無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/5/1

金正恩、プーチンを見習い核先制使用明言


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・4月25日の軍事パレードの注目点は、金総書記の「核兵器の強化と核の先制攻撃」発言。

・金正恩の核脅迫の直接対象国が韓国であることは言うまでもない。

・米韓は「対金正恩戦略」を早急に再構築し、現実的な対応をせねばならない。

 

北朝鮮は4月25日、午後10時から「朝鮮人民革命軍(抗日遊撃隊)創建90周年」を記念する閲兵式(軍事パレード)を行った。午前0時からの予定が雨のため夜にずらされたようだ。

今回のこの軍事パレードの注目点は一言で言って、金正恩総書記の「核兵器の強化と核の先制攻撃」発言にある。

この発言は、ロシア大統領のプーチンがウクライナ侵略で「米欧の軍事介入があれば核使用も有りうる」とバイデン政権を脅して、米国やNATOの軍事介入を阻止した「成果」を見習った発言と思われる。金正恩は軍指揮官を集めた席(4月29日?)でも「必要であれば(核で)先制的に、徹底的に制圧、粉砕する」と核の先制使用を再度強調した。

ロシアはウクライナ侵攻後に公然と核使用の可能性に言及しただけでなく、最近核弾頭を搭載できる新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を試射した。またラブロフ外相は北朝鮮の軍事パレードがあった4月25日にも「現在核戦争の危険は実在しており非常に深刻な水準」と国際社会を脅迫した。

 核の先制使用を明確にした金正恩演説

軍事パレードの冒頭で金正恩総書記は演説を行い、「わが国が保有する核武力を最大急速に強化、発展させるための措置を引き続き取っていく」として、核武力の強化方針を鮮明にした上で、「われわれの核武力の基本使命は戦争を抑止することだが、この地でわれわれが決して望まない状況が形成される場合、核が戦争防止という一つの使命にのみ縛られているわけにはいかない」「いかなる勢力であれ、わが国の根本利益を侵奪しようとするなら、われわれの核武力は二つ目の使命を決行せざるを得ないだろう」と述べ、「われわれの核武力はいつでも自らの使命と特有の抑止力を稼働させられるよう徹底して準備される必要がある」と強調し、核兵器による先制攻撃を鮮明にした。

この発言は、2016年1月、4回目の核実験後の声明で「敵対勢力がわれわれの自主権を侵害しない限り先に核兵器を使わないだろう」としたことや、2020年10月の党創建75周年閲兵式演説で「戦争抑止力が乱用されたり、先制的に使われることは絶対にない」としていた発言を翻したものだ。

金正恩の核脅迫の直接対象国が韓国であることは言うまでもない。この演説に先立つ4月4日、労働党副部長の金与正は談話で「南朝鮮(韓国)がわれわれと軍事的対決を選択する状況が来れば、やむを得ずわが核戦闘武力は自らの任務を遂行しなければならなくなるだろう」とし、「南朝鮮軍は壊滅、全滅に近いみじめな運命を受け入れるべきだろう」と脅かしていたが、金正恩が今回の演説で直接核使用の可能性に言及したことから、今後核を前面に出した脅迫はますます頻繁に行われ、その水準も高まるに違いない。韓国は北朝鮮の核の人質となる可能性が高まった。

「北朝鮮非核化」の幻想に踊らされてはならない

今回の金正恩発言でより明確になったのは、米朝非核化協議過程で見せてきた北朝鮮の二重的な態度と欺瞞戦術だ。

金正恩は2018年3月、北朝鮮を訪問した当時の韓国国家安保室長で特使団長だった鄭義溶(チョン・ウィヨン)と面談し、彼の口を通して「北朝鮮側は韓半島(朝鮮半島)非核化の意志を明確にした。核兵器だけでなく在来式兵器を韓国側に向かって使わないことを確約した」と語らせ、トランプ大統領を米朝会談に誘い出した。

また金正恩は先週、文在寅大統領に送った親書で「南と北が継続して精魂を込めていけば、いくらでも南北関係が民族の期待に相応して改善され、発展することができるというのが変わりない考え」と話したが、しかしそのわずか5日後に金正恩は同じ口から核による先制攻撃を公然と言い放った。

この二枚舌的な態度こそが金正恩の対韓国、対米対日戦略の本質だ。金正恩はこれまで非核化の意志があるかのように欺瞞しながら、水面下では絶えず核兵器の開発を行い、核の小型化とそれを搭載する多様なミサイルの完成を急いできた。それが間近となった今、公然と「核の先制攻撃」を持ち出し、国際社会を脅かすに至った。

▲写真 在韓米軍を訪問する韓国のユン・ソクヨル大統領(2022年4月7日、韓国・平沢) 出典:Photo by Staff Sgt. Kris Bonet – U.S. Army via Getty Images

北朝鮮と対峙する米韓は「対金正恩戦略」を緻密に早急に再構築し、現実的かつ賢明な対応戦略を立てなければならない。これ以上「金日成の遺訓」や「金正恩の非核化への意志」などとするまやかしの主張に期待をかける愚を犯してはならない。

共同の核脅威にさらされている唯一の核被爆国である日本も、核の先制攻撃に対する対応を強化する必要が高まった。さらなる米韓との安保共助と金正恩の二枚舌に振り回されない断固とした政策の構築が求められる。

トップ写真:肥料工場の完成式典に出席する北朝鮮の金正恩総書記が映るテレビニュースを見るソウル市民(2020年5月2日、韓国・ウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."