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.国際  投稿日:2023/1/9

アップル、生産を中国から印へシフト


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・台湾EMS企業3社が、アップルの「iPhone14」最新モデルの受託生産を昨秋から始めだした。

・アップルの「インド・シフト」は、コスト削減とインド市場の将来性にかけてのこと。

・去年、iPhoneの80‐85%は中国での生産だが、27年には45‐50%がインド産になるとの予測も。

 

1990年代の初め、米シリコンバレーでソレクトロンという企業を取材したことがある。IBMを辞めた台湾系と日系の技術者が資本参加して大きくした電子機器製造受託サービス(EMS)企業で、サンノゼの工場では、複数の企業から受注した電子部品製造のラインが稼働していた。

アップルは顧客の1社だった。ソレクトロンはその後フレクストロニクス(現フレックス)に買収されたが、フレックスは現在、EMS企業売上ランキングで世界5位に位置する。同トップは70年代にプラスチック加工からスタートした台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業。2位は同じく台湾の和碩聯合(ペガトロン=パソコン・メーカーであるASUSの生産部門が独立)、3位は米ジェイビル、4位は台湾の緯創資通(ウィストロン=パソコン・メーカーであるエイサーの生産部門が独立)だ。トップ5位内に台湾メーカーが3社入っている。

その台湾3社のインドでの存在感が高まっている。3社ともアップルのスマートフォンの「iPhone14」最新モデルの受託生産を昨秋から始めだした。

アップルのスマーフォンの委託生産先は従来、鴻海精密工業など台湾のEMS企業の中国工場が主力だった。しかし、貿易での米中対立激化に加え、アップルのスマートフォンの最大の受託メーカーである鴻海精密工業の中国法人フォックスコン(富士康科技集団)の従業員20万人規模という巨大な中国・鄭州工場(河南省)で昨年11月、新型コロナウイルス感染者が発生し、ゼロコロナ政策下での隔離措置が強化されたことへの抗議行動が起きた。アップルは同月、“先端モデルの需要は旺盛だが、出荷台数は予想を下回る”との表明を余儀なくされた。アップルは過度の対中依存の見直しに乗り出している。 

アップルの時価総額は1月3日に2021年3月以降初の2兆ドル(約260兆円)割れとなった。丁度1年前には時価総額が一時、3兆ドルに乗ったのとは対照的だ。売上の半分近くを占めるiPhoneの販売が「順風満帆ではなさそう」と判断された結果だろうが、アップルの「インド・シフト」は、一層のコスト削減と今年には人口で中国を抜こうとするインド市場の将来性にかけてのことだ。

鴻海精密工業が属する鴻海科技グループがシンガポール・フォックスコンを通じてインド法人を設立したのは2015年とされる。現在、アンドラプラデシュ州とタミルナド州のチェンナイに工場がある。ペガトロン、ウィストロンもインドに進出している。

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、台湾メーカーのインドでのiPhone生産は2017年から始まり、iPhone12の販売時点ではインドでの生産機種は旧機種に限られていた。iPhone13生産は、中国の生産開始から半年遅れでインドでも始まり、iPhone14では両国での生産はほぼ同時になったという。

アップルは現在、フォックスコン、ペガトロン、ウィストロンの台湾3社を通じ、インドで「iPhone11・12・13・14」を生産している(ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版2022年12月28日電子版)。 

インドのアシュウィニ・バイシュナウ鉄道・通信・IT相は、立ち上げ中のアップルから受託の最大工場はベンガルールの南東40キロのホスール(タミルナド州)で従業員規模は6万人となり、そのうちの6千人はジャルカンド州のランチーとハザリバグ近郊の非アーリア系の指定部族の女性雇用で、生産に向け訓練に入っていることを明らかにしている(エコノミック・タイムズ紙2022年11月16日電子版)。

インドの東部に位置するジャルカンド州の一人当たりのGDPは1,081ドル(インド準備銀行「2019-2020年度の州・連邦直轄地の一人当たりのGDP」)。下から数えて3番目という貧困州だ。コスト低減を目指すメーカーと貧困地域のかさ上げを図りたい中央・州政府の利害が一致した形での進出地域選定・労働者確保だ。

ロイターはフォックスコンが向こう2年間でインドでの生産規模を4倍にすることを計画していると報じている。工業都市として台頭しているホスールでは、タタ・エレクトロニクスがiPhoneケースの受託生産を行っている。

台湾のDIGITIMES研究所のアナリストであるルーク・リン氏は、“昨年末現在ではiPhone生産の80‐85%は中国で行われたが、2027年にはインドで45‐50%が生産される”と予測している(DIGITIMES1月3日号)。インドでの実際のiPhone生産は今のところ、アップル全体の5%程度、という。

トップ写真:鴻海グループのフォックスコン工場の組立ラインで働く従業員 2010年 5月26日 中国・深圳

出典:Photo by In Pictures Ltd./Corbis via Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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