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.国際  投稿日:2023/8/31

印、「チャンドラヤーン3号」世界初 月南極付近に着陸成功


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・印、月面探査機「チャンドラヤーン3号」史上初の月の南極近くに着陸成功。

・米航空宇宙局(NASA)の同様プロジェクト予算に比べ「チャンドラヤーン3号」のコストは10分の1。

南極付近で将来有人プロジェクトで必要となる水の元の氷の存在を調査予定。

 

インドが月面探査機の月着陸成功に沸いている。

同国は、ロシア、米国、中国に次ぎ、月面探査機の月面着陸を目指しながらもたもたしている日本をしり目に、この823日に同国の月面探査機「チャンドラヤーン3号」を月に着陸させることに成功した。世界で4か国目の月面着陸成功国となった。しかも、史上初めて月の南極近くに着陸させた。

約800万人がYouTubeのライブ配信を見たとされる。ナレンドラ・モディ首相は訪問先の南アフリカでこの着陸を見届け「これは、新しいインドの夜明けだ」と手放しの喜びようだった。

インド宇宙研究機構(ISRO)は、「チャンドラヤーン3号」は正常に機能し、着陸の翌々日には着陸機のハッチが開き、「ローバー」と呼ばれる車が月面を徐々に走行したと報告。その映像を公開した。8メートルほど移動したという。

▲写真 月面に着陸したチャンドラヤーン3号 出典:インド宇宙研究機構=ISRO

世界での月探査を目的とした探査機の打ち上げは1958年から始まったが、物理的な月の探査は、ソビエト(現ロシア)が1959年に9月14日に宇宙探査機「ルナ2号」を月面に衝突させたことが端緒とされる。以後、ソ連、米国、遅れて日本、中国などが加わり、月の様々な探査を競った。

インドでは、バジバイ首相(当時)が2003年8月15日の独立記念日の演説の中で、「2008年までに月に探査機を送る」と宣言した。インドは2008年11月に「チャンドラヤーン1号」を打ち上げ、11月14日に将来的な軟着陸に向けた技術試験、近距離での月の観測に成功した。2019年には「チャンドラヤーン2号」を打ち上げた。軟着陸には失敗したが、近距離での月の観測には成功した。そして、今回の軟着陸の成功だ。7月14日に南部スリハリコタの宇宙センターから打ち上げられ、8月5日に月周回軌道に入って、23日の軟着陸となった。

▲写真:月への飛行に成功したチャンドラヤーン 2 (Moon Vehicle) (インド、アーンドラプラデーシュ州スリハリコタ 2019年7月22日)出典:Pallava Bagla/Getty Images

インドの誇りはまだある。打ち上げコストが他に比べ安いのだ。

「チャンドラヤーン3号」の打ち上げ予算は約61億5,000万ルピー(7,400万ドル=約107億円)。インドのエコノミック・タイムズ紙によると、米航空宇宙局(NASA)の同様なプロジェクトのコストは「チャンドラヤーン3号」の打ち上げ予算の10倍近い。同3号は同2号に比べても安上がりだったという。

ロイター電は、「チャンドラヤーン3号」の打ち上げ予算は2013年に公開された宇宙スリラー映画「ゼロ・グラビティ」の製作費より安いとしている。

ちなみに、「チャンドラヤーン」はサンスクリット語で「月の乗りもの」の意。「ヤーン」は正確には「ヤーナ」。セイロン島(現スリランカ)からタイなどを経て日本に伝来した仏教が小乗仏教「ヒーンヤーナ」、北伝の大乗仏教が「マハーヤーナ」と呼ばれることはご存じの通りだ。

ローバーは、来月にわたり、月の表面の岩石の組成などを調査することになっている。すでにレーザー誘起ブレイクダウン分光法による機器で硫黄の存在を確認する成果を上げている(タイムズ・オブ・インディア紙2023年8月29日電子版)。南極付近で期待されている、将来的な有人プロジェクトで必要となる水の元となる氷の存在なども調べることになっている。

トップ写真:チャンドラヤーン3号の打ち上げ 出典:インド宇宙研究機構=ISRO




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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