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.国際  投稿日:2022/9/21

エリザベス女王の国葬に想う


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#37」

2022年9月19-25日

【まとめ】

米TV各局はエリザベス女王の「国葬」を生中継で長時間報じていた。米国人の関心の高さは想像以上だった。

・女王の「国葬」は英王室とイングランド国教会による「宗教葬」に近かった。国教一致」は英国の伝統。

・来週、故安倍晋三首相の「国葬」がある。政治的な意見の違いはあるだろうが、27日の葬儀当日ぐらいは、静かに故人を偲びたい。

 

今週は出張中のため原稿をホノルルで書いている。米TV各局はエリザベス女王の「国葬」を生中継で長時間報じていた。米国にとって英王室が特別の存在であることは知っていたが、それにしても米国人の関心の高さは想像以上だった。昔誰かが「王室がないことの微妙な劣等感の裏返しだ」と言っていたが、そうなのかもしれない。

それはともかく、今回英国の「国葬」を生中継で見ていて、改めて違和感を持った。立憲民主主義の国なら当然「国家と宗教」は分離されるのだろうと思っていたが、今回の「国葬」はそれには程遠い。荘厳な葬儀にケチをつける気は毛頭ないが、生中継映像を見る限り、葬儀は英王室とイングランド国教会による「宗教葬」に近かった。

そもそも、場所はキリスト教のウェストミンスター修道院、先週は慣例に従い「ウェストミンスター寺院」と書いたが、ここはあくまでイングランド国教会のabbey(修道院)であり、temple(寺院)ではない。また、今回儀式を取り仕切ったのはカンタベリー大司教だが、彼はイングランド国教会のトップではなく、最上席の聖職者に過ぎない。

カンタベリー大司教が属するのは通常「英国国教会」などと呼ばれるが、正式には「イングランド国教会 Church of England」。同協会は1534年にローマ・カトリック教会から分離独立して(というか破門されて)いる。今回の「国葬」はそのChurch of Englandの首長(Governor)であるエリザベス女王を追悼する儀式でもあるのだ。

また、今回の「国葬」は儀式面で「ローマ・カトリック」に酷似している。また、イングランド国教会の教義もカトリックと大差ないらしい。少なくとも、イエズス会の中学高校で学んだ筆者にはあまり違いが分からなかった。両教会の教義がほぼ同じ理由はイングランド国教会のカトリック離脱があくまで政治的理由によるものだからだ。

更に、「国教会」とは別に「聖公会 Anglican Church」という概念もある。日本語で「聖公会」というとAnglican Communion、すなわちカンタベリー大司教の重要性を認める諸教会によって構成される「信仰共同体」を指すらしい。ちなみに今回の「国葬」にはイングランド国教会とは独立したスコットランド国教会の関係者も参加していた。

米国大統領の国葬もワシントン市内の教会で行われるが、最近ではユダヤ教やイスラム教の指導者も参加していたと記憶する。その意味で「国教一致」は英国の伝統であり、今後はチャールズ新国王がイングランド国教会の首長を務めることになる。この点は今後も変わることはないだろう。

一方、日本では来週、故安倍晋三首相の「国葬」がある。英国では、エリザベス女王の棺を乗せた車列が修道院に近付く際、集まった沿道の一般英国市民から大きな拍手と歓声が上がっていたが、日本では何が起きるだろうか。政治的な意見の違いはあるだろうが、27日の葬儀当日ぐらいは、静かに故人を偲びたいと思う。

〇 アジア

ハワイで久しぶりにCBSの60minutesを見ていたら、米軍は台湾を守るかとの質問にバイデン大統領が「もし実際に前例のない攻撃があれば、そうなる」と述べ、中国が侵攻すれば米軍が台湾を守るという意味かと確認を求められると、「そうだ」と述べた。これで米国の台湾「曖昧戦略」は変質せざるを得なくなるのだが・・・。大丈夫か?

〇 欧州・ロシア

先週プーチン・習近平首脳会談が開かれたが、日経新聞社説は「ウクライナ情勢を巡る両国の溝が浮き彫りになった。中国を頼りにしたいロシアのプーチン大統領にとって、中国の習近平国家主席の冷淡さは誤算だったに違いない。」と書いた。予想通りとはいえ、所詮両者は「狐と狸」ではないか。されば、化かされる方が悪いのだ。

〇 中東

経産省によれば、2022年7月分の原油輸入量は1,289万kl(前年同月比25.5%増)で、日本の中東原油依存度は97.7%となったそうだ。これ自体、1970年代の石油危機時代にも匹敵する驚くべき数字だが、それでは過去50年、日本は何をやって来たのか。天に唾する話だが、原子力発電について再考すべき時が来ているようだ。

〇 南北アメリカ

前述のCBS 60minutesでバイデン氏は2024年大統領選に出馬するかと問われ、「自分の意図(intention)は出馬だが、決断(firm decision)を下すにはあまりに早すぎ、様子を見るべし」などと述べ、憶測を呼んでいる。だが、普通なら「当然出る」と言えば良いだけの話。そう言わなかったことの方が問題だと思う。支持率は低いし、出たくても出られないのではないのかね。

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:エリザベス女王の国葬(2022年9月19日 英・ロンドン) 出典:Photo by Gareth Fuller – WPA Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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