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.社会  投稿日:2023/6/15

「マイナンバーカード・トラブル」①早い者勝ちマイナポイントで申請者が殺到し混乱


渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)

渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」

【まとめ】

・マイナカードのトラブルの多くは人為ミスだがシステム不調は見直しが必要。

・来年秋の健康保険証廃止まで、トラブル解決の道筋は不透明。

・アメとムチ使い分けで普及率はアップしたが、国民目線の再点検が必要。

 

■ 証明書公金口座マイナ保険証、マイナポイントなど軒並みトラブル

マイナンバーカードのトラブルはコンビニの別人証明書交付、公金口座の別人家族への誤登録、マイナ保険証のシステム不調や、誤った他人の医療情報表示・閲覧、マイナポイントの別人へのヒモ付け、と続いている。

「早い者勝ちでマイナンバーカードポイントがもらえる」、とカード申請・登録者が殺到してスマートフォンやパソコンのデータの処理、自治体窓口、健康保険組合でのログアウト忘れや誤入力などが続出して大混乱しているのが原因だ。

数字や個人データの誤入力、ログアウト忘れなど人為的ミスがほとんどだが、コンビニの誤交付、マイナ保険証についてはシステムの根本的な科学的点検が必要だ。

中央官庁の政治・行政的なタテ割り構造が影を落としている。公金口座、マイナポイントは総務省、マイナ保険証、年金は厚生労働省、本来、マイナカードの総元締め的役割のデジタル庁が、各担当官僚、大臣がタテ割り式に釈明を続けてきた。

■ 岸田首相「申し訳ないが、カードはデジタル社会のパスポート」

国民生活の暮らしや生活、健康に関わる重要なテーマがまさにテンコ盛りになっている。今後の問題点や課題を、改めて整理したい。

マイナンバーの利用範囲を拡大する改正法が国会で成立、現在の健康保険証が2024年秋に廃止されマイナ保険証に一体化される。最も深刻なのが、この道筋が迷走していることだ。

 今回のトラブルが大きく表面化する前の2021年10月から22年11月末までに全国で誤入力・登録が、7312件あった。新たに60件が追加された。他人の医療情報を閲覧できた4件も含まれる。

さらに現在の保険証からマイナ保険証への切り替え登録のタイムラグにより、病院窓口で①(現在の紙の健康保険証も所持していれば問題なしだが、)マイナ保険証の資格確認などが出来ずに3割負担が10割負担支払いになった(893件)②システムサポート窓口のマイナポータルで他人の年金情報を閲覧できた(1件)などの届け出が、明らかになった。

公金口座の誤登録が748件、本人口座ではない家族への登録が13万件、マイナポイントの別人への付け替えが133自治体173件もある。

6月12日、衆院決算行政監視委員会で、岸田首相が答弁してトラブルの全体像や今後の課題が明らかになった。国会で立憲民主党の委員は「政府は、これまでどんな対策を講じて来たのか」と質問した。これに対し岸田首相は「マイナンバーカードはデジタル社会のパスポートであり、普及は重要だ。ご心配をかけて申し訳ない。再点検を指示している。」と述べた。

世界のデジタル化やキャッシュレス社会に、日本が後れを取っていることは明らかだ。マイナンバーカードの必要性は、国会の野党質問でも明らかなように大方の人が認めるだろう。

■ 普及率アップしたが、「マイナポイント」が「マイナスポイント」になった

政府は2015年に12桁の数字、マイナンバー(社会保障・税番号制度)を通知し、2016年1月からカードの交付が始まった。しかしなかなか普及が進まず、普及率が20%台にとどまった。

普及の推進策として2020年9月、マイナポイント事業が始まった。当初はカード登録で5,000円から、2次分で今年の2月末までに申請すれば、公金口座とマイナ保険証の登録で各7,500円計2万円分になった。

これが申請数の増加に一気に火を付けた。いわば早い者勝ちでアメをぶら下げたのがマイナポイントだ。

アメとムチの使い分け政策も取った。医療機関の外来窓口初診で、マイナ保険証はわずかながらの割引で、現在の保険証を利用するとわずかに診療費がアップする。

もっと前面に出したのが、普及率の低い自治体に対して地方交付税の算定に差をつけること。逆に上位の自治体は加算する。

東京や首都圏、関西など大都市圏に企業や人口が多く集まり、税収入も多い。地方交付税は、地方との税財源の不公平を平準化するために、政府が地方の財政需要に応じて配分する、いわば地方独自のかけがえのない自主財源だ。

それに差をつけるのは地方分権に対する圧力になる、と一部の知事や市町村長は反発したが、中小市町村の首長の中には、カードの登録支援出張サービス、独自のポイント制、特定の行政サービスをカード登録者に限定するなどで普及率に力を注いだ。財政難に苦しむ地方にとっては、背に腹は代えられない面もあっただろう。

その結果、カード取得普率はコロナ前の20%から77%にまで跳ね上がった。しかし反作用でトラブルが相次いでいるのは、現在の状態を見れば明らかだろう。

マイナポイントだけでも約2兆円の国家予算を費やした。今後、政府はシステムなどの修正・是正策には追加の巨額経費が掛かるだろう。金銭面だけでなく、失った信頼性など損失額は計算できない。

岸田内閣は広島サミットで好感度が上がったが、やや支持率が下がった。原因は親戚の官邸内忘年会など他にもあるが、マイナカードトラブルで約7~8割の国民が信頼性に疑問符を付けた。早い者勝ち「マイナポイント」で、申請者が増えて混乱したので、それが政権の「マイナスポイント」になった。

しかし後戻りはできない。本当に深刻なのは、マイナ保険証が来年秋までにトラブルが解決し、安心して使えるようになるのか、まだその先が見えにくいことだろう。

迷走解決に向けた政府の実行力が問われている。さらに詳しく、国民目線からも問題・課題を再点検したい。

(次回に続く)

トップ写真:マイナンバーカードと保険証の一体化について考えるシニア女性のイラスト 出典:ringo sono / Getty Images Plus




この記事を書いた人
渋川智明東北公益文科大学名誉教授

東北公益文科大学名誉教授。


早稲田大学卒業後、1971年、毎日新聞入社。東京本社社会部編集委員(厚生労働担当)。2005年、東北公


益文科大学公益学部(山形県酒田市)教授・公益学部長、大学院(山形県鶴岡市)公益学研究科長。


 定年退職後、法政大学社会連帯大学院、目白大学生涯福祉大学院非常勤講師を経て現


在は専門学校・社会医学技術学院=東京都東小金井市=講師(非常勤・社会保障論)。


 著書「福祉NPO」(岩波新書)、「介護保険活用ガイド」(保健同人社)、「賢い


患者になろう」(実業之日本社)「ソーシャルビジネスで地方創生」(ぎょうせい)=


以上単著、「認知症対策の新常識」(日東書院・共著)等。

渋川智明

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