ミャンマー 中国資本カジノ攻撃受ける
大塚智彦(フリージャーナリスト)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・ミャンマー北東部の中国との国境地域で中国資本によるカジノの存在が反軍政勢力による攻撃を受け注目集める。
・武装市民グループ「国民防衛軍(PDF)」は各地で軍や警察との戦闘を強化、国土の51%を支配下に置いているとの報道も。
・中国もミャンマー領内の施設だけに「傍観」する以外に手段はない。
2021年2月1日にミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍によるクーデターで民主政府が妥当され、以来軍と民主派や国境周辺の少数民族武装勢力による戦闘が続くミャンマー。
軍による一般市民の逮捕、拷問、虐殺などの人権侵害で国際社会から孤立する軍政の最大の後ろ盾となっているのが中国だが、このほどミャンマー北東部の中国と国境を接する地域で中国資本によるカジノの存在が反軍政勢力による攻撃を受けて注目を集めている。
ミャンマー北東部シャン州北部町ミューズ郡区の中心都市ミューズは橋と道路で中国の端麗市とつながっており、国境を越える検問所も設置されている。
こうした地理的理由からミューズには多くの中国人がクーデター後も自由に在住あるいは来訪しているという。
このミューズにある「ミンガラー・ミューズ商業施設」で8月に爆弾による爆発と道路上での銃撃戦があったことがこのほど伝えられた。
「ミンガラー・ミューズ商業施設」の内部には中国資本のカジノがあり、国境を越えてきた中国人などで賑わっていたという。爆弾事件はカジノを標的としたものとみられているが、死者の報告はなかった。
この商業施設で爆弾2発が爆発したほか、ほぼ同じ時刻に市内にある中央市場近くの交差点でバイクに乗った正体不明の男性2人が手りゅう弾を投げて、通行中の27歳の女性が死亡し、交通警察官2人と民兵3人が負傷する事件もあった。
さらに中央警察署付近でも銃撃戦があったと市民はメディアに匿名で話している。銃撃戦は約30分間続いたが死傷者についてはわからないという。
現地の住民はカジノでは軍兵士や地元民兵がギャング組織のメンバーと手を組んでカジノ経営に関わっていることを知っており、カジノの入った施設での爆弾事件や中央市場での手りゅう弾攻撃、中東警察署での銃撃戦は、いずれも軍政への攻撃を強めている武装市民組織メンバーによるものとの見方が強まっている。
カジノに関しては「賭け事」だけでなく中国本土に在住する中国人を相手にした違法なオンライン詐欺の拠点にもなっているとして中国側から取り締まり要請が来ていたが、それを無視して営業が続けられていたとの情報もある。
■ 国境地帯に複数のカジノか
ミャンマー国内にはミューズのような中国資本のカジノがある都市が複数存在する。タイのメーソート郡と川を隔てて接しているミャンマー東部カイン州やミャワディなどには
少なくとも約20のカジノが点在しているとの情報もある。このほかにシャン州モンラーでもカジノの存在が確認されている。
中には中国の投資家と地元少数民族武装勢力によって運営されているカジノもあるといい、少数民族武装勢力の資金源になっている可能性も指摘されている。
こうした中国資本のカジノの特徴としては中国時間の適用、携帯電話の中国の通信網が使用可能、インターネット接続も中国国内扱い、中国の人民元が使用できる、中国語が使用言語であるなどの特徴があり、カジノ周辺には中国語の看板が多くみられ、中国語が飛び交い、まるで中国国内にいるようだという。
カジノはミャンマー国内では非合法であるが、いずれのカジノも中国やタイとの国境地帯にあり中央の監視が不十分であることや地元の警察や軍がカジノ運営に関わっているケースも多く、取り締まりが難しいという側面がある。
これに加えて、中国との関係悪化をなにより懸念する軍政の「及び腰」も影響しているのは間違いないとされている。
■ 人権侵害増加の背景に軍政の焦り
軍政に対抗して民主派が組織した民主政府「国家統一政府(NUG)」の傘下にある武装市民グループ「国民防衛軍(PDF)」は各地で軍や警察との戦闘を強化しており、国土の51%を支配下に置いているとの報道もあるほど善戦している。
こうした事態に軍政はクーデターから1年半以上経過しているにもかかわらず治安状況が依然として安定しないことに焦りを抱き、軍は各地で過酷で残虐な行為に出ていることがPDFやNUGによって報告されている。
無実、無抵抗、非武装の一般市民が放火された住居で焼死したり、手首を後ろで縛られて斬首されたりした遺体、さらに10歳代の女性らを集団で暴行し、殺害後に全裸の遺体を遺棄するなどの重大な人権侵害事案が多発している。
ミャンマーの悲惨な現状に対して軍政は中国に次いでロシアにも軍事支援を要請するなど「政権維持」に必死となっている。
中国との国境地帯に点在する中国資本のカジノに対して武装市民メンバーなどが「攻撃」したという事実が伝えられた意味は大きい。
非合法であるカジノは地元行政や軍警察の関与も指摘されるだけに軍政は手出しが難しく、中国もミャンマー領内の施設だけに「傍観」する以外に手段はない。
その隙をついた今回の爆弾、手りゅう弾、銃撃という反軍政組織の手法は新たな抵抗手段としても大きく注目されているのだ。
トップ写真:ミャンマー北部のカジノ、「パンカム エンターテイメント センター」(2015年12月23日、ミャンマー・パンカム) 出典:Photo by Xiao Lu Chu/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。