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.国際  投稿日:2023/8/15

北朝鮮、中・ロ後ろ盾に対韓国攻撃態勢強化


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・ロシア国防相を異例の待遇。金正恩が中・ロとの同盟を誇示。

・金正恩が武器増産を指示。ソウルを指し「攻勢的戦争準備」を指示。

・北朝鮮、来年の韓国総選挙などでサイバー心理戦を展開、混乱引き起こす可能性。

 

北朝鮮は、7月に開かれた韓米核協議グループ(NCG)会合と、それと前後した韓米の合同軍事演習、特には「金正恩除去作戦」に対して、極度に神経を尖らせ、その対抗策に注力している。

金正恩、停戦協定70周年で中・ロとの同盟を誇示

北朝鮮は、日増しに強まる米韓の軍事的圧力に対抗するために、「停戦協定(北朝鮮では戦勝記念)70周年」にあたる7月27日には、後ろ盾の中国(代表団団長・李鴻忠政治局員)とロシア(代表団団長・ショイグ国防相)を迎えて軍事パレードを行い、米国の無人機そっくりの無人偵察機や無人攻撃機を見せつけた。しかし5月31日の軍事衛星打ち上げ失敗が影響してか金正恩の演説はなかった。

ここで注目すべきは、ロシア国防相のショイグを国賓待遇で招待したことだ。通常ならば、北朝鮮の国防相が対応すべきであるが、はじめから最後まで金正恩が直々に接待し、ショイグ訪朝に合わせて「武器展示会」まで準備した。

この狙いについて、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は8月3日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが、北朝鮮から武器を購入することが目的だったと指摘した上で、「ロシアは砲弾の購入などを通じて北朝鮮との軍事協力を強化することを目指している」と述べた。

■金正恩、武器生産増強を指示し、またもや総参謀長を交代

朝鮮中央通信は8月6日、金正恩が3~5日に、巡航ミサイルや無人機(ドローン)のエンジン生産工場などの重要軍需工場を視察し「戦争準備の質的水準は軍需産業の発展にかかっている」と述べたと伝えた。

この視察で金正恩は「超大型大口径放射砲」(多連装ロケット砲)の砲弾やミサイルの移動式発射台(TEL)の生産で成果を上げていると「高く評価」し、狙撃兵器についても「現代化することは、戦争準備において最も重大かつ早急な問題だ」と語り、狙撃用のライフル銃を試射する姿まで見せつけた。

この視察には、金正恩の妹、金与正らが同行したが、注目すべきは、昨年12月に、党中央政治局常務委員兼書記と党中央軍事委員会副委員長を解任された朴正天(パク・ジョンチョン)も同行していたことだ。しかし現在の役職は明らかにされなかった。

金正恩は11~12日にも、戦術ミサイル、戦術ミサイル発射台付き車両、戦闘装甲車、大口径操縦放射砲(多連装ロケット砲)の各生産工場を視察したと朝鮮中央通信は報じた。

また金正恩は、8月9日に開催された党中央軍事委員会8期7回拡大会議で、「戦争準備を攻勢的に」準備し、軍需工業部門のすべての工場と企業所で、軍の作戦需要に応じて各種の武装装備の大量生産を本格化する必要があると強調した。

会議では、朴寿日(パク・スイル)大将を軍総参謀長から解任し、李永吉(リ・ヨンギル)次帥を後任に任命した。李永吉が総参謀長に任命されるのは2013年と2018年に続き今回が3回目だ。彼は5年周期で総参謀長に任命されている。この総参謀長交代について韓国政府関係者は「回転ドア人事それ以上でも以下でもない」とコメントした。

■金正恩、ソウルを指さして「攻勢的戦争準備」を指示

金正恩は、党中央軍事委員会拡大会議で、戦争準備をさらに徹底して行うための攻勢的な軍事対応案を決定したが、これは、8月21~31日に予定されている韓米合同軍事演習「乙支フリーダムシールド(UFS)」などを念頭に、挑発的な軍事行動の準備に乗り出したものと推測される。

この会議で金正恩は「敵の軍事力使用を事前に制圧し、戦争発生時の敵による様々な形の攻撃行動を一斉に消滅させるための基本は、強い軍隊が準備されていることだ」と述べ、大型の韓国地図を横に立て、ソウルと鶏竜台(韓国軍司令部がある場所)周辺を指さす様子を見せつけ、韓国を脅迫するメセージを送った。

党中央軍事委員会拡大会議ではまた、来月9日の北朝鮮政権樹立75周年に「民間兵力軍事パレード」の開催を予告した。北朝鮮は、今年2月8日の「建軍節」75周年、先月27日の「戦勝節(停戦協定締結日)」70周年と合わせて、建国75周年を今年の3大イベントと定めている。韓国政府は北朝鮮が軍事パレード開催を事前に公表したこと、また1年に3回も軍事パレードを開催することについて「異例」と認識している。

その一方で、金正恩は、6月末に、金英哲(キム・ヨンチョル)を統一戦線部顧問として再度起用し、韓国社会の混乱、国政妨害など対南工作の強化を指示したようだ。金英哲は、哨戒艦「天安」爆沈事件、延坪島砲撃など軍事的挑発だけでなく、2009年のサイバー攻撃、11年の農協電算網破壊などを主導した人物だ。

韓国政府は、金正恩が金英哲を司令塔として、来年の総選挙など韓国政治の日程に合わせてサイバー心理戦を展開し、韓国社会の混乱を引き起こす可能性を考慮して、その備えに乗り出した。

トップ写真:北朝鮮の金正恩総書記(2018年9月19日平壌)出典:Photo by Pyeongyang Press Corps/Pool/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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