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.国際  投稿日:2024/1/14

インドとモルディブの軋轢が激化


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・モハメド・ムイズ大統領夫妻は2024年1月初旬に国賓として中国を訪問した。

・インド国内での反モルディブ機運は増々高まりそうだ。

・インドの映画俳優ら、モルディブ観光のボイコットを呼びかけ。

 

インドのケララ州沖に位置するモルディブとインド間の軋轢が激化している。

アラビア海のラクシャディープ諸島の海辺で、インドのナレンドラ・モディ首相が椅子に座り海を眺めている写真が今月初めX(旧ツイッター)上に載り、親中国路線をとるモルディブ現政権の閣僚がそれをくさしたことにインド国内で反発が高まった。‶そもそも、モルディブはインド人観光客で経済が回っているのではないか〟といった声が上がり、ソーシャルメディア上では‶国内観光で十分〟といった呼びかけが目立ち始めている。

・モルディブGDPの23%は観光

モルディブにとって観光業は漁業と並ぶ外貨獲得源で、観光業はGDPの22.5%を占めている(2022年)。36の環礁とサンゴ礁から成る熱帯の島々を訪れる外国人観光客は、国内人口の3倍以上に当たる168万人(同)と多い。うち、インド人観光客は24万人強と一番多く、ロシアが20万人強、中国が18万7千人強と続く。

こうした状況を反映し、モルディブの閣僚や政治家は自尊心が高いようで、モディ首相の揶揄につながったようだ。

・モルディブ政府、インド国民の反発に苦慮

これには大国インドの国民が反発。タイムズ・オブ・インディア紙によると、「観光でわが国と競おうというのは妄想」としたモルディブ政治家は当初、陳謝の意図は示さなかったが、モルディブ政府は1月初旬、「そうした意見は個人のもので政府見解ではない」と強調。「わが国と国際パートナー間の密接な関係を妨げてはならない」などと火消しに動いた。

・ソーリフ前首相などは中国寄りの現政権を批判

昨年11月に就任したモハメド・ムイズ大統領は中国寄りとされる。ムイズ大統領夫妻は2024年1月初旬に国賓として中国を訪問した。その際、福建省の省都である福州を訪れ、漁業施設を見学している。

▲写真 モルディブ投資フォーラムで挨拶をするムイズ大統領(2024年1月9日 中国・福建省) 出典:モルディブ大統領府

しかし、前大統領のイブラヒム・モハメド・ソーリフ氏などは、モハメド・ムイズ大統領のそうした中国寄りのスタンスに批判的で、安全保障の観点からのインドの重要性も認識している。

広がるモルディブ観光のキャンセル・ボイコット

インド国内での反モルディブ機運は増々高まりそうだ。上記紙は、映画俳優やインドで人気のクリケットの有名選手もその輪に加わり、モルディブ観光のキャンセルやボイコットを呼びかけていると報じている。映画はインドで娯楽として人気があり、かつての英植民地の故かクリケットも盛んだ。

トップ写真:習近平中国国家主席を表敬するモルディブのムイズ大統領(2024年1月10日)出典:モルディブ大統領府




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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