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.国際  投稿日:2022/11/29

2022年台湾統一地方選挙の分析


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・台湾で統一地方選挙が行われ、多くの都市で国民党が勝利、民進党は過去最悪の結果となった。

・民進党の敗因としては、世論から遊離していたことや、コロナの流行をはじめ6つの項目が立法委員より指摘されている。

・蔡英文総統は選挙の敗北を受けて党主席を辞任したが、民進党は腐敗しているとの見方も出ている。

 

今年11月26日(土)、台湾統一地方選挙が行われた。中央選挙委員会によれば、直轄市長選挙での投票率は59.86% 、他の県市長選挙の投票率は64.20%(a)だった。選挙と同時行われた「18歳への投票年齢引き下げ」に関する国民投票は否決されている。

直轄市選挙では、国民党が台北市、新北市、桃園市、台中市の4市を制した。

他方、民進党は台南市と高雄市の2市でしか、勝利できなかった。前回2018年は、台北市は柯文哲(無所属だが、目下、国民党系)が勝ったので、残りの5直轄市中、国民党が3市(新北市・台中市・高雄市)、民進党が2市(桃園市と台南市)を制した。

他の県市長選挙は、国民党が宜蘭県、新竹県、彰化県、南投県、雲林県、台東県、花蓮県、基隆市、連江県等9県市で勝った(前回比、-3県市)。

ところが、民進党は嘉義県、屏東県、澎湖県の3県でのみの勝利しか得られなかった(前回比、-1県市)。ちなみに、無所属等は苗栗県、金門県の2県で勝利している。なお、嘉義市での市長選挙は、1人の候補者が死亡したため、12月18日に延期された。

一方、直轄市議員377議席中、国民党が167議席、民進党が152議席獲得している(台湾民衆党6議席、無党団結連盟6議席、台湾基進党2議席、台連党2議席、時代力量1議席、新党1議席、社会民主党1議席、無所属等が39議席)。

他の県市議員533議席中、国民党が200議席、民進党が125議席獲得した(台湾民衆党8議席、時代力量5議席、親民党2議席、台連党1議席、無党団結連盟1議席、緑党1議席、労働党1議席、正神名党1議席、無所属等が88議席)。

今回の統一地方選挙で、民進党は全部で5県市を獲得したにとどまり、創党36年以来、最悪の成績となった。民進党の立法委員、呉思瑤によれば、同党の敗因は次の6つ(b)だという。

第1に、有権者が選挙を通じて、与党・民進党が世論に近づくよう警告した。つまり、民進党が世論から遊離していたと鋭く指摘している。

第2に、コロナの流行は、経済的損害、生活の不便さなど、人々の苦い経験を引き起こしたが、これらの不愉快な経験が、与党への不満につながった。

しかし、新型コロナに関しては、台湾だけの話ではないだろう(世界中、コロナ蔓延時、台湾は一時的にせよ、優れた防疫対策を採っていた)。

第3に、蔡英文総統は県市長候補者を自ら決めていた。だが、党内から、今後、民主主義的な手続きを踏む事が望ましいという声が出ている。これは当然だろう。

第4に、一部の県市は候補者の選定作業が短く、準備期間があまりなかった。民進党は選挙に出遅れたのである。

第5に、民進党中央委員会が明確な目標を定めず、例年とは違って、支持者たちの訴えが足りなかった。「抗中保台というスローガンは後半になってようやく出て来ている。

第6に、台湾に対する中国共産党の脅迫が奏功し、国民党が「民進党に投票すれば両岸が不安定になる」(=「国民党へ投票すれば両岸は平和だ」)と宣伝した。そのため、一部の有権者は国民党に投票したのではないか。

けれども、別の見解(c)が存在する。第1に、米国の中間選挙と同様、台湾の統一地方選挙は、元来、与党に厳しい。第2に、台湾の治安が良くないという見方がある。第3に、民進党の米国へおもねる「台湾空洞化」(TSMC等の米国移転)政策に対し、疑問の声が上がっていた。

蔡英文総統は民進党主席も兼ねていたが、選挙の敗北を受けて、党主席を辞任(d)した(暫定的に、陳其邁・高雄市長が党主席を務めるという)。実は、かつて李遠哲が民進党は腐敗していると喝破した。他方、民進党幹部と黒社会との関係が取り沙汰されているが、蔡総統も黒社会と関わっていると噂されている。

ところで、選挙同夜、中国国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は、民進党が大敗した統一地方選について、「この結果は、平和や安定を求め、良い暮らしをしたいという主流の民意を反映した」という談話を発表(e)した。

この談話は噴飯モノだろう。中国共産党は、先の第20回党大会では、民意(彭載舟が北京四通橋で横断幕を掲げて共産党に抗議)を無視し「習近平総書記3期目続投」を決定した。また、同党は、73年間中国大陸を統治しているが、一度も「普通選挙」を実施した事がない。

 

〔注〕

(a)『自由時報』「中央選挙委員会:直轄市長選挙の投票率59.86%、県市長選挙の投票率64.20%」(2022年11月27日付)

(https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/4136983)

(b)『自由時報』「民進党6つの敗北要因分析 呉思瑤: 痛みから教訓をくみ取り、民意に耳を傾けなければならない」(2022年11月27日付)

(https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/4137013)

(c)『聯合早報』「評論:民進党は政治闘争が得意で、台湾海峡の情勢はより危険だ」(2022年11月28日付)

(https://www.kzaobao.com/mon/keji/20221128/128555.html)

(d)『網易新聞』「蔡英文が民進党主席の職務を辞任すると宣言」(2022年11月26日付)

(https://www.163.com/news/article/HN4M3PME0001899O.html)

(e)『産経新聞』「中国、台湾地方選は『民意を反映』」(2022年11月27日付)

(https://news.yahoo.co.jp/articles/a734fe7bf040bff386f03b0e93021eae10a00090)

トップ写真:投票する台湾の蔡英文総統(2022年11月26日 台湾・新北市) 出典:Photo by Annabelle Chih/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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