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.国際  投稿日:2023/7/22

米中新冷戦とは 中国軍事研究の大御所が語る その2 「文明の衝突」なのだ


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「中国との対立は文明の相違が大きい」。

・米中は「民族、社会、歴史、文化、伝統を総合した文明が異なる」。

・「習主席も『中国は西側とは異なる例外的な文明を有している』と述べている」。

 

古森義久――アメリカにとって旧ソ連との対立と、中国との対立と、どこか異なるのでしょうか。

マイケル・ピルズベリー 「私はソ連との対立はイデオロギーが主因だったけれども、中国との対立は文明の相違が大きいと考え始めています。中国はソ連と同様、マルクス・レーニン主義、つまり共産主義の国家だから民主主義や人権も認めず、アメリカとは衝突する、という認識がイデオロギー対立ということですね。

しかしその一方、中国とアメリカとでは、文明が異なる。民族、社会、歴史、文化、伝統などを総合した文明が異なることが対立の主因なのだとする考察があります。おそらくまだ少数派でしょう。だが私はそちらに傾いています。

ソ連とではイデオロギーは違っても、同じ西洋文明や歴史認識の範囲内にあった。しかし中国はその範囲の外にある、という見解です。ただしこの考察には人種という要素がからむので、微妙な側面があります。

かつてトランプ政権で国務省の政策企画局長という要職に民間の学界から登用されたカイロン・スキナーという優秀な国際政治学者がいました。黒人の女性でした。このスキナー氏が2018年9月にメディアとのインタビューで米中対立について『アメリカとして初めて白人ではない大国と一対一の対決をするにいたった』と述べました。

中国人は人種だけでなく世界観、社会観、歴史観などでアメリカとは違う、つまり文明が異なるのだ、という趣旨の発言でした。しかしこの発言が当時のマイク・ポンぺオ国務長官らの不興を買いました。『白人ではない』という表現が人種差別につながるという反発でした。結局、スキナー氏は辞職させられました。

いわば真実を語った学者をポンぺオ長官らがなぜ除去したか。それには中国への警戒の構えを全米的にとらせるには、共産主義との闘いにすることが容易だという要因がありました。

 しかし米中間の文明の違いが対立の原因の大きな部分だとする思考はいまの米側の中国研究者たちの間で広まっています。連邦議会の上院外交委員会で活躍するマルコ・ルビオ議員も米中対立は文明の衝突だと論じるようになりました。

そして中国側でも習近平主席らが『中国は西側とは異なる例外的な文明を有しているのだ』とよく述べています」

 ――しかしピルズベリーさん、あなたの中国研究も1970年代からだから長いですね。スタンフォード、コロンビア両大学で学び、中国語をマスターし、人民解放軍の内部文書などを精読してその戦略を読むという手法も一貫している。そして大胆で率直な発言でも知られています。

思えば私が初めてあなたに会ったのは1978年でしたね。当時のカーター政権時代、あなたは上院予算委員会の補佐官で、東京に視察にいきました。日本側の安全保障政策関係者たちと面談するうち、『いまのマイク・マンスフィールド駐日大使はワシントンの国政状況をよくわかっていない』という趣旨の発言をした。

その発言は同席していたアメリカ大使館員によって大使に報告され、激怒した大使は上院でのかつての仲間のエドモンド・マスキー予算委員長に連絡して、ピルズベリー氏を解雇する措置をとらせた。こんな出来事が起きたので、私はワシントンに戻ったあなたに取材のため会った。こんな経緯でしたね。東京での出来事はあなたの率直な発言の一例だったのでしょうか。

 「そう、古森さんは当時、毎日新聞のワシントン特派員でしたね。あの事件は中国とは関係がなかったけれども、よく覚えています。おたがいに若かった。その後は中国問題を通じて、あなたとよく顔を合わせるようになりましたね」

(つづく。その1こちら

**この連載は月刊雑誌「正論」8月号掲載のインタビュー記事「米国の過ちは抗議だけで対中政策を変えなかったこと」の転載です。

トップ写真:ピルズベリー氏とトランプ前米大統領 ⒸMichel Pillsbury HP




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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