インド「アダニ・グループ」の勢いは本物か
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・インドの株式時価総額トップ3の一角、アダニ・グループ急成長に懐疑的見方。
・アダニ・グループは租税回避地を不適切に利用か。
・同グループ会長は「10年間で1000億ドルの投資」を表明。邦銀も貸手となっている。
インドの企業ないし企業グループにあって、自社あるいは傘下企業の株式の時価総額トップ3はタタ財閥、アダニ・グループ、リライアンス・インダストリーズ。タタは出自がイスラム隆盛のイランからインドに逃れ居住を許されたパールシー(拝火教徒)。インド的で勢いが良いのはアダニ・グループとリライアンス・インダストリーズだ。特に、アダニ・グループの急成長が目立つが、最近、「その勢いは本物か」といった見方が出てきて注目されている。
米国の経済誌フォーブスの2022年版世界長者番付(2022年4月初旬発表)によると、リライアンス・インダストリーズのムケシュ・アンバーニが資産額907億ドル(11兆1600億円)で10位、アダニ・グループのゴータム・アダニが同900億ドルで11位にランクされている。その上位は米国の錚々たる経営者とフランスのLVMHのベルナール・アルノーで占められた。
同誌はリアルタイムでの世界長者番付を出しており、昨年9月16日段階で、ゴータム・アダニは傘下企業の株価急上昇で同1522億ドル(21兆8000億円)となり、2位に駆け上がった。しかし、今年1月26日段階では、米国の規制当局調査を招来することで知られる空売り筋のリポート発表を受け、株価は急落。4位に落ちている。
写真:ゴータム・アダニ会長(2006年3月 印・アーメダバード)
出典:Photo by Kalpit Bhachech/Dipam Bhachech/Getty Images
ゴータム・アダニは大学中退後の1988年にコモディティの貿易会社アダニ・エンタプライゼズを設立して事業展開を図り、現在、同社が持株会社的存在で、港湾管理・運営や運輸、発電・送配電の電力分野、太陽光発電など再生可能エネルギー分野、天然ガス、不動産などの傘下企業を持つ。同グループは昨年、ゴータム・アダニと同郷のモディ首相が力を入れるインフラ整備での需要増を見込み、スイスのホルシムからインドのセメント事業を105億ドル(約1兆3500億円)で買収している。
一方、ムケシュ・アンバーニが率いるリライアンス・インダストリーズは、父親のディルバイ・アンバーニがアラビア半島南端のイエメンの港湾都市アデンに渡り、石油スタンドの下働きを始めたのが端緒。ディルバイ・アンバーニはインドに帰国後、コモディティの商社を設立し、以後、繊維・石油化学などと事業を拡大。アデン生まれのムケシュ・アンバーニが事業を引継いでからは、移動体通信システム、小売り、金融サービス、保険などの分野へ事業を拡大している。
内外でのムケシュ・アンバーニの手腕に対する評価は高いようだ。2021‐2022年度の株式の時価総額は17兆8184億ルピー(2022年3月の月間平均為替レート、1ルピー=1.5543円換算で約27兆6951億円)、収入は7兆9276億ルピー、純益は6785億ルピー。
ちなみに、ディルバイ・アンバーニが死去した2002年の後に弟のアニルと財産を分割。弟は現在、リライアンス・ADA・グループを率いる。
アダニ・グループに関する評価に関して先に、芳しくないと触れた。ロイター電によると、米国の投資会社のヒンデンブルグ・リサーチがリポートで、アダニ・グループはモーリシャスなどのオフショア租税回避地を不適切に利用し、投資家の資産110億ドルを毀損する恐れがあるとの懸念を示したという。
ロイター電はまた「ヒンデンブルグ・リサーチは、米国で取引されている社債やインド以外で取引されている金融派生商品を通じてアダニ・グループ傘下の企業に対し空売りポジションを構築したと説明」としている。これに対し、アダニ・グループは、1月31日に完了予定のアダニ・エンタプライゼズの公募増資後に反論を公表するという(ブルームバーグ)。
ゴータム・アダニ会長は昨秋、シンガポールで開かれたフォーブス・グローバルCEO会議で「向こう10年間で1000億ドルの投資を行う」と表明している。邦銀もアダニ・グループの貸手となっている。同グループを巡る動きから目を離せそうにない。(敬称略)
トップ写真:印企業アダニ・グループの看板(2019年5月 豪・タウンズビル)
出典:Photo by Ian Hitchcock/Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)