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.国際  投稿日:2022/10/21

米欧、ウクライナ防空を強化


村上直久(時事総研客員研究員、学術博士/東京外国語大学)

【まとめ】

・米国とNATOはウクライナの防空態勢強化に向けた支援を強化。

・ドイツや英国、ノルウェーなど西欧15カ国は、近距離および中長距離の射程を持つ防空システムの共同調達目指す。

・また、ウクライナ兵の訓練をEU内で開始する意向で、人的、物的の両側面で支援を強めている。




米国と大半が欧州連合(EU)に属する欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国はロシアによるミサイルや自爆型ドローンを使った攻撃に対してウクライナの防空態勢強化に向けた支援を強化している。欧州諸国はまた、自国領内でのウクライナ兵の軍事訓練も拡大する。

 

ロシア・ミサイルを50%超撃墜

 

2月に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻に対して、8月に入りウクライナの反転軍事攻勢が目立つようになった。ウクライナは北東部の戦略的要衝であるハルキウ州を奪還した。この背景には米国がウクライナに高性能ロケット砲ハイマースを多数供与したことなどがある。ロシアのプーチン政権は9月末、予備役の最大30万人に上る招集による大増派とドネツク州など東部・南部4州の西側が「茶番劇」と非難する住民投票に基づく一方的併合を宣言した。

 

その後、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ唯一の橋を爆破され、ロシアはウクライナ側の仕業だと反発。ロシアは報復措置としてキーウなどウクライナの20都市に長距離ミサイルを撃ち込み、ドローンによる爆撃を行った。

 

欧米各国はロシアの報復措置を非難するとともにウクライナの防空態勢の強化の必要性を改めてて認識した。

 

NATOのストルテンベルグ事務総長は10月中旬にブリュッセルで開かれたNATO国防相会議後の記者会見で、「ウクライナ支援をさらに強化する」と明言。同国の住民と重要インフラの防衛に向け、近く数百台のドローン妨害機を提供する考えを示した。

 

ロシアはクリミア橋の破壊に対する報復措置として、10月10日から数日間、ウクライナに大規模なミサイル・ドローン攻撃を実施したが、ウクライナ軍によるミサイル撃墜率は50%を超えた模様だ。これは、西側の支援による、ロケット発射を探知する早期空中警戒システムと地上の対空防衛システムの連携プレーが機能しているためだとされる。

 

 ロシアはその後、在庫が減少したせいか大型高性能ミサイルの発射を控え、自爆型ドローン攻撃に重点を移し、ウクライナのエネルギー関連施設や各種インフラをターゲットにしている。これらのドローンはイラン製とみられ、ウクライナや欧州諸国はイランを非難している。

 

米紙ニューヨーク・タイムズによると、ウクライナはロシアによる高性能ミサイルを使用した攻勢が再開された場合に備えて、西側に高度ミサイル防衛システムの提供を求めている。例えば、米国の高性能地対空ミサイルシステムNASAMS。これは30キロから50キロをカバーし、米国の首都ワシントンもこれで防衛されているという。

 

NASAMSには戦闘機を撃墜し、ドローンや巡航ミサイルに対応する強力なレーダー誘導ミサイルが装備されている。米政府はNASAMSを2セットほどウクライナに提供する意向だ。加えてドイツは、同国製のIRIS-T対空防衛システムを4セット供与する。


写真)Recon Clash-22と呼ばれる軍事訓練に、ポーランドやエストニアの兵士らと参加する第101米空挺師団の兵士 2022年10月15日 ポーランド・ソリナ

出典)Photo by Omar Marques/Getty Images

 

■欧州の空も対象

 

一方、ドイツや英国、ノルウェーなど西欧15カ国は最近、近距離および中長距離の射程を持つ防空システムの共同調達を目指すことで合意した。DPA通信によると、弾道ミサイルの防衛能力不足に直面しているドイツではイスラエル製の迎撃システム「アロー3」が調達候補に挙がっているという。欧州15カ国は兵器の共同調達を通じ、ミサイル防衛を強化する欧州スカイシールド・イニシアチブの実現を目指す。

 

また、ウクライナ兵の訓練をEU内で開始する意向だ。ただ、一部のEU加盟国は域内でのウクライナ兵の訓練はEUがウクライナ戦争に巻き込まれるリスクをはらんでいると慎重だ。これまでEU域内で訓練を受けたウクライナ兵は存在するが、訓練は米軍によってドイツで行われていた。

 

ウクライナ戦争は開始以来、8カ月が経過しようとしているが、西側諸国はウクライナに対する人的、物的の両側面で支援を強めている。

 

(了)

 

トップ写真:NATO シールド演習に参加するポーランド空軍のミコヤン MIG-29 戦闘機は、。NATO の連合軍空軍、ポーランド空軍、米国空軍は、ポーランドの F-16 と米国の F-22 の最新航空機能力を実証した。 2022年10月12日 ポーランド・ラスク

出典:Photo by Omar Marques/Getty Images








この記事を書いた人
村上直久時事総研客員研究員/学術博士(東京外国語大学)

1949年生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。時事通信社で海外畑を歩き、欧州激動期の1989~1994年、ブリュッセル特派員。その後,長岡技術科学大学で教鞭を執る。


時事総研客員研究員。東京外国語大学学術博士。

村上直久

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