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.国際  投稿日:2023/1/17

NY初「娯楽用マリファナ販売店」オープンの裏側 その1


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・NY初の「合法的」な娯楽・嗜好用マリファナの販売「1号店」が去年末オープン。

・しかし、法の整備はまだ完全に整ったわけではない。

・そうした中、NYでは無免許大麻販売店が増加中。

 

「カンナビス(Cannabis)」、「ヘンプ(Hemp)」、「ウイード(Weed)」、「420」、「710」。

これらの言葉は何を意味しているかご存知だろうか。

いずれもマリファナ大麻)の別称、俗称、スラングである。

カンナビスはマリファナの植物としての「正式名称」。ヘンプは農作物としての「麻」。ウィードは「草」の意だが転じて「大麻」。

「420」も、大麻を指すワードで、大麻を吸う目的で午後4:20に集まったという話(諸説あり)に基づくスラング。710も同様にスラングで、「710」の天地をひっくり返すと大麻の濃縮液を指す「OIL」に見えるということから、420についで使われるようになっているという。

2023年の幕開け直前の、昨年12月29日夕方。

マンハッタンのダウンタウン、イーストビレッジの一角の店舗前に、長蛇の列ができた。

日本でも割と報道されたらしいのでご存知の方もあろうかと思うが、この日、ニューヨークで初の「合法的」な娯楽・嗜好用マリファナの販売「1号店」がオープンしたのである。

▲ニューヨーク州大麻管理局のツイッター

▲写真 地下鉄の落書き Ⓒ柏原雅弘

娯楽用のマリファナ解禁の動きは全米的な流れとなりつつある。ニューヨーク州は2021年春、娯楽・嗜好用マリファナの販売・使用を合法化した。

合法化された(非犯罪化された)と言っても、もちろん無条件ではなく、栽培、販売、使用法には制限があり、違反すると罰則が課される場合もある。

「第1号店」の開店まで2年半もかかったことを見ると、実施までには法整備を始め、多くの調整が必要だったと思われる。

「マリファナ販売・所持・使用が合法化」と簡単に言うが、それ以前に、まず、私の個人的な理解がついて行っていなかった。そもそもなぜ合法化できるのか?

日本人である私からすると「麻薬」であるマリファナが、合法になる、ということがどう考えても理解できなかったのである。「麻薬は麻薬」であろう?と。

結果、勉強して私なりに理解したことを、かなりおおざっぱにいうと、今後マリファナを「酒と同じような扱いにする」ことで合法化する、ということのようだ。

酒は「合法ドラッグ」としては、その弊害(健康的損失・事件事故による社会的損失)がダントツに大きいことは周知の事実だ。過剰摂取による健康への影響、酩酊による社会的失敗、飲酒運転による死亡事故などなど。弊害の例をあげればキリがない(酒の場での失敗など、残念ながら筆者も身を持って経験している)。

アメリカでは過去に「禁酒法(1920年~1933年)」というものがあった。

酒が及ぼす弊害の事実に加え、道徳的概念が相まって政治化し、法制化に至った(ちなみにアメリカ連邦法下では1937年までは大麻使用は合法であった)。

禁酒法の施行により酒が手に入らなくなったのだが、私のように、どうしても酒を飲みたい人はもぐり酒場へ行き(もぐり酒場の存在は、建前は秘密であったが公然であった)、酒を闇で手に入れようとした。

結果、マフィアが暗躍、利権を手にしたも同然になり、ブラックマーケットは栄えた。

闇営業の酒場、そして、マフィアが摘発を逃れるため、警察へのワイロが常態化し、その実態が世間に明らかになるに連れ、「法律は守らなくてもよい」という風潮が生まれ、社会に重大な影響を与えた。

禁酒法が存在したのは13年間。

結果、社会は乱れ、マフィアを勢いづかせることとなり、警察はマフィアに恐喝されるまでになった。多くの人命も失われた。政府はと言えば、禁酒法施行以前にあった巨額の税収はなくなり、連邦政府の財源にまで大きく影響を及ぼすこととなった。

今回の、マリファナ合法化に話を戻そう。

マリファナ合法化も、禁酒法撤回の時と同じように「必要悪」を政府が管轄、合法化することで、過去にあった違法取引を撲滅する、という意味合いが大きい。

販売の収益に、さらなる税を課すことによって巨額の税収が得られ、税で得られた利益を社会に還元する、という流れを作ろうというわけだ。今後はその他、雇用の促進、巨大関連ビジネスの発展が見込まれるという。

ついでに言うと、総合的に考えるならば、マリファナのほうが酒より、健康に及ぼす影響、社会的弊害は少ない、ということらしい。この点については個人的には、合法とは言え、ドラッグ、という点ではどちらも同じようなものではないかと思う。

だが、それを考えても、今回、合法化した動きは、現実を見据えた決定である、と評価されても良いと思う。

禁酒法の廃止を比較例に出したが、マリファナ解禁と大きく違うことが1つある。

禁酒法の廃止は連邦政府によって行われたが、マリファナに関しては現在でも、連邦政府レベルでは違法である。とは言え、ほぼ建前化している感は拭えず、バイデン政権は昨年、過去に連邦法で大麻所持で有罪とされた人々に対する恩赦を発表した。

合法化にあたって、NY市では具体的に、以下のような指針が示されている。

「21歳以上の成人が 3オンス(約85グラム)までの大麻と、24グラムまでの大麻濃縮液を使用することは合法」

「駐車中も含め、自動車内での使用は禁止。大麻の影響下にある状態での運転も禁止」

「成人が2人以上いる家庭では、最大6つの大麻を育てることができる」

「成人は、自宅に最大5ポンド(約2.2キロ)の大麻を保管することができる」
(ニューヨーク市保健局のサイトhttps://www.nyc.gov/assets/doh/downloads/pdf/basas/cannabis-in-nyc-essentials.pdfから抜粋)。

あたらしい決まりに関して、適法である部分については「合法」との表記はあるものの、禁止項目については「違法」との表現は見当たらず「違反すると、裁判所への召喚、罰則が科される場合がある」との表現に留まる。法の整備は、まだ完全に整ったわけではない。

今回の、NY初の、「合法・娯楽用マリファナ販売、第1号店」の開店。「今後」販売店舗の増加が予想されるはずなのだが・・・・

ニューヨーク市内ではすでに「Smoke Shop」と言われるかなりの数の「無免許大麻販売店」が、多くひしめき合っているのであった。

(その2につづく)

トップ写真:「Smoke Shop」と呼ばれる大麻販売店 Ⓒ柏原雅弘





この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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