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.国際  投稿日:2023/7/26

「中台戦争2027」(中)ロシア・ウクライナ戦争の影で その2


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・台湾独立派優勢の背景に「天然独」と称される人達の存在あり。

・中台関係は「現状維持がベスト」と訴える台湾民衆党が「第三極」。

・同党は、独立も統一も非現実的。現状維持がベストの選択としている。

 

2027年までに、中国は「完全統一」の旗印を掲げて台湾に侵攻する。

これは2月2日に、CIA(米中央情報局)のウィリアム・J・バーンズ長官が、合衆国政府に対して警告を発したと報道された、その具体的内容の骨子である。

ロイター通信社がワシントンDCから世界に発信し、日本でも衝撃をもって受け止められたのだが、よく読んでみると、

「習近平の、台湾武力統一に向けた野心を過小評価すべきではない」

という趣旨にとどまるようだ。

もちろん過小評価は禁物だが、ならば今までさんざん「危機」を唱えてきたのはどこの誰だ、という話にもなるのではないか。

また、このような「警告」は、今次突如として発せられたものではない。

2021年3月9日、上院軍事委員会の公聴会に出席した、合衆国インド太平洋軍のフィリップ・デビッドソン司令官が、

「今後6年以内(=2027年までに)中国が台湾を侵攻する可能性がある」

と証言したのが皮切りで、以降、異口同音の発言が繰り返されているわけだが、これらはペンタゴン(米国防総省)および統合参謀本部の公式見解ではないとされている。

ここで問題なのは、2027年までと時期が特定されていることだが、それは、「中国人民解放軍創立100周年」であると同時に、3期目に入った習近平国家主席の任期が切れる年でもあるというのが根拠らしい。4期目の国家主席就任となれば、前人未踏の長期政権となるわけで、それを実現するには、建国の父と称される毛沢東でさえなし得なかった「完全統一」の偉業が必要だ、ということのようだ。

私のような昭和世代の読書好きは、「1999の年、7の月」に世界がとんでもないことになるという『大予言』のせいで、大いに混乱させられたトラウマがあるので、どうもこの手の話を聞くと、反射的に眉につばをつけたくなってしまうのだが、前回も述べた通り、ひとつ間違えば多数の人命が失われかねない問題であるから、あまり突き放したことも述べにくい。

実際問題として、習近平は3期目の就任を目前にしていた時期には、台湾をめぐって強硬な姿勢を見せていたが、首尾よく3期目を迎えるや、前回も少し触れた通り、台湾の民心に配慮した発言が目立つようになっている。

ならば「戦争に備えよ」と訓示したり、領空侵犯などの軍事的挑発はどういうことか、との声が聞こえてきそうだが、それは半世紀以上も延々と繰り返されていることであって、蔡英文総統が徴兵期間の延長を発表したというのも、もともと1980年代までは2~3年であったものが、段階的に短縮されてきたという事実を知るべきだろう。

さらに言えば、台湾の政治・民族状況はなかなか複雑で、一筋縄で行くものではない。

大半の読者は、台湾の正式な国号は中華民国で、かつては「中国」と言えば中華民国の略称とされていたこと、しかしながら第二次世界大戦終結後、毛沢東らが率いる中国共産党との間で内戦が勃発し、勝利した共産党が中華人民共和国を建国(1949年10月1日)、敗れた蒋介石らの国民党は、台湾に逃れて中華民国の衣鉢を継いだ、という歴史的経緯についてはご存じだろう。

この結果、かの地においては、主として国民党と共に渡ってきた人たちを「外省人」と呼び、それ以前からの住民を「本省人」と呼ぶようになった。

これは本来の言葉の意味とは違うそうで、台湾に限らず、中国語圏では代々その土地に住み着いていた人たちを本省人、よそから移住してきた人たちを外省人と呼ぶ。これは知り合いの中国人から教わった。

他に「台湾原住民(族)」と称される人たちもいる。日本統治時代には「高砂族」と称されていたが(学者は7民族に分類していた)、実際には16民族が認定されているそうだ。

漢民族が台湾に移住し始めたのは17世紀以降の話で、それ以前から暮らしていた人たちが、こう呼ばれる。

日本では原住民という呼び方は「原始人」という蔑称を連想させるとして、マスメディアではもっぱら「先住民」と表記されるが、台湾華語(北京官話と客家語の混成らしい)では先住民と書くと「すでになくなった民族」の意味になるため、御法度なのだとか。

民族的にはポリネシア系で、アジア人にしては長身で身体能力の高い人が多い。あの王貞治氏を筆頭に、台湾にルーツを持つプロ野球選手は、多くがこの台湾原住民の末裔だと聞く。

話を戻して、蒋介石らの国民政府が台湾に移ってからしばらくの間は、いずれ北京の共産党政権を駆逐するという「大陸反攻」が国是とされていて、対話路線や平和共存を主張するような人は容赦なく投獄されるという状況だった。

しかしながら過去半世紀、冷戦構造が確立し、やがて消滅するという歴史の中で、国民党は「平和統一」へと舵を切った。これに対して、蔡英文総統率いる民主進歩党は「台湾独立」をとなえている。

基本的には「中国は中国、台湾は台湾」であるとの立場で、現状、公式に主権国家として承認している国が13に過ぎない状況を変化させねばならない、としている。ちなみに、と言うか、これも読者はご存じと思われるが、日本政府も1972(昭和47)年に中国と国交を樹立した際に台湾との国交を断絶した。

現在の台湾議会(立法府と呼ばれる)においては、この民主進歩党が62議席と与党系無所属1議席を加え計63議席の安定多数を確保しているが、最大野党とされる国民党も38議席と、野党系無所属2議席を加えた計40議席を持ち、二大政党制と称されている。

つまり、現状では独立派が優勢ということになるのだが、その背景には「天然独」と称される人たちの存在があると言われている。

天然独とは読んで字のごとく「生まれついての独立派」という意味だが、おおむね1990年代以降に生まれており、前述した蒋介石(1975年没)による戒厳体制も知らなければ、東西冷戦も知らない世代で、自分たちのアイデンティティは「台湾人」だと考えている、というわけだ。

その他の野党は全部で9議席だが、その中でも「第三極」として注目されつつあるのが、台湾民衆党だ。

現状わずか5議席にとどまっているが、中国との関係性では、

「〈独立〉も〈統一〉も非現実的。現状維持がベストの選択」

であるとして、独立派と統一派との間で政権が行き来していた状況にうんざりしている無党派層や、前述の天然独の間でも支持を拡大しつつある。

彼らに言わせれば、

「歴史的にも、台湾が中国の一部であったことはない」

ということになり、これが独立派からも支持を受けている理由のひとつだ。

次回、この問題をもう少し深掘りしつつ、中国共産党の本心はどのあたりにあるかを考察しよう。

(その3に続く。その1

トップ写真:台湾の国慶日(建国記念日に相当)でスピーチをする蔡英文総統(2022年10月10日 台北)出典:Photo by Annabelle Chih/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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