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.国際  投稿日:2023/1/27

中国の人口減少問題


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国の人口は減少、少子高齢化時代に突入している。

・コロナ禍での共働きなど、生活の負担を減らす必要があるのではないか。

・近い将来、インドの人口が中国を超える。インドも合計出生率は低下しているが「人口ボーナス」の状態。

 

今年(2023年)1月18日、中国当局は、2022年末、全国の人口は14億1175万人で、前年比85万人減少と発表(a)した。昨年の出生人口956万人で、前年比で106万人減っている。

その直接的な原因として、2022年、15~49歳の女性数が2021年400万人余り減少した。特に、21~35歳の女性の500万人近く減っているからだろう。陳衛中国人民大学教授の推計では、中国の昨年の出生率は1.08人(b)だという。これは、日本の1.3人をも下回る深刻な数字ではないだろうか。

なぜ、中国はこのような状態に陥ったのか。

よく知られているように、(1)長い期間行われた「一人っ子政策」の影響が大きいと思われる。その他、(2)ライフスタイルの変化や価値観の多様化で結婚する人が減少した、(3)教育費が高騰している等、である。

(2)と(3)に関連して、近年、中国人が子供をあまり産まない理由として、次のような事情が考えられよう。

最近、中国人民大学の李廷教授が記者とのインタビューで、大学生の8割が「2人の子どもを持ちたい」と言っている(c)という。だが、一方、ネットユーザー達は7割が「子供は欲しくない」と回答している。まったく逆の結果が現れた。

ひょっとして、(温室育ちの)大学生に対し、子どもうんぬんのアンケートを行う自体、尋ねる相手を間違えているのかもしれない。彼らが卒業して就職し、社会で荒波にもまれた後、もう一度聞いてみた方が良いのではないだろうか。

それよりも、結婚して子供を持つ準備をしている人のところに行き、アンケートを行うべきだろう。人生は楽ではないということを知り、子育てにかかる費用を理解した上で「何人子供が欲しいのか」を答えてもらった方が良いのではないか。

おそらく、こう回答する人が少なくないだろう。

「別に、子供が嫌いなわけではない。だが、コロナ禍、一人で生きていくのも大変なのに、子供を育てるのはどうなのだろう。多くの場合、夫婦ともに働かなければならないし、家には子供の世話をするお爺さん・お婆さんがいればよいが、夫婦で生活するだけでも大変である。

今は、物質的には豊かで恵まれていても、私達は本当に昔の人達より幸せなのか。もし、人々が子どもを産むという意欲を高めたいのであれば、北京は、人々の様々な負担を減らす必要があるのではないか。しかし、この負担を減らす事ができるのだろうか」と。

以上のような状況下、中国では少子高齢化時代が到来した。2022年末現在、中国の0~15歳人口は2億5615万人で全体の18.1%を占め、16~59歳の生産年齢人口は8億7556万人で(同)62.0%である。だが、60歳以上は2億8004万人で(同)19.8%を占めており、このうち65歳以上は2億0978万人で(同)14.9%を占める。

昨年は、一昨年と比べて、16~59歳の生産年齢人口は666万人減(-0.4ポイント)だった。ところが、60歳以上人口は1268万人増(+0.9ポイント)、65歳以上人口は922万人増(+0.7ポイント)である。

ところで、話は変わるが、インドは毎年の出生人口が2000万人以上である。近い将来、インドの人口が中国を超える(d)という。

実は、インドでも2019年から2021年まで実施した最新の家族健康調査で、2015年と2016年の前回調査時の2.2人から女性1人当たりの合計出生率が2.0に減少(e)している。

ただし、中国とは異なり、インドは「人口ボーナス」(生産年齢人口が多い)の状態なので、今後、経済発展が十分見込まれる。

 ちなみに、インド人女性は労働参加率が非常に低い。『npr』の「不思議だ。インドの女性たちは、経済が良くなっても労働力から脱落してしまう」(2023年1月16日付)(f)という論考が興味深い。2021年ではたった19%の女性しか働いていないが、以下の理由が考えられるという。

(1)豊かさは、女性が働かなくてもよいことを意味する。

(2)教育を受けることは、女性を労働から解放することである。

(3)「女性は外で働くべきではない」という考え方がある。

(4)移住は、安全面で不安が残る。

(5)女性の労働力を測定することが難しい。

(6)インドには女性に適した仕事、利用しやすい仕事がない。

  現在、インドでは、かつて日本にも存在した価値観―女性は家庭に入り、良妻賢母となる事が求められる―が依然、優勢なのかもしれない。

〔注〕

(a)『国家統計局』

「王萍萍:総人口は微減、都市化レベルは上昇を続ける」

(2023年1月)

http://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/202301/t20230118_1892192.html)。

 

(b) 『The Conversation』

「中国の人口は今や容赦なく減少しており、地球の人口が減少する日を早めている」

(2023年1月19日付)

(https://theconversation.com/chinas-population-is-now-inexorably-shrinking-bringing-forward-the-day-the-planets-population-turns-down-198061)。

(c)『中国瞭望』

「大学生の8割が『子どもは2人欲しい』、ネットユーザーの7割が『子どもは欲しくない』」

(2023年1月22日付)

https://news.creaders.net/china/2023/01/22/2567493.html)。

(d)『万維ビデオ』

「崩壊速度が想像を絶する 灰色のサイが襲ってくる」

(2023年1月21日付)

(https://video.creaders.net/2023/01/21/2569368.html)。

(e)『Nikkei Asia』

「老いた日本、若いインド、そして80億人の世界のリスク」

(2023年1月3日付)

https://asia.nikkei.com/Spotlight/Asia-Insight/Old-Japan-young-India-and-the-risks-of-a-world-of-8bn-people)。

(f)(https://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2023/01/04/1146953384/why-women-in-india-are-dropping-out-the-workforce-even-as-the-economy-grows)。

トップ画像:子育てをする中国人女性

出典:Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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