中国、各国の入国規制に対抗
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#1」
2023年1月1-8日
【まとめ】
・中国外交部報道官は「一部の国が中国だけを対象に入国規制を導入したのは科学的根拠に欠ける。一部の過剰な措置は受け入れられない」と表明。
・「中国はさまざまな状況で相互主義の原則に基づいた相応の措置を取る」と述べ、報復を示唆した。
・非科学的で政治目的の「ゼロコロナ」政策を断固として導入したのは中国ではなかったか。
謹賀新年、2023年も宜しくお願い申し上げる。今年の年始も、昨年同様、三が日で終わり、4日からは通常営業が多いのではないか。昨年正月には、「充電」なければ「原稿」なし、「もう少し余裕をもって考え抜いてから原稿を書いてみたい」などと生意気なことを書いた。やれやれ、今年も「考え抜いた原稿」など書けそうもないが、お付き合い下さる読者の皆様に引き続き感謝するとともに、本年も週一回のペースで外交安保カレンダーを書き続けるので、何卒宜しくお願い申し上げる。
さて、今年も新年早々「2023年世界の10大リスク」なるものが発表された。1位は、ウクライナ侵略を続けるロシアが「世界で最も危険なならず者国家」になる、2位は、中国の 習近平国家主席が権力を「極限」まで集中させたが、チェック機能が働かず「習氏が大きなミスをする可能性も高い」などとしている。相変わらず「誰もが考え付くような当たり前の予測と、どうにでも解釈できる予想」ばかりではないか、と思う。
外務省を辞めてから、同業者について公にコメントすることは可能な限り差し控えてきた。専門家の見識にあれこれコメントすること自体、失礼だと思うからだ。しかし、毎年今頃巷に溢れる「10大リスク」モノだけは例外である。読者の皆様はご自分の将来がどうなるかを考えるとき、場末の占い師の予想を参考にするだろうか。しないだろう。国際情勢も同様で、本当に将来何が起こるかを考えたければ、他人に頼るのではなく、ご自分自身の皮膚感覚を磨いて頂きたいと思うのだ。
先週書いた通り、近くCIGS外交安保TVで鈴木一人・東大教授をゲストに迎えた番組を掲載するが、そこで議論したのは、「どこから正しい情報を入手するか」ではなく、まず、今何が起きているかについて自分自身で「正しい仮説」を立て、それを磨いていくことが重要だということ。新たな情報がその「仮説」を補強すれば、その「仮説」はより精度が高まり、逆に、新たな情報がその「仮説」に反する時には、「仮説」自体を修正することも躊躇しない「知的な正直さ」が不可欠だ、と個人的には考えている。詳しくは次回の外交安保カレンダーをご視聴願いたい。
〇アジア
中国外交部報道官は「一部の国が中国だけを対象に入国規制を導入したのは科学的根拠に欠ける。一部の過剰な措置は受け入れられない」「新型コロナの予防と管理を政治的な目的のために操作しようとする試みに、中国は断固反対する。中国はさまざまな状況で相互主義の原則に基づいた相応の措置を取る」と述べ、報復を示唆したそうだ。ところで、非科学的で政治目的の「ゼロコロナ」政策を断固として導入したのは一体どなたか?片腹痛いわ!
〇欧州・ロシア
ロシア軍が仮宿舎にしていたマケエフカの職業訓練校にウクライナ軍の米国製HIMARSミサイル4発が着弾し多くの死者が出た事件で、ロシア国防省は「多くの兵士が携帯電話を使用したことが原因なのは明らか」で「これによって敵は兵士の位置を特定できた」と述べたそうだ。ロシア軍はこの戦争を何カ月戦っているんだろう?私用携帯電話は戦場で使わない筈ではなかったのか?何をか言わんや、である。
〇中東
ロシア軍はイラン製軍事ドローン「シャハド136」と「シャハド131」でウクライナの民間施設を攻撃し、イランはその指導のため軍事顧問団を派遣しているといわれるが、そうなれば、イランも準戦争当事国に限りなく近い。これでイラン核合意が再活性化される可能性も、限りなくゼロに近くなっただろう。
〇南北アメリカ
米下院の議長選びが「コンクラーベ」化しつつある。多数派共和党のケビン・マッカーシー院内総務は1回目の投票で203票しか獲得できず、19人の共和党議員が造反したようだ。これを「混乱」と形容するのは簡単だが、問題の本質は共和党内の「トランプ系」対「非トランプ系」の戦いであることだ。その意味でこの結末は重要である。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今年はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:ゼロCOVID対策を緩めた後、症例の急増に直面している中国 (2023年1月2日、中国の北京にある病院にて)出典:Photo by Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。