中国上半期の経済統計を読む
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・中国国家統計局、「今年上半期国民経済は回復傾向にある」と主張。
・米の計算方法によると、中国の今年第2四半期GDPは第1四半期と比べ0.3%減少したことになる。
・累積赤字が更に増大し財政破綻危機を迎えるかもしれない。
今年(2023年)7月17日、中国国家統計局は、同国経済の主要数字を発表(a)した。当局は「今年上半期国民経済は回復傾向にある」と主張しているが、実際はどうだろうか。
本稿では、まず、第1に、中国のGDPの計算方法について考えてみたい。
周知の如く、中国の場合、経済成長は大部分国家に依存しており、米国の経済成長は大部分民間に依存(b)している。
2021年、米国の消費はGDPの82.6%を占める。内需は米国経済の核心である。一方、2021年、GDPに占める中国の消費の割合は54.3%(政府15.9%+国民38.4%)だった。
これは、OECD加盟国平均の77.3%(政府18.3%+国民59%)を大きく下回り、世界平均の72.0%(政府17.1%+国民54.9%)よりも下回る。
中国国家統計局は、今年第2四半期のGDPは第1四半期と比べ0.8%増加したと強調している。
米国の計算方法(物価変動要因がないとする)によると、中国の第2四半期のGDP比は次のように変わるだろう。若干、煩雑だが、その計算方法を説明したい。
実は、今年第2四半期は91日だったが、第1四半期は90日である。前者は第後者と比べ、91/90倍=101.11%と1.11%多かった。
米式計算式の場合、(1+増減した四半期GDPの%)÷(1+{[同四半期日数÷前四半期日数]-1}) -1が「“真”の増減した四半期GDP」となる。これを、中国に当てはめてみると以下のようになるだろう。
(1+0.8%)÷(1+{[91÷90]-1})-1
= (1+0.008)÷(1+0.0111)-1
=(1.008÷1.0111) -1=-0.3%
つまり、米国の計算方法に従えば、中国の今年第2四半期のGDPは第1四半期と比べ0.3%減少したことになる。中国当局の主張とは異なる結果となった。
第2に、近年の中国GDPの「図表1」を作成してみたい。
その前提として、中国共産党が数字に一切手を加えず、正確なモノを公表していると仮定する。
普通、先進国の投資は「民間投資」に限られる。ところが、中国の統計は、先進国とは違って、投資の中に政府による投資も入る。本稿では、GDPは季節変動要因を捨象し、速報値で計算する。
更に、ここでは、今年(2023年)の上半期と下半期の伸長が全く同じだと仮定しよう。そこで、今年上半期の各数字を2倍にして、今年全体を予測した。
この図表から得られる特徴は、以下の通りである。
まず、今年のGDPは昨年よりも縮小する公算が大きい。たとえ、同じ程度の数字だとしても、事実上、GDPは縮小したと考えられよう。
今年全年で、中国経済の主力である投資が減少する可能性が高い。これは、(1)投資の柱の一つである不動産開発投資が振るわない、(2)民間企業の投資が伸び悩んでいる、(3)外資が中国から逃避している等の理由からではないか。
ここで、不動産開発投資の「図表2」を見てみよう。実際、1年以上、マイナス成長を続けている。特に、今年第2四半期、4月は前年同月比で—16.2%、5月は-38.7%、6月は—20.6%と最悪の状態と言っても決して過言ではない。
その代表例を挙げるとすれば、中国恒大だろう。同社は巨額の債務(d)を負っている。ただ、「中国恒大は、香港の裁判所側から債務再編計画の採決の承認を得ている」(e)という。
次に、近年、消費が横ばいである。中国経済全体が不振なので、消費が伸びないので、当然かもしれない。
そして、今年の貿易黒字も前年と同じ、あるいは、もしかしたら、前年よりも小さくなる恐れがある。
更に、政府支出だが、中国当局は、明確な数字を公表していない。そこで、ここでは、GDP-(投資+消費+貿易黒字)で、「理論上の政府支出」を算出した。この数字を見ると、この「理論上の政府支出」が年々、増加している。
ちなみに、既述の通り、中国の場合、消費の中にも政府支出が入る。投資も政府が半分近く投資している。
今年上半期で、投資は24兆3113億元(c)だった。そのうち、民間投資は12兆8570億元である。したがって、政府投資は、11兆4543億元(全体の47.1%)となる。
そうでなくとも、中国財政累積赤字は、GDPのおよそ300%以上と言われる。更に、累積赤字が増大し、財政破綻危機を迎えるかもしれない。
〔注〕
(a)『国家統計局』
「上半期国民経済は回復傾向」
(2023年7月17日付)
(http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202307/t20230715_1941271.html)。
(b)『中国瞭望』
「中国の上半期経済報告発表、米国人はどう計算するか?」
(2023年7月17日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/07/17/2627604.html)。
(c)『国家統計局』
「2023年上半期の全国固定資産投資は3.8%増」
(2023年7月17日付)
(http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202307/t20230715_1941270.html)。
(d)『中国瞭望』
「史上最高額! 中国恒大の負債額はロシアに匹敵、世界最高記録」
(2023年7月20日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/07/20/2628911.html)。
(e)『新浪財経』
「中国恒大、2兆4000億米ドル超の負債を公表後 昨日、許家印が不動産引き渡し会議の議長を務める」
(2023年7月25日付)
(https://finance.sina.com.cn/jjxw/2023-07-25/doc-imzcwxhr7907040.shtml?cref=cj)。
トップ写真:中電 上海(イメージ)
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。