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.国際  投稿日:2022/4/29

「アイデンティティを守りたい」ウクライナ人アーティストの訴え


Japan In-depth編集部

菅谷瑞希、樊明軒、仲野谷咲希、曹佳穎

「今、あなたの話が聞きたい」

まとめ

・「ロシアニズム」に屈せず、ロシアからウクライナの文化や自由を守りたい。

 ・明日何が起こるか全く予測できない中、telegramでは現地から生の情報が発信されている。

・ウクライナ人の生活は一変してしまったが、長い目で見たときにウクライナの発展に繋がってくれればと願っている。

ロシアとウクライナの戦争が長期化し、G20での西側諸国の一斉退席など、ロシアに対する国際社会の反感は強まっている。こうした状況下で、世界の人々は何を思っているのだろうか。

ウクライナ問題についてさまざまな立場から意見を聞く「今、あなたの話が聞きたい」第3弾。今回は、在日ウクライナ人のアーディストで、Stand With Ukraine運動に参加しているイーオアさんにお話を伺った。

イーオア・イーナティヴ氏インタビュー

 (Mr.Ihor Ihnative)

菅谷:まず初めに、今回のウクライナ問題の背景には何があるとお考えですか?

イーオア氏:2014年からプーチン氏が抱いている、ノヴォロシア共和国連邦の実現という目標があると思います。当時は史上最悪の全面戦争でしたが、結果としてウクライナの結束を強め、一層ロシアからの経済的、軍事的独立を目指すようになりました。

菅谷:なるほど。では当時の戦争や今回の戦争を踏まえて、あなたはロシア政府やロシア市民に対しどのような印象をお持ちですか?

イーオア氏:ロシア政府と市民を区別するかは個人の問題ですが、分けない方が良いと思います。というのも、そもそもロシアは昔から周辺国の文化や歴史を奪い、自国のアイデンティティにしようとしてきました。そして、政府はあくまで「全てが大きなロシアの文化だ」と主張しており、市民もそれを支持しています。今回のプーチン氏の戦争犯罪を批判する人々も、結局は「ウクライナを含めた大国ロシア」という像を信じており、それが最大の問題です。

こうした、いわば「ロシアニズム」はウクライナ国内にも影響を与えています。例えば、自分は幼かった頃にロシア映画を見ていましたが、そこでは明らかな人種差別がなされていました。いつも頭が切れる主人公がロシア人で、隣にいる冴えないキャラクターがウクライナ人だったんです。このような文化作品がロシア人に影響を与え、ロシアの国土拡大を正当化する武器となっているのだと思います。

菅谷:そうしたイメージがあった中、今回はウクライナのEU・NATO加盟が戦争の引き金となってしまいましたが、イーオアさんはこれらに関してどのようにお考えですか?

イーオア氏:加盟するべきだと思います。これは20世紀初めからの目標でもあり、ウクライナはヨーロッパ社会に組み込まれるべきです。周辺には強権国家も多い中、何千年もの間ウクライナとポーランドは選挙を通じてリーダーを選んできました。だからこそ、EUに統合されるべきです。

写真:オンラインでインタビューを受けるイーオア氏(2022年4月22日)

出典:Japan In-depth編集部

樊:日本からウクライナに対しどのような支援を期待しますか?

Ihorさん:引き続き制裁を続けてほしいと思います。正直なところ、日本の対応には驚きました。防弾チョッキの輸送など、ここまで支援してくれるとは思わなかったです。特に、岸田総理がロシアと友好なインドに対し、同国への制裁を呼び掛けていたのには感動しました。日本はアジアに大きな影響力を持つからこそ、こうした動きを続けて欲しいです。願わくばロシアからのガス供給も停止して欲しいですが、日本は他に頼れる資源がないため現時点では難しいでしょう。

仲野谷:日本のロシアに対する対応で最も印象的な出来事は何ですか?

イーオア氏:在日ロシア外交官を帰国させたことです。また、日本の最先端技術輸出を停止したことも印象的でした。

樊:ところで、イーオア氏の故郷はどのような現状ですか?

イーオア氏:スームィはロシアとヨーロッパを結ぶガスパイプライン上にあるので、被害に遭わず安全地帯となっています。本当に良かったです。スームィ自体はロシアの影響力が大きく、ロシア語を話す両親のもとで育ちました。そのような雰囲気なので、2014年以前まではナショナリズムが強い街でもなかったんです。

写真:渋谷にておこなわれたデモ

出典:イーオア氏

樊:イーオアさんが関わっているStandWithUkraineを教えていただけますか?

イーオア氏:Stand With Ukraineは、ロシアが侵攻する以前の2月23日に立ち上げた運動です。まず初めに、ロシア関連で何かが起こるかもしれないと思いFacebookとTelegramで呼びかけると、ウクライナ人約50人が集まりました。侵攻が始まると、25日には約200人で移動手段を用意し、26日に渋谷で約2000人が集まりデモを行いました。警察から1,2時間で退去するように言われたので長時間は出来ませんでしたが、多くの外国人や日本人が支持してくれて有難かったです。次に、私たちはウクライナで何が起きているのか、ロシアとウクライナの文化がどのように異なるのか説明を始めました。また、赤十字等の支援団体の活動は信憑性が低いため、自分たちでポーランドなどから食料や医薬品を購入しています。というのも、集金したお金がどのように使われているか不透明だからです。

仲野谷:今仰っていたロシアとウクライナの違いについて、最も大きなものは何だとお考えですか?

