無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/8/17

グローバルなブーム続く小型モジュール炉投資(下)


中村悦二(フリージャーナリスト)

 

【まとめ】

・ニュースケール・パワーは2020年9月に米原子力規制委員会からSMR初の「標準設計承認」を受け、NPMの世界展開を目指している。

・原発廃止を掲げていたドイツ、ベルギーでは、ロシアのウクライナ侵攻によるロシア産エネルギー受給不安から、原子力発電所に対する再評価の動きが出てきている。

・SMRは大型炉に比べスケールメリットで劣るなどのデメリット、小型化のカギを握る使用済み燃料の確保、しかも高い濃縮率の燃料確保といった課題はある。

 

ニュースケール・パワーは2020年9月に米原子力規制委員会から5万㎾のNPMについてSMR初の「標準設計承認」を受けている。NPMの世界展開に向け、カナダ、英国、ルーマニア、ウクライナなどの企業や政府機関と協力している。日本とは日揮ホールディングス・IHI・国際協力銀行からの資本参加を受け入れ、韓国からは斗山グループ、三星グループからの出資も受ける。

バイデン米大統領は、この6月末にドイツで開催の主要7か国(G7)首脳会議で途上国へのインフラ投資促進の枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」発足が決まった折、その対象案件として、ルーマニアの、ニュースケール・パワーの7.7万㎾のNPM6基で構成のSMR建設計画に対する資金援助を発表した。この件は、昨年11月にルーマニアのK・ヨハニス大統領と米国のJ・ケリー気候担当大統領特使との間で合意したものだ。

米国では、「人工太陽を地上につくる」という夢のある核融合の分野で、核融合発電機「Polaris」(5万㎾程度)を開発する新興企業、ヘリオン・エナジーが登場している。

核融合では、日本が誘致で敗れた国際協力による実験施設「ITERがフランスに設置されているが、ヘリオンは2021年6月に民間の核融合企業としては初めて、核融合プラズマを摂氏1億度にまでの加熱に成功、と発表。同年11月には、5億ドルの資金調達に加え、17億ドルの追加投資コミットメントを投資家から取り付けた。核融合に魅せられて原子力の道に入ったという研究者は結構おり、ヘリオスの動きは注目される。

写真)ITER全景 航空写真 2022年4月22日 フランス・サン=ポール=レ=デュランス

ⒸITER Organization

CANDU炉の輸出実績を有するカナダは2018年に「SMRロードマップ」を策定。それを踏まえたアクションプランとして、①オンタリオ州とサスカチュワン州で商業化を前提とした開発(実用化目標年はそれぞれ2028年、2032年)、②ニューブランズウィック州でのカナダが開発したCANDU炉の使用済み燃料の再利用(同2030年代中期)、③カナダ原子力研究所サイトでの遠隔地のディーゼル発電機を代替し、熱・電力を供給(同2026年頃)-を計画している。国内のSMR市場をまず開拓し、同国で内外の研究開発を振興して世界市場におけるサプライチェーンの一角確保を目指している。

英国は2020年11月に策定した10件の脱炭素技術への投資計画である「グリーンリカバリー計画」の一環として、大型炉新設とSMR、先進モジュール炉開発を進めている。ロールス・ロイスが国産SMRとして高温ガス炉の開発を進め、2030年代初期に初号機完成、2035年までに10基の建設を目指している。

欧州連合(EU)では、原子力発電が発電電力量の67%を占める(2020年)フランスが2030年までに国産SMR「NUWARD」の原型炉を建設する(今年2月のマクロン大統領演説)としている。EUの行政執行機関である欧州委員会は今年2月、原子力発電所を気候変動対策に適した事業として条件付きながら認定している。原発廃止を掲げていたドイツ、ベルギーでは、ロシアのウクライナ侵攻によるロシア産エネルギー受給不安から、原子力発電所に対する再評価の動きが出てきている。

ロシアでのSMR絡みで注目すべきは、ロスアトムが開発・建設した世界で唯一の浮揚式原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ号」。原子力砕氷船技術を生かしたもので、出力3.5万㎾の加圧水型2基で構成。2020年5月、極東の遠隔地で営業運転を開始し、SMR技術に基づく世界初の原子力発電所となった。同号は北極海を経て極東に配置された。ロシアはまた、シベリア化学コンビナートで鉛冷却高速炉のパイロット実証炉(30万kw)建設を昨年6月から始めている。

ゲイツ氏は2009年秋に来日した際には、中国にも足を延ばした。テラパワーは2017年に河北省滄州市に国営の中国核工業集団(CNNC)とTWRの実証炉建設で合意したが、翌年11月にトランプ政権下で対中民生用原子力技術の輸出審査が厳しくなり、この合意は「頓挫」した。

中国は清華大が中心となり、ぺブルベッド型高温ガス炉実用炉の開発に向け、山東省威海市に実証炉(熱出力25万Wt2基、電気出力21万㎾)を建設し、昨年9月に臨界を達成している。また、CNNCは 昨年7月に国産の軽水炉型SMR「玲龍一号」(12.5万㎾)の建設を開始。完成すると、世界初の陸上商用SMRとなる。

ちなみに、当初、清華大と開発競争を行っていた日本原子力研究機構の高温ガス炉「HTTR」(電気出力3万㎾)は昨年7月に大洗研究所で運転を再開している。

このほか、アルゼンチンが軽水炉型SMR(3.2㎾)を建設中。SMR導入については、サウジアラビアなど中東諸国、ポーランドのほか東欧諸国、インドネシアなどが意欲を示している。日本政府も、2050年の脱炭素実現に向け「導入する」としている。

SMRは大型炉に比べスケールメリットで劣るなどのデメリット、小型化のカギを握る使用済み燃料の確保、しかも高い濃縮率の燃料確保といった課題はある。とはいえ、ノルウエーのエネルギーに関する調査会社、ライステッド・エネジーの今年1月の発表によると、現在、19か国で52の原子力発電所(総発電電力量は現行の13.5%に相当する54ギガワット)が建設中で、その投資額は今年が460億ドル、2023年が440億ドルに上るという。

米国の世論調査会社、ビスコンティ・リサーチのこの7月発表によると、84%が先進原子炉開発を行うべきと答えたという。原子力に特化した世論調査という点から多少割引が必要そうだが、それでも高い支持率だ。

(上のつづき。全2回)

トップ写真:ドイツのシュロス・エルマウにてG7の代表が地球規模の問題について語り合う。

出典:Photo by Stefan Rousseau – Pool/Getty Images

 




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."