無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/12/26

金正恩体制、新たな危機局面へ【2023年を占う!】北朝鮮


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・金正恩の挑発により米朝関係は2017年末を彷彿とさせる緊張関係へと逆戻り。

・北朝鮮は来年も「国防5カ年計画」を強力に推進する見通し。

・金体制は、来年一層の危機を迎え、朝鮮半島の地政学的危険度は新たな段階へ。

 

2022年、米中対立の露骨化、ロシアによるウクライナ侵略などによって世界の政治経済構図は様々な面で新局面を迎えた。一言で言って「新冷戦時代」に突入したと言える。

北朝鮮の金正恩総書記は、中露との同盟を強化して「非核化」を公然と否定し、「核の先制攻撃」まで云々して米韓に対する挑発を露骨化している。2022年には大小合わせて100発近い各種ミサイルとロケット砲を乱射し、好戦性をむき出しにした。労働新聞は2022年1年の軍事的成果を集中的に報道し、「世界的な軍事強国としての威容と絶対的力が満天下に誇示された偉大な勝利の年」と位置づけた。

金正恩の危険な挑発で、米朝関係は2017年末を彷彿とさせる緊張関係へと逆戻りした。南北関係も金正恩の挑発に断固反撃を加える尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の登場によって緊張し、新たなステージを迎えた。

米国は韓国に対して金正恩が核攻撃を仕掛ける場合、金正恩体制を終わらせるとまで明言し、韓米合同軍事演習を復活強化させた。米韓軍による対金正恩斬首作戦もより具体化・精密化された。

金正恩が12月18日に軍事偵察衛星と称する飛翔体を発射するや、米軍は12月20日、戦略爆撃機B52Hと長距離ステルスミサイルJASSMを72発搭載する攻撃型輸送機C-17 、最新鋭ステルス戦闘機F22を出動させ、韓半島(朝鮮半島)の東西で再び米韓合同軍事演習を行い北朝鮮に警告を行った。F22が韓半島に出撃し訓練を行うのは4年ぶりだ。

この訓練の特徴は、韓半島の東西で同時に行われたこと、米軍の戦略爆撃機B52H、攻撃型大型輸送機C-17、F22ステルス戦闘機と韓国軍のF35Aステルス戦闘機、F15K戦闘機が同時に出撃したことにある。このような精密核反撃訓練と斬首作戦訓練が朝鮮半島の東西の海で同時に展開されたのは初めてのことだ。

 

1、金正恩は「国防5カ年計画」完成へ総力集中する

北朝鮮は2023年も、ロシアのウクライナ侵攻、米中間の鋭い対立、世界的経済低迷などで米国の集中力が分散する状況を利用し、中国、ロシアとの連携を強めて8回党大会で提示した「国防5カ年計画」を強力に推し進めるだろう。核兵器の小型軽量化、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術的完成度向上などを目的に戦略的挑発を増大させ、「強対強」中心の対米政策を固守すると思われる。特に核ミサイル発射をはじめとする武力挑発は、今年の水準を維持するか、それ以上に強化されると予測される。

北朝鮮がまだその能力を公開していない戦略武器では「北極星4・5型」のような新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、新型潜水艦の建造、そしてICBM弾頭の大気圏再進入能力と複数個別誘導再突入体(NIRV)などがある。来年中にこうした能力の示威を通して完全な核能力を備えているというメッセージを米韓と全世界に発信しようとするに違いない。

 北朝鮮は、この核ミサイル開発促進のために、サイバ‐部隊の強化を図り、暗号資産と核ミサイル関連技術の奪取、韓国での社会混乱造成を図るハッキングなどを強化することが予測される。

 

2、金正恩の偉大性宣伝と住民統制をさらに強化する

軍事目標達成のため、内部結束の一層の強化も図るだろう。まずは金正恩の偉大性宣伝の強化だ。そして各種会議体を稼働し、目標未達成の幹部を次々と入れ替える金正恩式恐怖人事が続けられることは間違いない。住民統制と韓流の排撃を強化して体制の安定性を誇示するプロパガンダも強化されるだろう。

 特に、2月の朝鮮人民軍創建75周年と金正日誕生日、4月の金日成誕生日のほか政権樹立75周年と停戦協定締結70周年などで大規模記念行事を開催し、対内結束誇示に利用するものと予測される。こうした軍事への資金の偏頗的配分と無理な住民動員は、食料危機とも相まって、住民の内部不満を更に高めるに違いない。 

