどんどん攻められる。

 ―― バイデン政権の対中宥和姿勢は、多くの日本の政治や経済の指導者たちにも言えることですね。

古森: 確かに、日本のリーダーたちも、中国は経済的に非常に重要だからとか、隣国で引っ越しができないからとか言って、中国との摩擦を避けようとする傾向が強い。しかし、インドとパキスタンのように、隣国同士は仲が悪いのが普通で、引っ越しができないといった言い方はナンセンスだと思いますね。

また、日本にとって中国は経済的に非常に重要だからと言うのも、経済を政治目的の武器として使って攻めてくる中国の手法に屈した非常に敗北主義的な考え方です。こうした中国の手法をアメリカは「経済恫喝外交」と称して強く非難しています。

中国との関係を経済だけで見ている日本人は、米中関係が少し改善してくると、アメリカにつくか、中国につくかの踏み絵を踏む必要がなくなるからホッとするわけです。ところが、米中関係が少し改善すると、安全保障では中国は日本に対しては強く出てくる。現状から言えば、中国が軍事力で尖閣を奪うということもあり得る。現に、そういうシナリオを中国の軍事専門家たちは論文で発表しています。

逆に米中関係が険悪になると、私が繰り返し述べているように、決まって北京に二階俊博氏が現れる(笑い)。対米関係が険悪になると、中国が暫定的・便宜的に日本と仲良くしようと手を差し伸べてきて、その差し伸べられた側にまず出てくる日本人は、いつも二階さんだったということです。

(その3につづく。その1。全3回)

**この記事は日本政策研究センターの月刊雑誌『明日への選択』2022年2月号に掲載された古森義久氏へのインタビュー報告「『宥和』のバイデン政権が中国を増長させる」の転載です。

トップ写真:バイデン米大統領(当時、副大統領)と中国の習近平国家主席(当時、副主席)2012年2月14日 ワシントンDC 出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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