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.国際  投稿日:2022/2/20

値崩れし始めた中国不動産市場


 澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・昨年12月から今年1月にかけて、多くの不動産会社がデフォルトを起こした。

・中小都市に端を発したマンションの値崩れは全国に広がり始めた。

・最終的には、中央政府が地方政府の赤字を補填しなければならないだろう。

 

周知の如く、中国の不動産会社中、ナンバー2だった中国恒大が、事実上、倒産した。しかし、他の不動産会社も経営難に直面している。

昨2021年12月から今年1月にかけて、以下の不動産会社がデフォルト(債務不履行)を起こした。

12月6日、陽光100中国控股(サンシャイン100チャイナ・ホールディングス)は、1億7000万米ドル(約199.5億円)の社債がデフォルトに陥ったと発表した。翌7日、佳兆業集団が同日、満期を迎えた社債4億米ドル(約460億円)を償還できなかった。

年明け1月6日、世茂集団は信託会社から受けていた融資に関して、6億4500万元(約116.1億円)の支払いが期限通りできず、デフォルトが発生した。同19日、中国奥園集団は20日と23日に満期を迎える米ドル建て社債10億8600万米ドル(約1248.9億円)を償還できないと発表した。

さて、中国の “3線都市”(比較的発達した中小都市)、“4線都市”(3線都市ほどは発達していない中小都市)で不動産が値崩れを始めた。おそらく、不動産バブルが弾けたのではないだろうか。

代表的なのは黒竜江省鶴崗市で、今般の不動産の値崩れは「鶴崗化」(a)と呼ばれる(値段は「白菜価格」という)。

黒竜江省鶴崗市では、55平方メートル規模の中古2LDKが3万元(約54万円)で手に入る。2012年、鶴崗市は国務院(内閣)から「資源枯渇都市」に指定され、昨年、最初の“財政再建”地級市(中国の行政単位の一つ。地区、自治州等と共に二級行政区)となった。


写真)古いスラムを解体し、高層アパートに置き換わる。黒竜江省綏化市(すいかし) 2009年10月3日
出典)Photo by Ashley Cooper/Construction Photography/Avalon/Getty Images

北京師範大学不動産研究センターの董藩主任は、「鶴崗市では産業が衰退し、人口が流出することによって、現地の住宅価格は更に下落するだろう」「最も良い解決策は同市から離れることだ」との見解を示した。

他に「鶴崗化」した都市は、黒竜江省双鴨山市、遼寧省鉄嶺市、同阜新市、寧夏回族自治区石嘴山市、甘粛省玉門市、同張掖市、雲南省箇旧市、広西チワン族自治区百色市等(b)である。

例えば、安徽省淮南市では、50〜60平方メートルの中古2LDKが4〜5万元(約72万円〜90万円)で購入できる。また、同市内では総額10万元(約180万円)以下の住宅が54戸を数えるという。

「鶴崗化」現象は、東北地方から西北地方と西南地方に広がり、小都市の住宅が「白菜価格」で売られている。今や「鶴崗化」は裕福な長江デルタにまで広がった。

なぜ、このような事態が起きているのか。その原因はマンションの“供給過多”にあるのではないだろうか。

かつて、我が国でもリゾート地に多くのマンションが建築された。有名スキー場近隣地域等である。新築当時は、数千万円の値がついたマンションが、今では、文字通り「白菜価格」で売却されている。

マンションの維持費(年間数十万円)が高いので、それを手放す所有者が少なくない。ただ、日本の場合、この現象は今のところ、主にリゾート地に限定されているのではないか。中国の場合、それが全国規模で起き始めた。

一般に、日本では年収の5〜6倍の戸建てやマンションを購入する。だが、中国では、一部の人は年収の30倍以上でマンション購入(c)するという。我が国では、到底、あり得ない事が中国で起きている。

これは、マンションが“投資”ではなく、“投機”対象になっているせいではないだろうか。中国全土に不動産建設が行われ、すでに34億人も住めるマンションが建てられている(d)。そのため、“鬼城”(ゴーストタウン)が全国に点在する。

実は、地方政府は、財政を補うため不動産事業に関与してきた。政府系ディベロッパーも少なくない。仮に、それら政府系ディベロッパーが破綻したら、地方政府の赤字が急増するに違いない。

最終的には、中央政府が地方政府の赤字を補填しなければならないだろう。目下、北京政府の財政赤字はGDPの300%(e)と言われるが、今後、ますます厳しい状況に陥るのではないだろうか。

 

注)
(a)『RFA』(米議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局。民間の非営利法人が運営)「長珠江デルタでも鶴崗白菜価格の急落、不動産市場の崩壊が全国に拡散」(2022年2月14日付)。

(b)楼市黄大大「中国の小都市の住宅価格の鶴岡化は、すでに長江デルタにも広がっているのか?」『中国瞭望』(海外の中国人オンラインメディアで、諸外国で影響力のある中国語ポータルサイト)(2022年2月13日付)

(c)『zakzak』「習政権は不動産バブル崩壊を止めるか 住宅価格が標準世帯年収の30倍以上に達する都市も」(2021年10月15日付)

(d)『サーチナ』(ポータルサイトで、名称はサーチ <search)>とチャイナ <China)>からの造語)「中国の『鬼城』(ゴーストタウン)50カ所以上、破たんに突き進む不動産開発=青島大教授が警鐘」(2015年12月23日付)

(e)『ロイター』「中国の債務がGDPの300%を突破、世界全体の15%に:IIF」(2019年7月18日付)

 

トップ写真)中国湖北省武漢の恒大集団長青社区に建つマンション郡 2021年9月26日
出典)Photo by Getty Images

 

 




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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