マスクなし卒業式「未来のニュートン」は 「高岡発ニッポン再興」その58
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・高岡市立高陵中学校で卒業式。窮屈な生活をしながらも生徒たちは絆を深め、逞しく成長した。
・「コロナ後」の世界では、古い時代から決別することになるだろう。
・我が故郷から、新たなニュートンの誕生を期待する。
私は高岡市立の高陵中学校の卒業式に、地元の市議会議員として招かれました。卒業生は101人。去年と違って、今年は、生徒たちがマスクを外していました。久々に子どもたちの顔の表情が見えたのは、新鮮でした。コロナ後にやっと一歩踏み出したのです。
今回の卒業生は3年間丸々、新型コロナに重なりました。生活様式ががらりと変わる、歴史的な経験をしたのです。休校やマスク着用など大変な日々だったと思います。ご苦労をおかけしました。
私は、コロナ禍の中学生活、理屈ではわかっていましたが、卒業生代表、石黒尚希君の答辞を聞いて、初めて実感しました。窮屈な生活をしながらも、生徒たちは絆を深め、逞しく成長していったのです。
石黒君は答辞の中で、中学時代について「約2カ月間の休校から幕を開けました」と切り出しました。友達ができるだろうか、勉強は大丈夫だろうか不安を募らせていたと言います。
「2カ月の空白の期間を経て登校した私たちを待っていたのは、全く新しい形の生活でした。マスクの着用、衝立に遮られて無言で食べる給食・・・新しく出会った人と、心の距離を縮めることが難しかったことを覚えています」。
それでも、初めての部活動、運動会、合唱コンクールなどを経験するたびに「高陵中学校の一員としての自覚が芽生えていきました。それと同時に私たちの中に『絆』が生まれてきました」。
石黒君は3年生になったときの運動会や修学旅行、合唱コンクールなどの思い出を振り返りました。運動会では、団体種目では意見を出し合って、練習に取り組みました。「勝敗とは関係なく、競技をやり終えた後の感動は、すがすがしいものでした」。修学旅行では、出発直前に台風11号が接近し、出発できるかどうかわからなかったそうです。実際、親元を離れて旅行。「自分たちの目と耳で触れた歴史と文化。友と過ごしたあの3日間は、一生胸に刻みつけられ、消えることはないでしょう」。
合唱コンクールは2年ぶりに高岡文化ホールで開催。うまく歌えず悩んだ日もあったが、「歌い終えたときの達成感に、クラスの絆がさらに深まるのを感じました」。
石黒君は、おしゃべりしながら、給食を食べたり、全校生徒で大声を出して運動会で盛り上がりたかったのが本音だとしながらも、「101名の仲間と過ごした時間は、この不満を忘れさせるほど充実したものでした。皆に出会えて同じ時を過ごすことができて、よかった」。
石黒君は答辞の中で、コロナ禍の中学生活を見事に描き切っていました。不満ではなく、希望が満ち溢れていました。
私は、その言葉の力に感動するとともに、この子たちの中では「未来のニュートン」がいるかもしれません。歴史的に見れば、感染症の流行は、時代をかえる偉人を生み出しています。例えば、1665年から66年には、イギリスで広まったペスト。ある若者の運命が変わりました。アイザック・ニュートンです。
ケンブリッジ大学で研究生活を送るつもりでしたが、ペストの流行で大学は休校になりました。ニュートンは故郷に帰りました。そこで、リンゴが木から落ちるのを見て、膝を打ちました。リンゴは実は落ちたのではなく、地球に引っ張られたのだということを発見したのです。
それで生まれたのが「万有引力の法則」です。さらに、「微分積分」の考え方も発見しました。科学史に残る偉業が生み出されたのです。
私は3年前に、こんな文章を書きました。
「新型コロナでいま、世界は混乱している。会社は在宅勤務となり、学校は休校となっている。リモートワークやオンライン授業は日常光景になりつつある。混乱の後には、新たな時代が始まる。「コロナ後」の世界では、古い時代から決別することになるだろう。」
いよいよコロナ後の世界です。コロナ前とは違った新しい考え方が出てくるかもしれません。私は我が故郷から、新たなニュートンの誕生を期待しています。
トップ写真:高岡市立高陵中学校 出典:筆者提供
あわせて読みたい
この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。