【ファクトチェック】共産党志位和夫委員長「所得税・住民税を払った上に消費税を取っているわけですから、これが最悪の二重課税になります」→ミスリード
Japan In-depth編集部(黒沼 瑠子)
【まとめ】
・日本記者クラブ党首討論会において、共産党志位委員長が「所得税・住民税を払った上に消費税をとっていると二重課税になる」と発言。
・二重課税とは同種の租税を二度以上課すもの、と定義されている。
・所得税・住民税と消費税の課税原因・対象は同一でない。よってこの発言はミスリードであると判断する。
2022年6月21日に行われた日本記者クラブ党首討論会に出席した日本共産党委員長志位和夫氏は、自民党総裁岸田文雄氏と討論を行った。(9党党首討論会2022.06.21)その中で、大企業の内部留保に課税すべきかどうかで、岸田氏と志位氏の間で論争があった。
二人のやり取りは以下のとおりである。
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志位氏: 日本共産党はアベノミクスで膨れ上がった大企業の内部留保に、毎年2%、5年間で10兆円の時限的課税を行うことで、賃上げを促進することを提案しております。
どうして賃上げを促進するのか。
一つは賃金の底上げです。10兆円の税収は最低賃金を1500円に引き上げるための中小企業支援に当てます。
もう一つは賃上げへの誘導です。賃上げとグリーン投資を行った分は課税を控除して、賃上げと脱炭素を推進します。
内部留保というのは人間の体に例えますと脂肪のようなものです。脂肪は大切なエネルギー源ですが、たまりすぎると代謝が悪くなって様々な生活習慣病を起こします。
私たちの提案は、人間の体でいう脂肪を適度に燃やして、そのエネルギーで経済の好循環を実現するというものです。
賃上げ効果、間違いなしです。ぜひ採用していただきたい。いかがでしょうか。
岸田首相: 企業における内部留保を人件費や設備投資に回すという考え方は私たちも大事だと思います。
ただ内部留保課税というようなことについては、税法上の二重課税の問題ですとか。そもそも発想として、ペナルティを与えるんじゃなく人件費や設備投資に自ら進むような環境作りの方が大事であるということで、人件費を重視することにインセンティブを与えるとか、積極的に設備投資を行うような市場・環境を作っていくようなことをまず優先すべきであるという基本的な考え方です。
ぜひ、ペナルティを与えるという発想ではなく、前向きに人への投資を含めた様々な投資を促進する、そういった政策を作ることが大事だと思っています。
志位氏: まず、私たちの提案というのは、行き過ぎた減税の一部を返してもらおうというものですから、二重課税にはあたりません。二重課税というんだったら、所得税・住民税を払った上に消費税を取っているわけですから、これが最悪の二重課税になります。
ペナルティーうんぬんの話なんですが、いま企業は内部留保がたまって困っているわけですよ。ですからそれを政治の力で絞ってやって、そして生きた経済に回そうと。
これは経済も元気になりますし、企業にとってもプラスになるんです。そして暮らしもよくなる。八方よくなる。こういう方針ですから真剣に受けとめていただきたいと思います。
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このうち、志位氏の「所得税・住民税を払った上に消費税を取っているわけですから、これが最悪の二重課税になります」という発言についてファクトチェックを行う。所得税と住民税を払っている上に消費税をとることは二重課税に当たるのであろうか。
【Fact Check】
共産党は、内部留保課税を主張しているが、与党からの、それは「二重課税」ではないかとの指摘に対し、「二重課税というなら、消費税こそ所得税を徴収されたあとに買った商品などに課税されるものであり、それこそ問題にされなければなりません」とかねてより主張している。(しんぶん赤旗:2022年2月27日)
まず二重課税とは、「一般的に、一の納税者に対して、一の課税期間において、一の課税要件事実、行為ないし課税物件を対象に、同種の租税を二度以上課すことを指す」とされている。(国税庁)
これまで、二重課税として議論されてきたのは、所得税と法人税、相続税と所得税、消費税と物品税・法人税・固定資産税・関税などである。
しかし今回志位委員長が指摘したように、所得税・住民税と消費税は二重課税にあたるのだろうか。
まずそれぞれの税の定義を確認したい。(参考:国税庁)
消費税とは消費活動一般に広く公平に負担を求める間接税で、最終的には商品を消費したり、サービスの提供を受ける消費者が負担し、事業者が国に納税する税である。
事業者は、消費者等から受け取った消費税等と、商品などの仕入れ(買い入れ)のときに支払った消費税等との差額を納税する。
所得税とは個人の所得にかかる税金のことであり、会社員や個人事業主に課せられるが、納税方法は両者で異なる。税率は所得が多くなるほど段階的に高くなる累進税率となっていて、支払い能力に応じて公平に税を負担する仕組みとなっている。
住民税とは住んでいる、または会社がある都道府県/市区町村に対して納める税金で、どちらへの税も一括して市区町村に納めることになっている。
住民や会社が平等に負担する金額(均等割)と前年の所得額に応じて負担する(所得割)から成り立っていて、所得税と同じように会社員と個人事業主では納税方法が異なっている。
つまり、消費税と所得税・住民税は、その課税の目的、及び課税の対象となる事実や行為、物件が異なっている。したがって、二重課税の、同種の租税を二度以上課されるという定義には当てはまらない。
所得にかかる税金に消費税が上乗せされて徴収されているのなら、「二重課税」と言えるが、そうではない。
「所得税・住民税を払った上に消費税を取っているわけですから、これが最悪の二重課税になります」という言説は、税の定義上、間違いである。
一方で志位氏は、厳密な税の定義上「二重課税」にならないことは承知の上で、有権者に対し、企業に対する過度の減税を批判し、有権者に対する重税感を訴えようという意図から出た発言とも推察される。
以上のことを勘案し、今回の志位氏の発言は「ミスリード」と判断する。
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トップ写真:日本記者クラブ主催の9党党首討論会にて討論を行う岸田氏と志位氏 出典:日本記者クラブ(9党党首討論会 2022.6.21より)