[藤田正美]<ウクライナ大統領選挙>親欧米派の圧勝で強硬化する「チョコレート王」も政治手腕は未知数
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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◆ウクライナは親欧米路線を選択 プーチンはどう動く
ウクライナの大統領選挙が終わった。親ロシア派が選挙を妨害した東部ドネツク州とルガンスク州を別にして、「チョコレート王」ペトロ・ポロシェンコ氏が第1回目の投票で過半数を獲得した。圧勝と言っていいだろう。親欧州派と親ロシア派との融和を掲げたことで、国の分裂を救うリーダーになったということだろうか。
しかし当選したらなぜか急に強硬になったように見える。親ロシア派を「テロリスト」と呼び、武器を放棄しなければ交渉には応じないとして、軍に制圧を命じた。親ロシア派が占拠したドネツクの国際空港の奪回作戦では、戦闘機やヘリ空挺部隊まで投入した。どうやら空港は政府側が支配したようだが、この作戦で親ロシア派は50人から数百人も死亡したという報道がある。
ロシアのプーチン大統領は、選挙前から「ウクライナ国民の意思を尊重する」と語り、暫定政権に対するこれまでの態度を一変させてきた。しかし一方で、ロシアはロシア系住民の安全を守る権利があるとして、軍事介入という札は手元に置いたままだ。国境線に集結した4万のロシア軍を撤退させるといいながら、撤退した事実はない。
これだけの「犠牲者」を出して、果たしてプーチン大統領は黙っていられるのだろうか。ポロシェンコ氏は6月前半にプーチン大統領と会談するとしていたが、現段階でロシア側は否定的であるようだ。何百人もの親ロシア派を見殺しにした後、すぐにウクライナの新大統領と会談するというのでは、クリミア併合後に急上昇していたプーチン大統領の国内支持率が大きく揺らぐかもしれない。
この後、ポロシェンコ氏がどのように親ロシア派と折り合いをつけるのか、そこにロシアがどのように関わるのかで、ウクライナ危機が鎮静化するかどうか左右される。ポロシェンコ氏は48歳と若いが、ウクライナのジャンヌ・ダルクと呼ばれたティモシェンコ元首相のもとで外務大臣を務めたこともある。
それでも政治的手腕ということになると未知数だ。オレンジ革命と呼ばれた親欧州派が勝利した後、その政権は迷走した。今回は迷走することなく、ウクライナという地政学的に難しい位置にある国をまとめていけるのかどうか、まだ予断は許されない。
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