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.国際  投稿日:2023/11/26

金正恩政権、対中従属強化で生き残り目指す


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・軍備最優先政策、新型コロナで北朝鮮経済は疲弊、中国依存高める。

・中国は経済鈍化でも北朝鮮支援強化。金正恩は中国依存強化により生き残りを画策。

・北朝鮮は中国の属国に成り果て、中国は対米軍事戦略に北朝鮮を組み込んだ。

 

金正恩は、2021年1月に党第8回大会を開催し、7回大会で提示した「国家経済発展5カ年戦略」の失敗に懲りずに、またもや主観的願望に満ちた新たな「国家発展5カ年計画」を提示し、4年目を迎えようとしている。

その中心は、食糧増産と「国防5カ年計画」で示した核ミサイルの強化を始めとした最新軍事武器の開発であった。しかし、食糧増産政策はすでに破綻している。

目玉の「国防5カ年計画」も思い通り進んでいない。核の小型化を進めるための核実験は行えず、SLBM発射潜水艦の建造も、旧ソ連時代のロメオ型潜水艦を改造した急拵えの「フランケンシュタイン型潜水艦」の建造にとどまった。金正恩が米韓に対抗するために急いでいた軍事衛星発射は、2回も失敗を重ね、3回目で(11月22日0時からとしていたものを11月21日22:43に前倒して)ようやく発射させた状況だ。

金正恩の「軍事オタク」とも思える「軍備最優先政策」は、北朝鮮経済を一層疲弊させ、中国への依存をますます高めている。

■ マイナス成長続く北朝鮮経済、住民の飢餓が蔓延 

軍事偏重路線が続く中、北朝鮮経済は、金正恩が権力を継承した2011年末以降、一時期好転したものの、国連安保理制裁の強化や新型コロナ防疫のための鎖国政策、そして相次ぐ干ばつや豪雨によって瀕死の状態となった。

韓国銀行によれば、北朝鮮の実質国内総生産(GDP)の成長率は、2020年が前年比マイナス4.5%、2021年が同マイナス0.1%だった。2022年もマイナス成長が続いた。韓国銀行は、北朝鮮の2022年の実質国内総生産(GDP)が前年より0.2%減だったとの推計を発表した(7月28日)。 3年連続のマイナス成長で経済の苦境が続いているが、今年の状況も大きな変化はない。

米農務省が今年9月発表した報告書では、今年の北朝鮮の米収穫量の推定値は210万トンだ。1ヘクタールあたりの収穫量は4.188トンで、過去5年間の平均値4.62トンよりさらに減少している。一方で、トウモロコシの生産量は230万トンで、1ヘクタールあたりの収穫量は3.93トンで例年の水準を維持した。しかし、これでは目標はもちろん、年間需要量の575万トン達成も絶望的だ。

北朝鮮は、今年1-9月、中国からコメ7108万ドル(約106億円)分を輸入し、前年同期(566万ドル)比で13倍増やした。国連安保理の北朝鮮制裁委員会によると、安保理の決議に基づき輸入量が年間50万バレルに制限されている原油も、中国はすでに今年1-4月に78万バレルを北朝鮮に供給したと推定される(中央日報日本語版2023/11/4)

■ 中国依存強化で生き残りめざす金正恩

中国は、「コロナゼロ政策」の後遺症と不動産バブルの崩壊で、経済が壊滅的な打撃を受け、経済状況が20年前に逆戻りしているが、金正恩支援を強化している。

習近平政権は、在中国北朝鮮製造業企業に軍需特需を与えて金正恩の懐を潤わせた。在中国北朝鮮製造業労働者は通勤ではなく、寄宿舎生活で統制されていたために、コロナ閉鎖で中国企業が稼働停止していた中でも稼働が可能だった。習近平は、国連制裁をくぐり抜けて北朝鮮支援を強化するため、この在中国北朝鮮企業に、軍人の被服、靴などの軍需特需発注を行い、金正恩を助けたのである。

この北朝鮮企業に中国側が支払った人件費は、一人あたり1か月4000元だが、労働者に支払われるのは、その内1500元だった。労働者はこの1500元から様々な経費を引かれ手元に残るのは700~800元ほどだ。このように金正恩は、派遣労働者への搾取を容赦なく行って、核ミサイル開発の資金に当てた。

こうした派遣労働者に対する搾取の他、金正恩が、中国で外貨を荒稼ぎしているのは、ハッキングによる暗号貨幣の収奪だ。中国には、偵察総局から派遣されたハッキング要員が数千名いるとされているが、中国は、彼らを支援するだけでなく、彼らと共同でハッキングを行っているという。発覚すれば、北朝鮮の犯行と報道されるので、彼らは公然と犯行を重ねているという。

■ コロナ拡散過程で対中従属を深めた金正恩

新型コロナウイルス拡散による朝中関係での最大の変化は、北朝鮮が中国の属国に成り果てたことである。

2019年の米朝ハノイ首脳会談の決裂と、その後の新型コロナウイルス蔓延で窮地に陥った金正恩は、中国に支援を受けるしか生きる道が残されていなかった。北朝鮮は、中国からの支援で生き残り、その見返りとして中国傾斜を深めた。

米中対立が深まると、ミサイル部隊の編成を東西に再編し、西側(黄海側)の部隊を中国防衛用に振り向けた。

今では、軍事面でも中国から多くの支援を受けている。日本のメディアは軍事協力でロシアとの関係を強調しているが、実質的な支援は中国が行っている。中国は自身の対米戦略に北朝鮮を組み込んだと言える。

以上

トップ写真:訪朝した中国の習近平国家主席と握手する北朝鮮の金正恩総書記。中朝首脳会談の様子を伝えるソウル駅でのテレビ放送を見る人々(2019年6月20日 韓国・ソウル)出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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