57年ぶり倒産件数低水準「高岡発ニッポン再興」その2
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・2021年度の倒産件数は57年ぶりの歴史的低水準。コロナ禍による実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」が下支え。
・今年から元本返済が本格化、ウクライナ情勢受けた原材料高もあり、倒産件数は増える可能性。
・経済規模で見れば高岡市の倒産件数は多い。健全な危機意識で足元の経済を分析し、危機回避のための策の構築を。
改めて数字に驚きました。2021年度の国内企業の倒産件数です。
東京商工リサーチの調べによりますと、2021年度は5980件で、1964年度以来の低水準です。実に57年ぶり。倒産件数が歴史的な低水準となっているのです。コロナ禍で倒産が増えているのかというのが素人考えですが、実態は違っています。
私が心配しているのは、この数字が“地雷”を抱えていることです。今の日本経済のゆがみを映し出しているのです。
「57年ぶり」というなら、64年度当時を振り返りましょう。高度経済成長の真っ只中です。前回の東京オリンピックが開かれた年です。戦後復興の象徴、オリンピック特需に沸いていたころです。東海道新幹線が開通し、首都高ができました。ホテルニューオータニができ、都内は建設ラッシュです。日本全体が熱狂しており、人口も増えていました。
それから57年たって、昨年度の歴史的な低水準の倒産件数。日本が最も元気だったころに戻ったのでしょうか。いえ、そうではありません。
今倒産件数が低いのは、コロナ禍で、政府や銀行が必死になって企業の資金繰りを支援しているためです。
キーワードは「ゼロゼロ融資」です。
コロナで売り上げが減った企業に対し、実質無利子・無担保で融資しているのです。その総額は昨年末までで42兆円に上ります。
コロナというのはいわば災害。緊急経済対策は仕方ない面がありますが、それにしても、その金額はとてつもなく大きいのです。さらに、異例の条件なのです。
日本政策金融公庫を例に挙げます。条件を満たせば零細企業や個人事業主なら最大6000万円、中小企業は最大3億円を、実質無利子で借りられるのです。
返済が滞っても、元本の8割か全額を政府の財源を裏付けとした信用保証協会が肩代わりします。利子も各都道府県が補給します。設備資金であれば最長20年、運転資金なら最長15年にわたって借りられるのです。
このゼロゼロ融資は当初3月までで終了する予定でしたが、オミクロン株の感染拡大を受けて、6月末までに延長されました。今後も、融資を受ける人が続出するとみられます。
しかし、懸念材料があります。冒頭申し上げた“地雷”です。2つあります。融資の支払いが本格化することと、原材料高です。
ゼロゼロ融資は、元金の返済の猶予期間が1-2年というケースが多くあります。つまり、今年から元本の返済が本格化する企業が多いのです。融資を受けた企業は、今まで猶予されてきた支払いを始めなければならないのです。
ここにきて追い打ちをかけているのは、原材料高です。ロシアによるウクライナ侵攻で、原油価格が急騰。さらには、穀物などの価格も急上昇しています。石油ショックの再来とも指摘されるほどです。
多くの中小企業は、販売価格を上げることができず、原材料高で利幅が小さくなります。原材料高もあり、今後倒産件数は増える可能性があります。
さて、我が富山県ではどうでしょうか。東京商工リサーチによれば、倒産件数は64件で、こちらは、過去20年間で最も少なくなっています。富山県でも、全国と同じように、ゼロゼロ融資の影響で、倒産件数が抑制されています。
詳しく見ると、倒産した64件のうち、50件は販売不振が理由となっています。「不況型倒産」が大半なのです。従業員別では、「5人未満」が43件、全体の67・2%を占めています。業種別では、飲食店を含む「サービス業」が25件、「小売業」9件と続いています。
私が驚いたのは、高岡市の倒産件数が多いことです。地域別では「富山市」が32件とトップですが、「高岡市」が19件、「射水市」4件、「砺波市」3件と続いています。
写真)高岡市街(2014年8月)
東京商工リサーチの担当者も警鐘を鳴らします。「経済規模で見れば、高岡市の倒産件数は多い」と指摘した上で、ゼロゼロ融資の支払いが始まることや原材料高を踏まえると、高岡市の今後の経済状況は楽観できないというのです。私が企業を回っても、厳しいという声をよく聴きます。
高岡市は今年度予算で、空前の黒字となっています。財政健全化緊急プログラムも1年前倒ししました。
「財政危機のイメージの高岡市からの決別」―。高岡市は、浮かれた雰囲気を演出しようとしていますが、私はもっと冷静になるべきだと考えています。足元の経済を分析したうえで、危機回避のための策を練るべきなのです。健全な危機意識こそ、政治や行政に求められています。
トップ写真)高岡駅(筆者提供)
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この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。