高まるインドの「宇宙研究熱」
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・インド宇宙研究機構、同国初の太陽観測衛星「アディティヤL1」の打ち上げ成功。
・16日間周回し、太陽の大気「コロナ」の加熱の仕組みを調べる。
・印、月周回有人拠点を含む月探査で日本とも協力する計画。
インドの「宇宙研究熱」がまた高まっている。
インド宇宙研究機構(ISRO)は2023年9月2日、同国初となる太陽観測衛星「アディティヤL1」の打ち上げに成功した。同国は8月に無人探査機「チャンドラヤーン3号」の月面着陸に成功したばかり。矢継ぎ早の成功となった。
太陽観測衛星「アディティヤL1」は約4か月後に地球から150万キロ・メートル離れた観測地点に到達してから16日間周回し、太陽の大気「コロナ」の加熱の仕組みなどを調べることになっている。周回に成功すると、アジアの国として初となる。
ナレンドラ・モディ首相は国威の高揚となる「宇宙産業」重視の姿勢を強めている。
ISROによると、ソ連(現ロシア)、米国、中国に次ぎ月面着陸に成功した「チャンドラヤーン3号」は世界初の月の南極付近への軟着陸ですでに、レーザー光線を使用して硫黄の存在を確認したほか、鉄、カルシウム、アルミニウムの存在も確認した。
「アディティヤL1」はアンドラプラデシュ州シュリハリコタのサティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられた。観測機器は、ISROと他の研究機関が開発した7種類の観測機器を搭載。彩層・コロナの過熱、超高温の電離気体の科学などについて調べることになっているという。
ジテンドラ・シン科学技術相は、‶宇宙探査でのこの9年間の大躍進で、わが国は米航空宇宙局(NASA)やロシア国営宇宙公社(Roscosmos)に伍するまでになってきた“と述べている(タイムズ・オブ・インディア紙2023年9月5日付)。
同相は2021年10月に総人口の40%以上が25歳以下であることを念頭に、‶インドは人口ボーナスに恵まれており、適切な訓練と動機付けであらゆる挑戦に取り組むことができる”とも述べている。
同相は米ペンシルベニア大ウォートン・スクール経営学教授、シンガポールのナンヤン理工大学長などを務めた国際経験が豊富な人でもある。
インドは2014年に火星を周回する衛星でもアジア初を実現しており、来年には月を三日間周回する有人機の打ち上げを行う予定。同国は月周回有人拠点を含む月探査で日本とも協力する計画だ。
トップ写真:サティシュ・ダワン宇宙センター(SDSC-SHAR)から打ち上げられるインド宇宙研究機関(ISRO)の「アディティヤL1」
(2023年9月2日 インド・スリハリコタ)
出典:Abhishek Chinnappa/Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)