北朝鮮の来年の経済状況を展望した場合、食糧問題の改善はほとんど期待できない。食料確保のために国境閉鎖を緩和して中国からの援助受け入れ体制を整えると思われる。また物資と資金不足を補うために貿易を増大させると思われるが、変数は中国における「ウィズコロナ政策」への転換だ。北朝鮮内部へのコロナウイルス伝播が予測される中で貿易再開が行われるかは不透明だ。また貿易が再開されたとしても、物資の輸入拡大で外貨枯渇速度が増加し、為替レートや輸入物価の上昇など新たな要因が経済を圧迫するだろう。

 

3、金正恩は米韓との緊張を激化させ中国への傾斜を強める

2023年は北朝鮮と米韓との軍事衝突があるかもしれない。

韓国国防部と米国防総省は今年11月「適時に米戦略資産を韓半島に展開し、北朝鮮に対する核の傘(拡張抑止)能力を強化する」とすでに合意している。ある韓国軍関係者は「今回の(12月20日のB52H戦略爆撃機などによる等による)訓練は、韓米による11月の合意に基づくものだ」とした上で「北朝鮮の挑発に韓国と米国はより強固な態勢で対応する」とコメントした。

尹錫悦政権も文在寅前政権とは異なり、金与正副部長の談話に断固たる態度を見せた。金与正に対して、大統領室でなく統一部が動くなど格に応じた対応を行い特別扱いしなかった。文在寅時代のように「金与正の下命」はもう通じないという点を示した。

 米韓との対立激化によって、金正恩は国際的孤立の突破口を求めて更に中国へと傾斜し、ロシアとは軍事同盟復活の道を模索するだろう。

 

4、2023年金正恩は新たな危機局面を迎える

「核は絶対手放さない」と公言し、さらなる開発を進め、軍拡の道を進んでいる金正恩体制は、2023年に一層の危機を迎え、朝鮮半島の地政学的危険度は新たな段階へと進むとみられる。それは北朝鮮の経済・社会状況に好転の兆しが見えず、北朝鮮住民の貧困と悲惨な人権状況が一層悪化すると予測されるからだ。

12月20日付労働新聞は「主体朝鮮の国威と国光をあらゆる方面に誇示した軍事的奇跡」という見出しの一面記事で、11月18日に金正恩総書記参観の下で行われた大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星(ファソン)17型発射の成功を「歴史的事変かつ民族史的大慶事」と定義した。また、「新型大陸間弾道ミサイル試験発射の大成功により『核には核に、正面対決には正面対決に!』という絶対不変の超強硬な対敵意志を力強く誇示した」と主張した。また2023年4月までに軍事偵察衛星1号機の準備を終えるとも主張した。

だがこうした「軍事的成果」は、韓米同盟を強化させ、金正恩体制に対する米国のより強力な軍事圧迫をもたらすだろう。

韓国の尹錫悦政権も、金正恩の挑発に対応するだけでなく、文在寅と「共に民主党」代表の李在明たちの犯した「利敵行為」にも鉄槌を下すと思われる。また民主労総を始めとした従北朝鮮勢力の一掃にも本格的に乗り出すに違いない。

日本の安全保障政策も大転換した。「反撃能力」の名のもとで「敵基地攻撃能力保持」を明確にしただけでなく、防衛予算を倍増する方針を確定し、日米安保体制を新たなステージへと押し上げている。

日米同盟の強化に伴い、韓日関係も改善に向かっている。米韓日の連携強化は新たな局面を迎え、軍事情報分野での協力は復活・強化された。軍事面における米韓日協調体制はこれまでの最高水準に達した。

 

ウクライナを侵略したロシアと共に核戦争の危機を高めることで突破口を見出そうとする金正恩であるが、北朝鮮レジームチェンジへの米国の意思が強固となり、韓国の尹政権による従北朝鮮勢力壊滅作戦が強まり、ロシアのウクライナ侵攻の失敗が明確となれば、金正恩体制の危機は新たな局面を迎えることになる。

トップ写真:北朝鮮の脅威に対する同盟国の抑止力を強化を目的として行われた米韓合同軍事訓練の様子(韓国、2022年12月20日)

出典:Photo by South Korean Defense Ministry via Getty Images

 

 




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."