トランプのNY殴り込みを見てきた
柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)
【まとめ】
・トランプ氏が民主党の牙城中の牙城、ニューヨーク・マンハッタンで大規模集会を開いた。
・会場マジソンスクエアガーデンにはトランプ支持の日本人集団も。
・その日の動画は配信半日で、いきなり10万回、再生された。
アメリカ大統領選挙まで10日を切った先月10月27日、トランプ氏が民主党の牙城中の牙城、ニューヨーク・マンハッタンで大規模集会を開くということで、知り合いの人から取材の誘いを受け、行ってみることにした。
▲写真 早朝から入場を待つ人々(筆者撮影)
集会はマンハッタンのど真ん中、マディソン・スクエアガーデン(以下MSG)で行うと言うから驚きだ。
ご存じの方には説明も必要ないかと思うが、MSGはマンハッタン最大の集客イベント施設であり、2万人以上の収容能力がある。全米でも最も強力な民主党の基盤があるニューヨーク・マンハッタンで、どうやって参加者を集めるのか、興味があった。
聞くところによると、トランプ陣営は、仮に参加者が集まらなくとも、マンハッタンの大規模施設でイベントを行った、という事実が大切である、とのことであった。結果は伴わなくとも、という、いわば、本気の殴り込みである。
集会の資料によると、トランプ氏の登壇は午後5時以降。しかし、2時までには来いという。開場は昼12時、とあるが、反トランプ派との衝突もあり得るので、早めに行こうと言うことになり、日の出前までまだ時間がある、朝7時に現場に到着した。
会場のMSGの東側は警察による交通規制が敷かれていた。
開場まで5時間あるので、一番乗りかと思いきや、到着してみたら我々の前には300人程度の人がすでに並んでおり、よく見たら、MSGに一番近い入口には徹夜組と思われる人々がさらに500人程度いて、あたりはMAGA(Make America Great Again)ハット、と呼ばれる赤い帽子をかぶった人たちに埋め尽くされていた。
雰囲気が異様であった。なぜなら、赤い帽子をかぶって並んでいる人たちを見ると、具体的には申しかねるが、ひと目見て、皆さん、普段ニューヨークで見ないような雰囲気の人たちばかりなのである。
開場まで5時間もあったので周りの人に話を聞いてみると、皆、案の定、並んでいる皆さんは、郊外や、州外から来ている、というひとたちで、地元ニューヨーク市から参加している、という人は話をした範囲では誰もいなかった。
州外から来ている人の中には、この機会を利用してニューヨーク観光をして地元に戻る、という人もいた。このトランプ集会自体も観光の一部であるというわけだ。それも理解できる。集会が行われるMSGは、普段、大規模なコンサートや、スポーツイベントばかりが行われ、チケットはどれも極端に高額、中に入ることだけでも、貴重な体験、とも言える。しかも今回は無料のイベント。NY観光ツアーの一部としても成り立つ。日本で言えば、地方から来て、東京ドーム行ってきた、というようなものか。
会場の外で5時間。
入場を待つ間にはいろいろなことが起きた。アメリカ的と言うか、雰囲気をもり立てるような大声で、号令をかける人は言うに及ばず、トランプグッズを売りに来る人もいた。中でも個人的に驚いたのは、日の丸とアメリカの国旗を掲げ、トランプ支持のプラカードを掲げながら周囲を歩き回っていた20人あまりの日本人の集団であった。
▲写真 サポーターをサポートする、という日本人の団体の人々(筆者撮影)
聞けば、20人全員が同じ団体ではなく、話を聞いた人のうち、私と同年輩と思われる女性お二人は、熊本から来て、車を運転して、9月から全米で行われているトランプ集会を、物理的に移動が不可能だった場所を除いて、数十か所以上訪れて、同様の活動をしているとのことであった。
12時の開場とともに、並んでいた人たちは会場になだれ込んだ。
警察の警備で、危惧していた反トランプ派との衝突は全くなかったが、後に残されたゴミの山は醜かった。
特に、徹夜組は、会場に持ち込めないのをわかっていながら、折りたたみイスや、寝袋、毛布などの徹夜グッズとして持って来て、それらすべてを、ゴミとして、現場に放置していったのである。
MSGへの入場には、国土安全保障省(U.S. Department of Homeland Security)による厳重なセキュリティーチェックが行われていた。
会場に入ってみると、演壇にもっとも近いアリーナ席は、すでに徹夜組で埋め尽くされていた。我々が入ったフロアもほぼ、人々で埋め尽くされていたが、我々の入ったフロアより、上の階は完全な空席であった。
やはり思ったほど、人は集まっていない。ニューヨークはやはり、民主党が強く、そこで、このようなイベントを行うことに無理があったのだと思った。
午後2時になり、応援の演説が始まった。
応援演説は、なんと29人に及んだ。
応援に当たった、レジェンド・プロレスラー、ハルク・ホーガン、イーロン・マスクなどの演説はさすが注目したが、延べ5時間にわたる29人の演説には眠気を覚えた。
▲写真 登壇したハルク・ホーガン氏(2024年10月24日ニューヨーク・マンハッタン)出典:Anna Moneymaker/Getty Images
そんな中、私の隣に座った中年2人組の女性は、はやる気持ちからか、私が日本人とわかるや、やたら話しかけてきた。なんでカメラ持ってるの?何やってるの?