イーオア氏:危険に立ち向かえるかどうかだと思います。ロシア市民は、自分たちが(プーチン大統領の)犠牲者であっても、逮捕されることを恐れて政府や体制を変えようとしませんでした。一方、その間にウクライナ人は国を守ろうとして多くの命を失いました。これが一番の違いだと思います。因みに、歴史的な背景もありロシアには帝国主義的な考えが根付いています。というのも、彼らは自分たちが主、ウクライナが植民地であるかのように考えているのです。そうした価値観に基づき、彼らはウクライナの文化を破壊しようとしてきました。1932年以降、強制的に農作物を徴収、諸外国に輸出し、人工的な大飢饉を起こしたのもそうです。こういった弾圧の下で我々は戦い続けており、それが命よりも大切だと考えています。なぜなら、何も行動せず祖国が奪われたら、住む場所どころか自分たちが何者なのか、アイデンティティが奪われてしまうからです。

樊:そうした中で、中国政府はウクライナを支援したと主張していましたが、これについてどう思われますか?

イーオア氏:これは難しいですよね。中国の存在感は確かに大きいです。でも、中国はウクライナを支持しようとは考えていません。なぜなら、彼らはロシアからの資源を必要とするからです。ただ、ウクライナが完全に勝利を収める見込みがあり、尚且つロシアが大打撃を受ければ、中国もウクライナを支援すると思います。

写真:抗議するウクライナ人たち

出典:イーオア氏

菅谷:今後どんな活動をしていきたいとお考えですか?

イーオア氏:ロシアでは5月9日が対ナチスドイツ戦勝記念日で大規模な軍事パレードが行われるので、ウクライナ人の憤りや虚しさを示すために、これに対抗して同じ類の催しをしたいと考えています。ウクライナ出身の方に会う機会にもなるのでね。そうした情報は、telegram中にあるウクライナ人のコミュニティをメインに活用しています。ここでは、日本のニュースも幾つか翻訳されて流れてくるので、直ぐに情報を得られます。

仲野谷:他に普段使われている情報源はありますか?

イーオア氏:大体はtelegramを使っていて、そこではニュースだけでなく現地のウクライナ人が発信している情報も見ています。難民となって避難している人などがtelegramのチャンネルを作り、緊迫した現状を発信してくれているんです。世界のどこで何が起きているか把握するのが難しい中、そうしたグループがあると生の情報を知ることができます。このような状況で、私たちはロシアのプロパガンダを信じることもできるし、ウクライナのプロパガンダを信じることもできます。その中間を見つける選択肢もありますが、今のところは難しいでしょう。

仲野谷:BBCなどの主流なメディアは少々偏っていると思いますか?

イーオア氏:グローバルメディアは偏向報道を行っていると思います。日本のメディアは、ウクライナ人を”被害者”として「家族は大丈夫ですか」「出身地は大丈夫ですか」といった質問をし、ドラマチックに情報を伝える傾向があります。一方欧米は国にもよりますが、正確な情報が入手できていないまま強調して報道する傾向があります。そうして、見た人の同情や不安を引き立てる報道をしがちです。

仲野谷:これが、イーオア氏が主流メディアよりtelegramといったソーシャルメディアを使う理由ですか?

イーオア氏:そうですね。また、繰り返しになりますが、telegramは素早く情報を得られます。大量の情報が瞬時に流れ、そこに挙げられている写真を見ればどこで何が起きているか明らかです。時々、私はTwitterを使用することもありますが、Twitterは類似したものばかりでした。これまでにないほど急激に世界が変化し続ける中、今回のウクライナ侵攻は専門家すら予測できず、明日何が起こるか誰も分かりません。そんな世界で、今のtelegramではウクライナ兵が現場のリアルな状況を発信しており、私たちはそれを通して何が起きているか知ることができます。

菅谷:では最後に、今回のウクライナ侵攻についてどういった形で幕切れすることを期待していますか?

イーオア氏:2017年にEUとビザ免除協定を締結した時と同じように、長い目で見て経済発展等に繋がってくれればと思います。そもそも今回の戦争は、今起きなくてもいつか必ず起こる戦争でした。そして、それまでの生活が完全に変わってしまった今、ウクライナ人のアイデンティティ、ウクライナやロシアについての考え方も変化しました。ウクライナ人が難民になってしまうことは悲しいし残念ですが、それは同時にウクライナから出る機会でもあります。それにより、他国の人々は今何をしているか、どのような生活を送っているのか知ることができます。これを通し、ウクライナに還元できる何かを得られるのではないでしょうか。しかし、ウクライナを発展させるにあたって経済的な問題があるのも確かです。戦争でウクライナを支える産業、特に第一産業が大きな打撃を受けました。そこで今後は国際的な支援が必要ですが、単にお金を借りても返せません。だからこれからは、国際社会でウクライナなりの立場を見つけることが大切だと思います。

写真:写真を持って訴えかけるイーオア氏

出典:イーオア氏

「いま、あなたの話を聞きたい」第2弾はこちら

イーオア氏のインタビューは4月22日に行われた。

注釈

ノヴォロシア:プーチン大統領がかつて構想した、ロシアにドネツク人民共和国、ルガンスクスク人民共和国、ウクライナ6州を合わせた自称国家。

トップ写真:渋谷で抗議デモに参加するイーオア氏 

提供:イーオア氏




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