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.国際  投稿日:2022/3/2

中露、ミャンマーに武器供与 国連報告


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ミャンマー軍政に対して中・露・セルビア3カ国が武器供与を続けている、と国連報告書。

・武器禁輸の採決に向けて緊急会議を招集するべきだと安保理に求める動きがあるものの、ウクライナ問題により先送りされている。

・ASEANが求めるアウン・サン・スー・チーさんとの面会を軍政トップが拒否、打開の道筋は依然として見えてこず。

 

ロシアによるウクライナ侵攻が続き国際報道はウクライナ問題一色となっているが、東南アジアのミャンマーでの軍政と民主化勢力による戦闘は現在も続いており、犠牲者は増え続け実質的な「内戦」状態となっている。

そんな中、国連でミャンマーの人権問題を担当する特別報告者が2月に国連に対して行った報告書の中でミャンマー軍政に対して中国、ロシア、セルビアの3カ国が武器供与を続けていることを明らかにしたことがわかった。

国連のトム・アンドリュース特別報告者は2月22日に明らかにした報告書で、2021年2月に武力によってアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政府から政権を奪取したクーデターから1年が経過した2月1日以降も各地での戦闘は続いており、こうした戦闘に中ロ、セルビアから供与された武器が使用されている可能性が高いと指摘した。

戦闘は国軍・警察に対してクーデター発生後に民主勢力が結成した「国家統一政府(NUG)」の武装部門である「国民防衛隊(PDF」と共同戦線を組む国境周辺の少数民族武装勢力との戦闘で、軍は爆撃機や戦闘機、長・中距離砲などを投入して治安維持に躍起となっている。

こうした国軍の軍備を支えているのが中国、ロシアなどの3国であることが国連での報告で明らかになったことで、国際社会の3国への対応が問われる事態となっている。

ウクライナ侵攻という独立国による独立国への一方的な侵略、戦闘とは形式が異なるミャンマーの戦闘ではあるものの、中ロなどによる武器援助という支援はウクライナに軍事侵攻したロシアとそれを静観し続ける中国の国際秩序に対する姿勢を反映したものとしてとらえられている。

▲画像 ミャンマーの軍事クーデターに反対するデモ隊(2021年5月2日、日本・東京) 出典:Photo by Yuichi Yamazaki/Getty Images

■ 国連安保理に緊急会合呼び掛け

トム・アンドリュース特別報告者は報告書の中で「ミャンマー市民への攻撃や殺害に使用されていると判明している武器の軍政への供与を禁じる協議を行い、武器禁輸を採決するために緊急会議を招集するべきだ」と安保理に求めた

ただ、現在は国連、安保理ともにウクライナ問題で手一杯の状況になり、ミャンマー問題は先送りの状態となっているという。

さらに報告書は3カ国によるミャンマー軍への武器供与は「市民への攻撃、弾圧に使用されることを完全に認識した上での行為であり、おそらく国際法違反になるだろう」とし、今後3カ国が法的責任を問われる立場になる可能性にも言及している。

特に安保理の常任理事国でもあるロシアや中国に関してはミャンマー軍に戦闘機や装甲車両を供与しており責任は重大であるとしたうえで、ロシアに関しては今後さらなる武器供与でミャンマー軍と合意している、と指摘してロシアのミャンマーでの人権侵害への間接的関与を批判している。

▲画像 横断幕を掲げ、スローガンを叫ぶデモ参加者(2021年2月15日、ミャンマー・ヤンゴン) 出典:Photo by Hkun Lat/Getty Images

■ 依然と続く市民と軍の戦闘

こうした中、中心都市ヤンゴンでは2月19日以降、武装市民組織であるPDFメンバーによる軍のタケタ郡区内にある監視ポストや兵士が駐屯するスタジアムなどへの手りゅう弾や爆弾による攻撃が続いている。これに対しPDFメンバーが潜んでいるとの情報に基づき軍がタケタ・セブン市場に放火する事態となっている。

また中部にある第2の都市マンダレーでも2月中旬以降戦闘が激化しており、軍の検問所への爆弾攻撃や軍の車列への待ち伏せ攻撃が続いている。2月21日には兵士が駐屯するヤダナルボン大学構内に地元武装市民による2度の爆弾攻撃があり、軍側に死傷者が出たという。

北部サガイン地方域ではシュエボ郡区で地元PDFがドローンを使って軍施設を攻撃したと地元メディアは伝えた。

こうしたPDF側の攻撃に対して軍は爆撃や戦闘機による上空からの攻撃を続けており、PDFメンバーのみならず、一般の市民の犠牲も増えているという。こうした軍の攻撃に中ロなどから供与された武器が含まれているものとみられている

ミャンマー問題の調停・仲介に動いている東南アジア諸国連合(ASEAN)も議長国のカンボジアがASEAN特使をミャンマーに派遣することを計画しているが、ASEAN側が強く求めているアウン・サン・スー・チーさんら身柄を拘束されている民主政府の幹部らとの面会をミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政トップが拒否していることから打開の道筋は依然として見えてこない状況が続いている

タイ・バンコクに拠点を置くミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると3月1日の時点で軍により殺害された市民は1589人にのぼり、逮捕、訴追を受けた市民は9437人となっており、ミャンマー情勢はウクライナ問題の陰に隠れて、ますます激化の道をたどっている。

トップ画像:反クーデターのデモ隊が燃やしたタイヤの前を自転車で通過する住民たち(2021年3月28日、ミャンマー・ヤンゴン ) 出典:Photo by Stringer/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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