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.国際  投稿日:2023/7/25

米中新冷戦とはー中国軍事研究の大御所が語る その5 中国を抑える48の具体策


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

ヘリテージ財団、対中国抑止強化48の具体策を打ち出した。

・核抑止の強化、中国の台湾威嚇の阻止などの具体的措置を明示。

・台湾は自国領とする中国の主張にアメリカは同調していない。

 

古森義久――ではアメリカ側としてはどんな具体策を講じるべきだと思いますか。

マイケル・ピルズベリー 「それこそまさに今回、ヘリテージ財団から私の提言も大幅に含めて発表した調査報告書が指摘する諸点です。『新冷戦に勝つ・中国に対抗する計画』と題する報告書はアメリカの政府や議会に対する勧告として合計48の具体策を提示しています。

その提言はアメリカの国土防衛、経済繁栄、防衛強化、中国の影響工作防止、地球規模のリーダーシップという5分野にわけて、それぞれの分野で法律や政令、行政指導その他の具体的な方法で中国への抑止を強めることを意図する合計48の具体策を打ち出しています。

たとえば中国資本によるアメリカ国内の土地の購入の監視、アメリカ経済の強化、核抑止の強化、とくに同盟国への拡大核抑止の明確化、中国の対米文化工作の制限、中国の台湾威嚇の阻止など、みな具体的な措置です。

この報告書とは別に私自身がまた新たな本を執筆中で、そのなかでもアメリカ側の対中の抑止や監視の強化策を提案するつもりです。そしてその提案を2年後に個別に点検して、どこまで実行したかを調べることを提案します」

――しかしこの米中新冷戦についてはその冷戦が熱い戦争になってしまう危険性が最大の懸念の対象です。その軍事衝突の危険はまず台湾有事でしょうね。中国がその台湾問題でいつも強調する主張が一つの中国」原則です。

その原則なるものは「台湾は中国と一体であり、中華人民共和国に帰属する」という骨子です。しかしアメリカはこの原則に従っているわけではないですね。

重要な点は、台湾が中国の一部だとはいえないということです。アメリカ政府は台湾が中国に帰属するとは認めていません。この点は古森さんも知っているでしょう。

日本の統治が終わった1945年以降はアメリカが暫定的に台湾を占領していました。1951年のサンフランシスコ対日講和条約で日本が公式に台湾を放棄した。中華人民共和国を含めてどこか特定の国に台湾を譲ったわけではない。

その後の米中和解に際して、アメリカ側は『我々は台湾が中国の一部だとはみなさない』と中国側に内々に伝えました。『だがそのことには触れない』という約束でもありました。同時にアメリカ側は中国が台湾を自国領だとみなす、その主張は認知している、とも伝えました。

しかし中国の主張をアメリカが受け入れたわけではない。つまり中国側の『一つの中国』原則をアメリカがそのまま受け入れたわけではないのです。

しかしアメリカは台湾を独立国家とみなすことは止めて、政府扱いしなくなりました。その後はアメリカは台湾には軍隊を駐留させない。台湾軍との合同の軍事演習もできない。台湾軍との直接の交信もできない。という状態となり、現在にいたっています。

当時、アメリカは台湾から核兵器をも撤去しました。台湾に米軍の核兵器があったことはあまり知られていないでしょう。でも中国は知っていた。そしてその撤去を求めたのです。

しかしアメリカにとって台湾は独立国家ではないからその代表の蔡英文総統のような人物も首都ワシントンには招かない。カリフォルニアでマッカーシー下院議長が同総統と会談するだけです。だが重要な点はアメリカが台湾は中国に帰属するという中国側の主張に決して同調はしていない、ということなのです」

(その6につづく。その1その2その3その4

**この連載は月刊雑誌「正論」8月号掲載のインタビュー記事「米国の過ちは抗議だけで対中政策を変えなかったこと」の転載です。

トップ写真:中国に最も近い台湾の金門島の烈嶼郷(小金門)で警戒にあたる台湾軍兵士。遠方に見えるのは中国・厦門(2021年2月3日 台湾・烈嶼郷)出典:Photo by An Rong Xu/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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