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.国際  投稿日:2023/5/2

バイデン氏、大統領選出馬を揶揄される


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#18

2023年5月1-7日

【まとめ】

・29日、恒例のホワイトハウス記者会主催夕食会が開催された。

・この会で大統領はメディアと野党をこき下ろし、コメディアンはワシントンを笑い飛ばす。

・コメディアンが「80歳の老人があと4年働きたいと国民に懇願している」と述べ、大爆笑。

 

まずは今週の日本と世界の動きから。前回申し上げたように、この項では毎週の動きを分析する欧米の各種ニュースレターの中から興味深い点を抜き出してご紹介している。欧米の国際問題専門家たちは以下の視点から国際情勢を見ている、ということである。ご参考まで・・・。

残念ながら、日本の首相、外相のアフリカ、中南米訪問は、筆者は極めて重要だと思うのだが、英語圏ではほとんど紹介されてない。

5月1日月曜日 国連事務総長が各国アフガニスタン特使を集めた会合を主催

【アフガニスタン情勢は日に日に悪化しているが、同国での人権侵害や女性迫害などに十分な光が当たっていない、ということなのだろう。世界の関心はウクライナに移ったままだが、2021年8月15日以降のカブール陥落と空港での大混乱を我々は忘れてしまったのか?僅か2年前の出来事なのに・・・・。】

5月2日火曜日 豪首相が英国訪問(6日まで)

【豪と英といえば太平洋戦争での同盟国。歴史は繰り返さないが、時に韻を踏む、とはこのことだろうか?】

5月4日木曜日 欧州委員会European Commissionがthe Brussels Economic Forumを主催、ドバイでは国際女性サミットGlobal Summit of Womenが開催され、独首相はエチオピアとケニアを訪問

【今年のフォーラムではウクライナ戦争再発後の欧州経済、特にエネルギー問題が議題の一つとなろうが、欧州が決して一枚岩ではないことが露見しなければ良いのだが・・・・。ドバイで女性サミット?何かの間違いではないのか。岸田首相だけでなく、ドイツ首相もアフリカを重視しているのは、単なる偶然か?】

5月5日金曜日 ブラジル大統領が訪英

新任ということもあり、ブラジル大統領が精力的に海外出張している。左派政権という負い目を払拭すべく、頑張っているのだろうか。しかし、問題は海外出張の回数ではなく、新政権の政策の中身である。このことだけは忘れてほしくない。

5月6日土曜日 英国王戴冠式

チャールズ国王、と聞いても、正直なところあまり感動は湧かない。多くの英国民も同様ではなかろうか。しかし、この程度のスキャンダルはこれまでも英国王室にはたくさんあった。それでも英王室は続くのだろう。これが英国民の叡智なのだから。】

5月8日月曜日 大地震後発令されていたトルコの緊急事態宣言が終了

【筆者の関心事は非常事態宣言よりも、5月14日に予定されている大統領選挙の行方である。エルドアン大統領ら数人が立候補を表明しているが、エルドアンは通貨リラの暴落によるインフレ、物価高やトルコ・シリア地震の対応が批判され、野党6党が推す対立候補に支持率でリードを許しているらしい。20年以上権力を維持してきたこの剛腕政治家は再び勝利できるだろうか。エルドアンよりも、トルコの民主主義にとって、最大の試練となるだろう。】

さて、先週筆者が注目したのは4月29日、ワシントンヒルトンのボールルームで開かれた恒例のホワイトハウス記者会主催夕食会である。最初の開催は1921年だからもう100年の歴史があるワシントンの伝統行事だが、これが普通の夕食会とは全く違うのだ。一体どこが違うのか?

目玉は現職大統領と有名コメディアンによるスピーチだが、この日ばかりは日本語の「無礼講」に近く、軽妙なジョークと辛辣な皮肉に富むスピーチの応酬となる。大統領はメディアと野党側をこき下ろし、コメディアンはワシントン全体を笑い飛ばす。いつもなら大統領と記者の真剣勝負となる集まりが、この日ばかりは爆笑に次ぐ爆笑だ。

この如何にもアメリカらしいこのイベントを筆者は毎年楽しみにしており、今回もCNNの生中継を見ていたが、今年は7年振りで現職大統領が冒頭から出席するというフルバージョンとなった。2017年からはトランプが出席を拒否し、2020年、21年はコロナ禍で中止、昨年も大統領は食事には参加しなかったからだ。

詳細は産経新聞に書いたので、連休中お時間があればご一読願いたい。筆者の英語はネイティブではないが、ネイティブでも意外に難儀するのがジョークである。大学時代、ミネソタ大学に留学していた頃、ルームメートのアメリカ人に「テレビのコメディの理解には連続5年アメリカに住まなければダメ」と言われたのを今も覚えている。

これが正しいとすれば、ホワイトハウス記者会主催夕食会でのジョークを楽しむにはワシントンに最低5年住んで、そこから見たアメリカの内政外交を知る必要がある、ということだ。その意味で、この夕食会でのジョークを一発で、かつ心の底から笑えるか否かは、過去20年間、筆者の英語力向上を測るメルクマールとなっている。

〇アジア

先週のパラグアイ大統領選挙で台湾との外交関係維持を表明する候補が当選確実となった。パラグアイといえば南米で唯一、台湾と国交を結ぶ国だが、台湾はこれで一安心という訳にはいかない。3月にはホンジュラスが中国と国交を樹立したばかり、中国の攻勢とアメリカの苦悩は続くだろう。

〇欧州・ロシア

先週末、ウクライナ大統領は「主要な戦闘が控えている」「我々は陸海ともに全ての国境を回復しなければならない」と述べ、ウクライナ軍が計画する大規模な反転攻勢の開始が近いことを示唆した、と主要メディが報じ始めた。一説には5月15日とも噂されるが、これが関ヶ原の戦いとなるか否か、世界中が固唾を飲んで見守っている。

〇中東

4月15日から軍とRSF間で武力衝突が続くスーダンで双方が更に72時間の停戦期間延長に合意したというが、当然、国内各地での戦闘は収まっていない。この種の状況では、停戦は「態勢立て直し」の準備期間であり、本気で戦闘を止める気はないのが普通である。それにしても、中東での民主化努力とは、何と儚いものなのか。

〇南北アメリカ

バイデン大統領が遂に「再出馬」を表明したが、米世論は冷めている。冒頭ご紹介したホワイトハウス記者夕食会で有名コメディアンは、フランスでの年金支給年齢引き上げ騒動に引っ掛けて、「アメリカでは80歳の老人があと4年働きたいと国民に懇願している」と述べ大爆笑となったが、こんなことを公の場、しかも現職大統領の前で言える社会はまだまだ健全である。

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ホワイトハウスでスピーチを行うジョー・バイデン米大統領(2023年5月1日アメリカ・ワシントンDC)出典:Photo by Alex Wong/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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