聞けば、今日はペンシルベニアから来たという。
私はちょっと驚いて、ペンシルベニアは、大統領選の帰趨を決める重要な場所ではないか、と言うと「でもねぇー、フィラデルフィアが青なのよ」と言う。ペンシルベニア州はスイング・ステート、大統領選挙の結果に最も重要な影響を与える州の一つである。
午後7時前。
会場から7時間近く経って、今まであまり露出してこなかったメラニア夫人が現れ、会場は最高潮の盛り上がりに達した。そこで気がついて会場を見回したら、完全に満席になっていた。しかも、よく見れば、一番上のフロアには立ち見の人も多くいる。
▲写真 登壇したメラニア夫人(2024年10月24日ニューヨーク・マンハッタン)出典:Anna Moneymaker/Getty Images
熱狂、熱狂、熱狂の嵐。
周囲の人が立ち上がり、賛辞の雄叫びをあげたその時、トランプ氏が登場した。
登場に合わせて流れる曲「God Bless the U.S.A.」。
会場の2万人で大合唱である。
私のとなりに座っていた女性は最初から、ハイテンションで大興奮。
なのに、ドン引きで、何が起きても顔色一つ変えない私を見て、こいつ、おかしいんじゃないの?とばかりに会話が無くなってしまった。
トランプ氏登場後は、ご想像の通りのハリス候補への罵詈雑言、不法移民対策、経済対策、の演説と、罵詈雑言の繰り返しが70分にわたって続くのだが、後日、その日の一日を撮影した動画を、まとめてYouTubeで配信したらトンデモなかった。
【報道されないニュース】トランプ・ニューヨーク2万人集会に行ってきたら、とんでもなかった #大統領選挙
動画は配信して半日で、いきなり10万回、再生されていた。
「トランプさんをサポートする動画、ありがとう」「民主党の牙城なのに、トランプが熱狂的に支持されているのがわかった」「日本の偏向メディアが伝えてるのはやっぱり嘘だった」「動画見て、現場でトランプを応援してる日本人がいた事を知って涙が出る」
数百件ついた、コメントは、99%以上が日本人視聴者による、トランプ氏を支持する内容だった。
冷静に動画を見ていただくとわかるが、動画の内容は全く、トランプ氏を礼賛するものではない。なのに、トランプ支持の人々の心に届いたのは、日本ではあり得ない、そのアメリカ国民の人々の熱狂なのではないか。
コメント欄には、トランプ支持とは別に、アメリカにはこれほどの、政治に対する熱狂があることが羨ましい、という意見も多数あった。日本人はなぜ、選挙に行かないのか、とも。
私は集会に参加して、あの熱に完全に飲まれた。
何時間にわたって話を聞かされ、自分の考えが間違ってるかも?と思った瞬間もあった。
NY在住の住民として答えは出ているものの、その後、あの人々の熱狂が意味するものは何かをずっと考え続けている。
トップ写真:トランプ氏の演説を聴く聴衆(2024年10月24日ニューヨーク・マンハッタン)出典:Michael M. Santiago/Getty Images
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この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー
1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。